019.爆誕! 獣魔少年少女冒険団!
普通?のファンタジー回。
さらさらと、昔教わったことを思い出しながら木の板に筆を滑らす。
明るい色の木板に、黒い色の線が走り、文字を紡ぎ出す。かすかに鼻に届く香りはこの黒い線の元、炭だ。
炭と諸々を魔法でぐぐっと圧縮し、棒状にした物を水に溶かして使うのだ。
楽に行くなら、既に水に溶かした物を使うといいのだけど、こういう儀式めいた的な物はこっちのほうが雰囲気が出るような気がする。
まあ、完全に自己満足だよな。
「よし、出来た」
「じゅうま……ん、こっちでいいのか?」
筆を置き、短時間だというのに凝った気のする肩をぐるぐると回していると、横合いから疑問を帯びた声が届く。
声の主は一人の魔族。俺よりわずかに背は高く、髪は藍色。
少し長くした髪の毛を後ろで縛り、耳が良く見えるようにしている。
服はややゆったりとしたものであるが、俺にはその下に鍛えられた肉体が隠されていることがわかっている。
顔立ちもよく、いわゆる美青年といったところだ。
「ああ。一番の理由は魔獣、だとなんかわかりにくいなってとこなんだが。
ヴァズも見た通り、魔を先にするとやはり獣人が下なのか、といろんな人に思われそうでね」
俺は木版に書いた、獣魔少年少女冒険団、という文字が乾くのを待つためにも話を続ける。
隠しきれずに表情に俺の気持ちが出ていたのだろう。ヴァズもまた、その美青年な表情を少しゆがめながらも頷いてきた。
「まったくだな。魔王様の教えはどこに行ったのか……情けない話だ」
椅子に座り、そうつぶやくヴァズの言葉には力が無い。
それだけでも彼が本当にそう思ってくれてるのだろうということがわかり、なんだか俺は嬉しい気持ちになってしまうのだ。
「仕方がないさ。魔族も……人間も、良い奴もいればそうじゃないやつもいる。
それにさ、あいつらの言うことも全部間違ってるわけじゃないと思うんだよ」
腕組みしながら1つ1つ、言葉を選んで口にする。
誤解を招きやすい事であり、今もまた、俺の言葉を信じられないという表情でヴァズが見てくる。
「獣人の皆の中には色々と不幸が重なって無力感に苛まれてる人も多いんだ。
だから、保護されているほうが気が楽、って思ってしまう人もいないわけじゃないのさ」
「そういう……ことか。辛い時こそ、互いに手を取り合わなければいけないのにな……」
ヴァズの目には、俺が何かを我慢するような苦い表情になっていることだろう。
ただ、俺は口にしたこと以外にも、ヴァズをだましているのだなと言う気持ちがあった。
彼は魔族の中でも初代魔王の教えをしっかりと引き継いでいる話の分かる魔族だ。
だからこそ、そんな相手を人間の俺がだましているような気になって仕方がない。
いつか、話せる時が来るだろうか? そんなことを考えながら、そもそも木版にこんな文字を書いている原因を思い出す。と言ってもほんの1週間ほど前の事なのだが……。
ミィとイアを連れて、フロルの中心に買い物に来ていた時の事だった。
フロルはあちこちが建築中と既に出来上がってる建物とが混在する、活気をいつでも感じる街である。
昨日まで更地だった場所にいつの間にか仮組でも建物が出来ていたり、来るたびに目新しさがある。
人々の行き交う大通りはその割に汚れておらず、きっと掃除をする担当が決まっているとかそう言ったことがあるのだと思う。
人間も魔族も共通の言葉を使っているためか、看板の読み方に困るといったことも無い。
『お兄様、ここで考え事は危ないわよ』
「そうだよー? コテンってしちゃうよ?」
同じ言葉を使うのに何故排除を目的とした争いが産まれたのか。
そんなことをふと考えてしまった俺をイアとミィがそれぞれに服を引っ張ることで呼び戻してくれた。
そうだ、今日は2人と買い物に来たのだからそちらに集中しなければ。
これまでの狩りや依頼等で溜まったお金はそこそこの物になっている。
贅沢するには足りないけど、ちょっとおやつを買うぐらいなら楽勝だ。
いくつかのお店を冷やかし、あるいは細かい物を買う時間が続く。
ついでにと、手ごろな仕事が無いか、例の建物に立ち寄った時の事だ。
板書や張り紙に目を通す魔族や獣人の人達。
それぞれが武器を腰に下げていたり、作業服であろう薄汚れた衣服に身を包んでいたりと様々であるが、共通しているのは働くという目的への気持ちだと思う。が、今日はそうではない存在がいた。
待ち合わせや休憩にも使われるテーブルの1つに、如何にも戦います、と自己主張する装備をした魔族の若者2人がいた。
街の雑用をするようには……うん、見えないな。
自分達で酒を持ち込んでいるのか、足元にはカラになったであろう瓶がいくつか転がっているし、お互いの手には液体の入ったグラスがある。
まあ、顔も赤らんで魔族の特徴である青みがかった肌はどこかにいってしまっているな。
それだけなら無視していればいいのだが、彼らは近くの獣人、しかも大人ではなく子供に絡み始めたのだ。
「くせーくせーと思ったらよー。獣がいるじゃねえかよ」
「ほんとだな。獣は獣らしく森にいりゃいいんだよ。俺らが狩ってやるからよ」
恐らくは日銭を稼ぐべく自分にもできることをと探しに来たのだろう。
ミィよりは年上に見える獣人の男の子に二人は絡み、彼の耳、狼型……をつかんでよろめかせる。
その光景に獣人の大人たちは色めき立つも手を握り何かを我慢し、魔族の男達はやや冷たい視線を向ける。
が、その若者2人は気が付いているのかいないのか、
なおも獣人の子をからかうようにして瓶を蹴飛ばしてぶつけるようなことまでしだした。
確かに、かつての戦いや現在も続く差別の中、獣人は魔族に救いを求め、魔族は魔王の指示の元、同胞として受け入れた。
ただ、魔族と獣人はそのせいで対等ではないのだ、という考えを持つ人が互いにそれなりにいるのだ。
獣人は魔族への負い目、といったような性格の良さからくる気持ちが。
逆に魔族は保護する側としての……間違った優越感を抱いてしまう人がいたのだろうと思う。
「とっとと出てきな!」
若者の片割れが叫び、獣人の子を蹴り飛ばそうとした時には俺と、もう1人がその足を止めていた。
俺は間に入って受け止めるつもりで、もう1人は直接足を踏みつけることで、だが……。
「何しやがる!」
腰を浮かせてこちらに殴りかかろうとするもう1人。
それなりに腕に自信はあるのか、そこそこの速度でこぶしが襲ってくるが、俺は男の額に指を押し付けるようにしてちょんと突く。
指先に小さく作った魔力障壁が音も無くはじける。
それだけで、男は何かに思いっきり突き飛ばされたように転がって椅子を巻き込み、止まる。
「それはこっちの台詞だな。隣人と語り、笑いあえ。大事なのは肌の色でも血でも、ましてや種族ではない。魔王はそういっていたはずだけどな」
イアや、この土地にきて知った魔王の伝承を口にし、獣人の子らをかばうようにして立つ。
「その通り。魔族と獣人は主従ではなく、共に立つ友人のはずだ」
俺よりやや過激に男の足を止めた相手、それは1人の魔族だった。
しっかりと伸びた背筋はそれだけでも鍛えていることを伝えてくれる。
「ちっ、覚えてやがれ!」
人間も魔族もこういうところは変わらないようで、無事だった男は俺が転がした方を抱えるようにして飛び出していった。
後に残るのは興味深そうに俺達を見る魔族、そして喜びと困惑の混じった視線を向ける獣人。
加えて後ろで何故だかピョンピョン飛び跳ねるミィとイアだった。
その後、割って入って来た魔族の男と語りあうと、その人柄に俺は感動を覚えたのだ。
ヴァズ、と名乗った彼は現状に変化を望む先を見た若者だったのだ。
彼と、ミィとイアも交えての話し合いは思ったより短く、その代わりに非常に濃い物だった。
結果として生まれたのは1つの企画。獣人の子たちと、魔族の子たちによる冒険団を組織してみようという物だった。
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R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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