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182.アイ・マイ・ミィ

気が付けば最終日。


投稿はこれで終わりですが、きっと彼らの人生はまだ続いていくことでしょう。



 かつての戦い、それは誤解と悲しみ、そして生き残りを賭けた戦いだった。

 そして後の世に、再び戦いは起こる。その戦いは……互いに手を取りあう形で終わった。


「っと、こんな感じでいいか?」


「十分。これなら後にも残せるし、多分売れる。きっと子供に寝物語に聞かせるような本になるよ、にーに」


 にこやかに笑い、まだ作ってもいない本の売れ行きについて思いをはせるルリア。随分とたくましくなったというか、立派になった物だと思う。エルフの特性故に、年月の割にほとんど変わっていない見た目、いや……髪の毛も伸ばしてるし、少しすらっと縦に伸びてきたかな?


「人と、魔族と、エルフと……ドワーフも含めてどの大陸でも販売するお話の本、か。確かにこれ以上ない題材か」


「うん。自分たちの力で協力して地上を守る必要があることを残していかないといけないの」


 最近はあちこちで文官としての仕事をこなしているからだろうか。ルリアの喋りもかなり流ちょうなというか、しっかりした物になっている。時折、昔のような人見知りした喋り方が懐かしく感じるのは年月の過ぎた証拠だろうか。

 気が付けば……俺ももう若者から少しはみ出してきた気がするな。


「にーに、ミィちゃんたちは?」


「森に獲物を取りに行ってるんじゃないか? 今日はルリアが来るからって張り切っていたからな」


 頷き、外に一緒に出る。ライネルの村は徐々に大きくなり、今ではレイフィルドと交易をおこなう一番近い港町、なんていう場所にまで成長していた。

 レイフィルド側の北に白竜の住む山脈があるものの、距離としてはこの場所が一番行き来しやすい場所ではあったのだ。

 まだこちらに住む人間、というのはほとんどいないが商人たちは結構出入りしている。お互いの軋轢を減らすため、道中の護衛に獣人のみならず、魔族まで加わるように決まりごとが決まっている。それが決まった当初は本当かどうかわざわざ確かめに行ったものである。


 村の様子もやはり変わっており、どこか素朴で静かだった場所はなんだかんだと賑わいに満ちた場所となった。

 村人はそれを惜しむかと思ったが、これはこれでと楽しんでいるようで何よりだ。

 大通りを、獣人、そして魔族の子供が走るのが見える。時々そこにはエルフやドワーフ、さらに稀にではあるが人間の子供も混じることがあるのだ。


(レイフィルドにいたころを考えると信じられない光景だよな)


 ルリアと一緒に、狩りの獲物を捌く場所へと向かいながらそんなことを考えていた。と、向かう先に若干の人だかりができているのが見えた。ミィ達に何かあったのだろうか?と慌てて走っていくと、そこには巨体があった。


「あ、お兄ちゃん!」


「ルリアまで……心配させちゃったかしら?」


 通常、街道を走るグイナルの倍はありそうな巨大な獣……たぶん、鹿だと思うそれの角を切り落としていたのは狩人の衣装を着こんだミィとイアだった。ぐんぐんと成長し、今では一部を除いて女性らしくなったミィの手には竜爪短剣を模した魔鉄の短剣。イアの腕には神樹の材木から作り出した魔力の増幅器である腕輪があった。どちらも、竜素材は普段使いにはしないために用意した物だ。


「大きい……さすがミィちゃん。これ食べる?」


「分配も決めないといけないから少しかかるかしら? もっとも、全部宴に使うとなったら分けるまでもないけれど」


 ぽかーんと口を開けて問いかけるルリアに、こぼれるような笑顔で答えるイア。その体は浮いておらず、完全に実体化している。理由はいまだによくわからないが、イアは魔族としてのイアになったのだという。

 嬉しさのあまり、突然帰って来たと思ったらそのまま男女的な意味で襲われたのはあまり思い出したくない事件だった。

 互いに別に嫌いという訳ではないが、ミィ以外の相手を愛するというのはどうだろうななんて思っていた自分がいたわけだ。


(ただまあ、本人がそれを気にしないどころか、どうして?なんて言われたらこちらも困ったわけだが)


 さっそくとばかりに切り分けているミィを見ながら苦笑を浮かべる。他でもない、ミィ自身がイア、そしてルリアの気持ちに応えてほしいなんて言ってきたのだから驚きだ。正しい家族という物を知らない俺たちだからこそ出した結論だと人は言うかもしれない。確かに変なところはあるかもしれないけれど、間違いだった、なんてことは思わない。互いが決めて、互いが納得した結果なのだから……な。


「にーに、なんだかうれしそう?」


「ん? ああ、みんなでこうして騒げるのはいいことだなってな」


 長かったような、あっという間だったような気もする。俺が妹と静かに暮らしたいがために人間の住むレイフィルドを脱出し、やってきた大陸で居場所を求めて奔走し……いつしか大きな戦いに首を突っ込み、さらには他の種族との触れ合いまで行った。最後には世界を救うと来たもんだ。まったく、騒がしい事この上ない。


(どうせ騒ぐならこういうのがいいよな)


 出来れば、命を賭け合うような戦いによる騒がしさは二度とあって欲しくない物だと心から思う。勿論、生きていく上で何かしらによって笑顔が無い時はあるかもしれない。実際、どこかでは誰かが悲しんで、誰かが泣いているのも間違いない。

 だけど、その分かそれ以上に、世界には笑顔も増えるはず……そういう戦いをしてきたつもりだ。


 聖剣は封印するかのように置いてきたし、天竜もいなくなった今、俺達は静かに暮らすことが出来るはずだ……はずだった。


「た、大変だー!」


 聞こえてきた悲鳴。それは駆け寄って来た獣人の若者による声だった。確か彼もそこそこ戦える戦士のはずだ。それがこんな悲鳴を上げるということは……。


「海魔が出た! それもとびっきり大きくて見たことがない奴!」


「海魔が!?」


 将軍とは今も友好な付き合いが続いている。ということはこの海魔は将軍派閥ではないということになる。

 海にはまだ多くの海魔が勢力を争っているはずだった。いずれにしても……だ。


「案内してくれ。すぐ行こう」


「お兄様! 私たちは?」


 背中にかかるイアの声に立ち止まり、振り返る。そこには心配そうな妹達の姿。

 俺はそんな彼女らに指を立てて、笑顔になって口を開く。


「ここはお兄ちゃんに任せておけ!」


 そういった俺に抱き付いてきたのは……ミィだ。随分と背が伸びて、こちらを見上げる顔もすぐそばにあるようになった。

 妹であり、家族であり、愛する相手でもあるミィ。瞳だけは、幼い頃と同じ輝きを放っている。


「気を付けてね。お兄ちゃん」


「ああ、行ってくる!」


 それだけを言って、若者と一緒に駆け出した。兄妹の団欒を邪魔するような奴は……例え神さまだろうと吹っ飛ばす!

 なぜなら……俺の生きる目的は妹達を笑顔にすることだからだ!





 完



半年間、ありがとうございました。


毎日更新ということに対しての色々な勉強が出来ました。


中にはきっといるであろう、毎日通っていただいた方、

あるいは数日ごとの方、もしくは初めて読み始めたという方。


皆さま、ありがとうございました。

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