017.義理だけど愛があれば兄妹だよね!
どこかで聞いた気がする? 気のせいです。
「ミィさんや、気持ちいいかね」
「ふにゃ……良い感じだよお兄ちゃん」
吐息と一緒に何か抜け出しそうな声でミィが答える。
俺はその声と、手の中で震えるミィ自身にきゅんきゅんと自分の中の何かが動いた気がしながら、手を止めない。
今日は、ミィを構うと決めた1日なのだ。始まりはそう、ミィが朝から叫んだことだった。
「最近お兄ちゃん分が足りないの! イアちゃんとも仲がいいし!」
「そ、そうだったか?」
『確かに最近はちょっと多かったかもねえ?』
朝食の場で、ミィは食べ終わるなりそう叫んで俺の腕に抱き付いてきたのだ。
イアは何か考えるようにしてそういい、頷いている。
言われてみれば、確かにミィではなくイアに何かを相談したり、厄介そうなことの相談もイアにしている。
自然と夜はイアと話し込んでる日は確かにあった。
なるほど、ミィが怒るわけである。
「よし、じゃあ今日はミィに付き合うぞ!」
「ほんと!? あ、でもイアちゃんは?」
両手を上げて喜びながらも、すぐにイアの事を気にしてこちらを向くミィ。うむ、気遣いが出来てお兄ちゃんは嬉しい。
『大丈夫よ。ちょっとやりたこともあるから2人で一日ごろごろしてなさいな』
そういってイアはどこかにふわふわと浮いていく。
直視したら危険なイアの下半身を見送り、ふとミィと目が合う。
「まずは日向ぼっこだよ!」
その宣言により、何でもない1日が始まる。と、言う訳でミィの要望により後ろから抱きしめながら日向ぼっこ。
そして合わせ技であごと頭の撫で撫でである。撫でる度、ふにゃふにゃと猫のように呻くミィは正直、丸呑みしたいぐらい可愛い。
耳の裏等、ちょっと敏感な場所を触るたびにフルフルっと震えるのももっと可愛い。
ちょうどいいのか、脱力したまま俺に体重を預けている。
日の光と、ミィの体温によって暑くはないが、かなり温かい。
いつしか縁側部分に俺達は横になり、そのままごろごろしていた。
さすがに首から下を触るわけにもいかないので、どうしても頭やあごなんかに手が集中してしまう。
時折ミィの声が大きめに響くが、幸い、近くに人の気配はなく、皆出払っているようだ。
色々と誤解を招きそうな気がしたので丁度良かった。
「はふう。ミィばっかり気持ちよくなっちゃってる気がする……」
「いいんじゃないか? ミィのためにしてるんだし」
少し丸まって小さくなるミィをさらに包むかのように俺も体を丸める。
結果としてなんだかミィを丸呑みしてるかのような錯覚を起こしてくる。
「お兄ちゃん分の補充は順調だよ! いっぱいまではもう少し!」
「よーし、じゃあもっと頑張らないとな!」
小さな、それでいてやっぱりなんだかんだと成長してきたミィ。
出会ったころは、本当に小さく、小柄だった。
ゆりかごから顔を出し、どう扱ったらいいか困ったままの俺の指をミィはぎゅっとつかみ、こちらを見上げて来ていた。
ふと、そんなころのことを思い出し、しんみりしかけた気持ちを誤魔化すようにミィを撫でまくる。
「にゅふふ……お兄ちゃん、今幸せ?」
ごろごろと言ってきそうな状態のミィは、唐突にそんなことを口にした。
俺は一瞬何を言ってるのかわからなかったけど、すぐに頭を撫でながら口を開く。
「当たり前だろ? ミィも、イアもいる。十分さ」
本心からの言葉、でもそれはミィの欲しい言葉ではなかったのかもしれない。
その証拠にミィは撫でられても動くのを止め、ぼんやりと空を見ていた。
「ミィがいなかったら、今もお兄ちゃんは勇者だったのに……ほんとに?」
ごろりと俺の腕の中で姿勢を変え、ミィが俺を見上げる。
互いの吐息が顔をくすぐりそうな距離で、ミィの目が俺を射抜く。
満月のような金色の瞳が俺の中の中まで覗き込んでくるようだ。
でも、それは怖くはない。俺の心に嘘は無いからだ。
「ああ……本当だ。ミィがいなかったら俺は幸せじゃなかった」
出会わなければ、間違いなくアルフィア王国の都合のいい、人間の勇者を俺は続けていたに違いない。敵だから、魔の者だからと命を奪い、刈り取っていただろう。
そのうち、エルフなんかを相手にした戦争だってしていたかもしれない。
でもその可能性をなくしてくれたのはミィだ。イアもまあ、そうだけどな。
「それならいいの。お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、勇者だったお兄ちゃんもお兄ちゃんだもの」
「ミィ……」
ミィの手がそっと俺の頬に伸び、さわさわと撫でられた。
そこにはミィの色んな気持ちがこもっていたように感じられ、くすぐったさより、何か安心感が大きかった。
「お兄ちゃん、あのね?」
「うん?」
俺の腕の中で、ミィは何か決心した表情になる。その顔に見惚れていると、小さな口が開く。
「ミィ、魔王として恥ずかしくないぐらい強くなる。魔王さんって悪い人じゃなくって、とってもすごい人って意味だよね?」
「ああ。ひどいことをする魔王は偽物だ」
ミィは、あの時からずっと考えていたのかもしれない。
魔王と言う自分の中にある物に。もしかしたら、もっと前から何かは感じていたのかも……な。
獣人の皆や、出会った魔族から魔王のことをおとぎ話のように聞いたのだろう。
曰く、バラバラだったために人間に良いようにやられていた魔族をまとめ上げた統治者。
曰く、竜に弓引ける者として魔法使いの頂点に立った魔の王。
ダンドランに伝わる魔王の話は人間のそれと違い、どちらかというと人間側の勇者のそれと同じような物だった。
種族主義で、魔族でも地域や血統に分かれてばらばらだったのをまとめ、組織的に人間に対抗する術を与えた魔王。
一説によれば、勇者との戦いの最中にも魔王は被害の少ない土地を選び、互いの魔法の打ち合いによる余剰魔力すら今のダンドランの3分の2を覆う結界のために利用したとか。
だからこそ、ダンドランで今代の魔王であることがばれるのは非常に厄介なことだと言える。
それがわからないミィではないはずなのだ。
「ミィ、でもそれは……」
「うん。イアちゃんにも聞いたの。だからこそ、だよ……お兄ちゃん」
戸惑う俺に、いつしかミィが姿勢を変えてのしかかるようになっていた。
そのままのつぶやきは今までミィから聞いたことの無い決意に溢れているように感じる。
「いざという時にイアちゃんやお兄ちゃんと離れるようなことはしたくない。
だから、魔王の力を誰かを不幸にする使い方に誘う相手とは……ミィ、戦うよ」
「そっか……」
子供だ子供だと思っていたミィは、いつしかちゃんと11歳になっていた。
小さく見えていたミィが、今は……ちゃんと女の子に見えた。
「だから、応援してね、お兄ちゃん」
おう、という声は言葉にならなかった。俺の上に座るようになっていたミィが影になり、顔にかかる髪のくすぐったさを感じたと思ったら触れてきた。
「ミィ……」
寝転がったまま、呆然と俺は自分の唇に指をやる。
「ふにゃ、大好きだよ、お兄ちゃん。これからもミィのお兄ちゃんでいてね!」
それだけいって、ミィは飛び上がって家の中に駆け込んでいった。
顔も覚えていない父さん、母さん。あるいは神様でもいいや。
俺は、お兄ちゃんでいられるでしょうか?
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こんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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