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176.かつてとこれからをつなぐ道



 少女は一人、山の中にいた。いや、少女というには語弊があるかもしれなかった。

 なぜなら、そこにいるのは見上げるほどの大きな体を誇る……竜だったのだから。


『ガウ……』


 全身を赤を基調とした鱗に覆われ、夕暮れともなれば燃え上がるような輝きを誇る竜、火竜として生まれたカーラだ。

 彼女は今、空を舞って逃げていく一頭の竜を見送っていた。ため息のような物が口から漏れるのも仕方ないのかもしれない。自分の物になれとばかりにやってきた雄の風竜は自身の尻尾の一撃で戦意を失い、戦いを放棄して逃げ出してしまったのだから。


 戦う前は自信満々だったはずの顔が、見事に尻尾の跡をつけているのを正面から笑ったのも良くなかったかもしれない、と彼女は考えていた。大事な家族であるミィやイアから習ったことのほとんどを活かせなかったなとも思っていた。

 さすがに4回目ともなると寂しい物があるし、そろそろ家族の元に帰りたい気持ちもむくむくと立ち上がってくるけれども、今は帰れない。

 なぜか? それは、そろそろ番を見つけてもいいのではないか、と家族である皆に言われたからだった。


『ガウ』


 舞い降りてきた風竜が荒らした地面を暇つぶしに慣らしながら、カーラは遠くにいる家族を想う。

 空を覆うような大きさの天竜を倒した戦いからもう数年が立っていた。その間、カーラは自分でも驚くほど、多くの人と出会い、そして暮らしてきた。

 半分ほどは竜への畏怖、あるいは憎悪に近い感情を受けた。しかし、残りは強い者への純粋なあこがれや、心強い隣人という感情だった。

 生まれ落ちてからずっとミィたちと暮らしてきたカーラにとって、自身と比べて小さいはずの魔族や獣人といった存在を軽く見ることはない。むしろ、共に世界に生きる共存相手としてどこかで認識している。


 そんな中でも、ミィ達は別格であった。彼女たちが呼べば世界のどこからでも駆けつけたいと思うし、危機ともなれば命を賭けてともに戦うつもりであった。それはこの世界で生きる竜としては異例の存在と言えた。

 昔から竜は他の生き物と争い、命を奪い合う存在だったのだから。


『……』


 いつしか日が暮れ、周囲……死の山を含んだダンドラン大陸の中央にそびえる山脈の一角でカーラは1人、夜を迎える。寂しくないと言えば嘘になる。そんな感情を持つことが出来るように彼女はなっていた。それでも、笑顔で日々を過ごす家族を想い、彼女らのように自分も番と暮らしてみたい、そう思うからこそここにいた。

 何もあてもなくここで待っているのではなかった。なんとなく、そうなんとなくだがカーラにはここがそういう場所だと感じていた。

 それはかつての決戦の時にもあった魔力の流れの1つ。竜同士が、ここに自分がいるぞと伝える道の1つだった。

 現に、一生のうちに遭遇したら幸運でもあり不運でもあると言われる竜に、カーラはこの数か月で4度遭遇しているのだ。

 誰もが自分を見下し、雌として組み伏したいと考えるような雄だったのでお帰り願ったわけであるが。


『ガウウ?』


 自分の何かがいけないのだろうか? あるいは妥協することも必要なのだろうか? そんな思いを抱きながらも、家族の1人、イアの言葉を胸に夜を過ごす。曰く、妥協は番になってから、だそうだった。

 どうせ番になって長くいるとなれば、相手の嫌なことは勝手に目につくようになる。竜で言えば食べる物の好みなども違ってくるだろうから、とイアは伝えていた。竜を相手に何を言ってるんだとラディに怒られているイアは笑っており、そんな光景もいいなとカーラが思うには十分な物だった。


 ともあれ、少なくともカーラは自分より弱い竜になびくつもりもなかった。当然と言えば当然の結論として、なかなかそんな相手は出てこない。なにせ、今のカーラは火竜の姿をしているが実際に火竜の範囲内に収まっているかと問われると疑問が残る。

 その体も、主に赤いのは確かだが所々、金色にも感じる光を帯びた鱗になっていた。それは天竜に撃ち込んだ魔法を半ば取り込んでの突撃の影響であった。今のカーラの属性は敢えて言うならば、光。


 もし、ラディたちが今のカーラの様子を見に来たならば、その光景に驚くことだろう。夜の闇が支配する山の中にあって、彼女だけが巨大な光の彫刻のようにほのかに光り輝いているのだから。

 もちろん、その姿はこけおどしではなく、見た目に相応しい力を彼女は持ってしまっている。となれば……そう、カーラに正面から勝てる竜はほぼいなかった。いるとしたら……普通の竜ではない者。



『? ガウ!』


 夜明けの光が自分と大地を染める頃、カーラは眠りから覚めた。そして朝日を見つめながら……その顔が驚愕に染まる。太陽から飛び出てくるかのように、影が1つ、飛んできたのだ。

 それは竜。太陽を後ろにして飛んできたので先ほどまでカーラも気が付かなかった。新しい番候補だ、とカーラが喜ぶのもつかの間。その全身を落胆が支配する。

 なぜなら、舞い降りてきたのは若竜も若竜。碌に親が竜魔石を作らなかったのか、属性も定まっていない薄汚れた茶色とも緑ともつかない色の鱗の竜だった。

 ワイバーンとは違い、れっきとした竜ではあるようだが……目をつむったままでも傷一つつくことはないだろう。


『ガウガウ!』


 そんな状態でも若竜はカーラの前に降り立つと、丁寧に頭を下げ彼女を見つめた。それはこれまでの竜にいきなり襲われたカーラにとっては予想外の動きだった。戸惑いの中でも、彼女には彼がこちらに挨拶をしているのだということを悟った。実のところ不慣れである竜同士でわかる言葉を口にし、カーラは若竜との会話を始める。

 本当ならば番の権利を賭けた戦いを行うつもりだったカーラにとっては戸惑いと、どこか温かい気持ちを感じる不思議な時間だった。その日、若竜はひとしきり会話をした後、どこかに飛び去って行った。


 カーラは一人になったと同時に、自分が寂しかったということ、あの若竜がそれを埋めてくれたことを感じるのだった。


 翌日、いつものようにカーラが目覚めると、若竜は昨日のように太陽を背に飛んできた。それはカーラにとって、まるで太陽からの使者であるかのように感じたのだった。

 その日もまた、若竜はカーラと会話をするだけ。俺の物になれ!なんてことは言わずにただそこにいた。

 カーラは不思議であった。とても自分に勝てるとは思えない弱弱しい若竜。それこそワイバーンにたかられるだけでも負けるかもしれないような強さだった。だからこそ気になったのだ。自分が怖くないのかと。

 カーラにとって、自分たち竜は強者であり、怖がられる対象だということはよくわかっている事実だった。


 ところがだ、若竜はカーラを前に、堂々と吠えた。自分は強いから貴女を求めるのではない、貴女を番にしたいと思ったからここにいるのだと。

 それは告白であった。装飾も何もない、まっすぐな気持ちだけがそこにあった。


『ガウ……ガウ!』


 実のところ、カーラも歳を考えれば若竜同然であった。だからこそ、これまでの成体である竜たちの行動を正しく理解しろというのも無理な話だったのだ。実際にはほとんど歳の変わらない2人。若竜の気持ちに触れたカーラは、初めての感情を胸に感じていた。それは……愛。まだまだ小さく、未熟な感情。

 それでも、その感情が自分に大事な物であるとカーラは直感を抱いていた。




 かつて、世界を蹂躙したと言われる竜。そしてこれからの未来に生きる竜は同じ竜でも別の種族だ。

 そう他の種族に言わしめる竜たちの中でも別格の2頭。そんな番が誕生した瞬間だった。

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増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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