174.心ごと、光り輝いて
何気にラストバトル。
ずっとBGMではヒィィィートエンド!とか叫んでます。
1回、2回。俺の手にした聖剣と、いつの間にか天竜の手にある闇を固めたような剣とが何度もぶつかっていく。
その度に余波が互いを襲い、魔力障壁で防ぐ俺と違って天竜は防いでいる様子がない。徐々に増えていく小さな傷。だが、それすらも天竜は楽しんでいるように見えた。
「むんっ!」
「ちっ」
天竜にあって俺にはない物というのはいくつかある。その大きな物の1つが竜の……尻尾。
今もまた、嫌な音を立てて刃をかみ合わせてる間に横合いから太い丸太のような物が襲い掛かってくる。
蹴るか、弾くか、一瞬の悩みが後に響く戦いで、俺はそのどちらも選ばなかった。後ろから迫る光の上位神、ラエラの力を借りた光弾が勢い良くぶつかり、威力を殺したのだ。
『援護は任せて!』
「全部読んで……見せる」
この戦いはきっと神様たちも見ている。イアの手から放たれた光弾はいつにもまして輝いていた。その速さも威力もこれまでとは段違いだ。それでも尻尾の動きに間に合わせるのは無理な中、それを可能にしたのは……きっとルリアだろう。
幻影や嘘を見抜く真実の瞳。ここにきてルリアは、天竜の体を流れる力を正しく見抜き、動きの中で誤魔化そうとする天竜の狙いを見抜き、イア達に伝えているのだ。
ここにきて、初めて天竜の表情に余裕以外の物を見た。焦り、あるいは怒りのような物。
様子見で弄ぶつもりが、上手く行かないことへのいら立ちだろうか? それとも、余分な抵抗をして泥臭く暴れる俺たちへの怒りだろうか?
どちらにしても、既に奴の狙い通りとはいっていないようだった。
「聖剣よ、唸れ!」
「ええい、敗北者が!」
一瞬の隙を突き、力をためた俺は聖剣を振り抜く。ハーラルトを一気に両断した、勇者の力を斬撃に変えた一撃だ。
空までも届く一撃はさすがにまともに受けるつもりがないのか、天竜の手に力が集まるのがわかる。
夜の闇の中に、心細く小さな灯りがあるかのように斬撃は生まれ出た闇に溶けていった。
「ふんっ、その程度。何っ」
「想定内さっ!」
正面から回り込んだ俺は再び斬撃。師匠に習った通りに、生き物であれば、自分という意識があればついそうしてしまうであろう反射的な行動を利用した位置取りと攻撃。
それは天竜も例外ではなく、咄嗟に体の向きが俺の方を向く。これで、天竜とミィ達の間から俺がいなくなった。
俺と天竜の斬り合いの余波で紛れているけれど、ずっとルリアは天竜の動きを読みながらも大地の魔力の流れに接し、それを確実に足元に導いていた。
天竜は気が付いているだろうか? まるで魔力の海の中に泳ぐかのような状況になっていることに。
しかし、天竜がその力を使うことはない……なぜか? それは、奴の力が地上の魔力のそれではないからだった。
奴の頭上からゆっくりと伸びてくる力、それは空のもっと上からの物。あるいは、そっちに天竜の本体がいるのかもしれなかった。
「随分と粘っているようだが、いつまで戦えるかな? 魔族とて疲労はあるだろう」
「一つ、勘違いしてるようだな」
嫌な笑みと共に、持久戦を口にする天竜。俺はその言葉に、思わせぶりに即答した。
何を言っているんだ、と言わんばかりに天竜の表情が変わる。それを見た俺はそっと首元の、ずっと一緒にいるそれを……外した。
途端に変わる俺の肌の色、そして消える翼。決着は、本当の姿でつけるべきと思ったがためだった。
「人間……だと? あの地上を這う、ゴミ虫のような互いに争い合う脆弱な生き物がっ!」
「そのゴミ虫と、家族にお前は今日……滅ぼされるのさ」
俺の言葉を合図にしたかのように、ミィ達の切り札が活動を始める。俺達の知る中で、それどころか神様たちにも聞いて確認した一番の大技。足元を、隠すことを辞めた大きな大きな魔法陣が染め上げた。
その中心にはカーラ、その横を固めるミィとイア。そしてその魔法陣へと力を吸い上げているのは、ルリアだ。彼女たちは今……一つになっている。主に力を練り上げているのはミィだ。イアはずっと、切り札の気配を隠蔽していたのだ。必死に神様に祈りながら。
「この力! まさかまさか!」
「おおっと、行かせない!」
慌ててミィ達に向かおうとする天竜に蹴り飛ばすかのようにぶつかり、ミィ達から離すようにして切り込んでいく。
初動に少し時間のかかるあの技というか大魔法の時間を作るため、奴からミィたちが見えない位置で戦う必要があったのだ。
「貴様らごときが何故あれを!」
「簡単な事さ。再現するためさ……お前の敗北を!」
狂ったように俺に斬りかかってくる天竜。色々と考えずに周囲を吹き飛ばすようなことをされたらどうしようかと思ったのだが、それが出来ないほどに動揺しているらしい。
それもそうかもしれない。なぜなら、今から彼女たちが放とうというのは、かつて天竜が敗れた……その力そのものなのだから。
(イシュレイラ……ちゃんと、終わらせるわ)
私はそっと、胸の中に仕込んでいた彼女の遺髪に手をやった。何か反応が返ってきたような気がしたのは、自己満足だろうか? ううん、きっと彼女はそこにいた……そう思いたい。
ここからでもわかるほどに怒りに染まった天竜をお兄様が抑えている。さすがのお兄様と聖剣でも長くは持たない……しっかりと決めないと。
『ミィ、どう?』
「なんとか……」
ルリアの手によって、大地から集まる膨大な魔力。それを私たちが練り上げ、そしてカーラを軸にこの場に固定、展開する……ある種、力を撃ちだすための弓となるために。
使う魔法はいつだったか海魔に撃った、セレスティアシューター……その原典。星を撃ち、貫く神々の切り札だ。
本当なら、今これを使える存在は地上にはいない、そのはずだった。魔王一人では、あるいは勇者一人でもダメ。かといって勇者と魔王一人ずつでもダメ。偶然、本当に偶然に私やルリア、そしてカーラもいて大地を走る魔力等すべてがそろったからこその一回切り。
「2人とも……いいよ」
『始めるわ……集え、天の輝き……夜に浮かぶ命の光よ』
一言一言で、私の体から魔力という魔力が抜けていくのを感じる。溜めてあった力もどんどんと……。
それでも確かな手ごたえは私の手の中にあった。これなら……!
「鳴り響くは大地の怒り……森をめぐり、川を渡り……」
小さな体で、しっかりと紡がれるルリアの詠唱は力強い。失われたはずの魔法に触れているという事実が彼女にとっては何よりの喜びなのか、随分と高揚しているのを感じるわ。
私に続いた詠唱がまた1つ、力を魔法に与える。
「空を行く竜も、地に歩く獣もとくと聞け! 放たれるは命の叫び、空と時の果てまで穿て、彗星のごとく!!」
そして、ミィの詠唱を最後にそれは完成する。かつて、天竜を星の彼方に追いやったという光の槍。だけど、今回はそれだけじゃ済ますつもりはないわ。
「「『セレスティアル・ボルト!!』」」
瞬間、世界から音が消えた。遅れて、衝撃と音とが私たちを襲い、カーラを除いて3人は見事に転がった。
カーラは……そのまま飛び出し、光の槍を追いかける。信じられないほどの速さでの飛翔。それは瞬きの間に槍に追いつき、光の奔流と一体化したまま、天竜に突っ込んだ。
「ぬおおおおおお!!!」
俺の目の前で、天竜が光に飲まれようとしていた。圧倒的な金色の光。それが槍となって天竜の体に食い込んでいく。
『ガウウ!』
その槍の根元を持つかのように叫ぶのはカーラ。その赤いはずの体を金色に染め、押し込むようにして腕を突き出しつつ口からは黄金色のブレスだ。俺は少し離れた場所で、力をひたすら練り上げる。
「虫けら共が!」
「その虫けらに負けるのさ!」
俺は手の中の聖剣に最後の気合の声をかけ、必死に光の槍に相対する天竜、そのすぐ横に立った。焦りの顔が、すぐ近くにある。
「戦いの最中に片方を忘れるなんてな……終わりだ!」
「ぐ……アアアアア!」
光の槍を必死に抑えていた両手、それを一気に聖剣で切り裂くと同時に、光の奔流が天竜を包み込む。
その叫びすらかき消しながら俺の前で天竜が、闇が消え去っていく。
訪れる静寂。だが、その魂はまだ漂っているのを俺は感じた。どこからかもやのように何かが集まり、形を作っていく。
いつの間にかそれは、見上げるほどの大きな竜の姿となった。天竜が本来捨てたはずの竜の姿。全身は怨嗟の叫びのように揺らめいている。
─ まだだ、まだ!
「いいや、終わりさ。聖剣よ! 亡霊を……滅せよ!」
青く、まばゆい光が空を染め上げ……そこに寄り添うように赤い光が、大地をめぐる命たちの輝きが混じり、天竜を消し去っていく。そうして……後には平和な夜が残った。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます