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164.蒼光の果てに


「続けていくぞ!」


「馬鹿な、ただの魔族にここまでの力が!?」


(そういえばまだ首輪で変身したままだったな。ややこしいからこれでいいか)


 これだけ近くで魔力が大きく動いていても誤作動しない首輪に感嘆の気持ちを抱きつつも、ちょうどいいので敢えて人間に戻ることはしない。

 ここで戻って、何か面倒なことになっても大変だからな。周囲が納得するような説明が面倒だ。


 今はただ、竜牙剣を相手の振るう髑髏杖に合わせて何度も振り抜くだけだった。その一撃1つでも、魔物の頭を砕いたり、大岩を砕くのも余裕であろうと思わせる魔力に包まれた髑髏杖。

 大規模な魔法を使う印象のある魔王だけれども、実際には近接戦闘も可能であることはイア自身からもいつだったか聞いている。

 髑髏杖は細い方で貫き、髑髏部分で鈍器として叩く、そういう武器でもあるのだ。禍々しさばかり感じる新しい方と違い、元の髑髏杖には不気味さはあっても……なんでだろうか、嫌すぎる感じはしない。

 むしろ、何かの意志を感じる。こちらを観察しているような……。


「ふっ!」


「ぐっ……」


 こうして相対し、力を交わしていると感じることがある。確かにハーラルトは強い。これなら竜、高位竜でもやりようによっては退けることも出来るかもしれない。ワイバーンを力で従わせるのも出来るだろうなと思う。

 けれど、やはりどこかちぐはぐな部分が残っていた。今もまた、荒れ狂う感情は周囲のすべてを恨むような物が噴き出ている右手の髑髏杖も、いざハーラルトが力を振るおうとするときにわずかだが動きが鈍いのだ。


(俺には聞こえないけど、眠りたいんだよな。わかるぞ)


 俺以外なら余波に触れるだけで肌が焼けるのではないかと思うほどの瘴気をまとった一撃を竜牙剣で受け流し、周囲に拡散しないように俺たちを魔力障壁の膜で包む。こうしておけば吹き飛ぶ地面ごと他が巻き込まれることもない。


「何故だ、魔王でもないお前が何故こんな……」


「簡単な事さ。魔王の力そのものは後付けなのさ。まず本人ありきで、そこに魔王という役目がくっついてくる。

 魔王である前に一人の魔族、一人の人だったんだよ」


 これは勇者の力にも言えることだ。どちらも、本人そのものじゃあない……その手に持つ力、それだけのことだ。

 魔王という物に執着していたようであるハーラルトには理解が難しいかもしれない。その証拠に、子供が首を振るようにして俺の言葉を否定しだすハーラルトがいた。


「そんなことがあっていいはずがない。俺が……俺が欲しかったイシュレイラがただの小娘だったなんてことはあるはずがない! 奴は魔王だ、魔王なんだ。それを奪うからこそ意味があるんだ!」


 間合いを取り、何かに祈りを捧げて叫ぶハーラルト。その体からはついにはねっとりとしそうなほどの瘴気が噴き出し始める。

 あれでは本人も長くは持たない……そんなものだ。


(これは竜牙剣だと間に合わないか……でも、魔王側の杖も切りそうだな……後でイアに謝ろう)


 出来れば自分の手でどうにかしたかったであろうイア、ミィ。二人の前で髑髏杖を両方駄目にしそうな状況に先に心で謝っておいて、俺は竜牙剣を引き気味に構えつつもいつでも聖剣に交換できるように待機していた。


「闇に飲まれよ!」


 叫んだハーラルト。その手の中に生まれたどす黒い魔力の塊が力を発揮することは、無かった。

 まとめて切り裂こうと覚悟を決めた俺の視線の先で、横合いから1筋の光が飛び込んできたのだ。


「ガッ」


 それは新しい方の髑髏杖を構えているハーラルトの右腕を貫き、その手から髑髏杖が落ちていく。

 俺はその瞬間、竜牙剣を地面に落として何もない場所に手を突っ込んだ。

 光の犯人は誰かということを探す前に、まずはやるべきことをやろう。


(空へと渡る蒼光の橋よ!)


「アアア!? なぜ、ナゼそこにそれがアル!」


「さあな、どこかの世界で、考えろ!」


 久しぶりのまともな出番に喜んでいるらしい聖剣の放つ光は、俺が隠すことも出来ずに周囲を青い光の靄で覆いつくすように光り、みなの視界を遮った。

 そのことに後のことを考えたくないなと思わせつつも、俺は数歩踏み込み、その力をハーラルトへと向ける。


 姿勢を低くし、空に救い上げるような一撃はそのまま振り抜かれ、ハーラルトは胸のあたりで両断されることになった。青い斬撃がそのまま空まで飛び、わずかにあった雲を散らすように切り裂いていく。

 空の上に神様たちがもしいるのならば、見えただろうなと思う物だった。

 前に構えた髑髏杖の持ち手部分も当然切られ、髑髏だけが地面に転がる。


「あ……」


それが彼の最後の言葉だった。どろりとした何かとなり、地面にハーラルトだったものが消えていった。


 そして戦場から、音が消えた。


 誰もが見たはずだった青い光。この世界にそんな光を放てる者は1人、いや……一種類しかいない。勇者だけだ。

 じわりじわりと、どちらの軍にもそのことが染み込んでいくのがわかる。

 どういったものかという時、最初に正気に戻ったのは他でもない、ミィだった。


「お兄ちゃん!」


「ミィ、怪我はないか?」


 この後どうなるかは別として、俺は妹達を守れたらしい。そのことに安堵し、そしてそれ以外はある意味どうでもよくなる感覚を覚えた。彼女らと静かに暮らす、そのために戦ってきたのだから。

 なぜかミィはその体から魔王の赤い光を放ったままで、笑顔で俺と抱き合っている。送れてやってきたイアもまた、同様にだ。さらにカーラと一緒にルリアもやってきては隙間に入り込むように抱き付いてきた。


「おいおい、みんな甘えん坊さんだな」


『ガウガウ』


 頭の上で同意する、という一番説得力の無い場所からのカーラの相槌。それが妙におかしくて俺は笑ってしまう。そんな時だった。


「彼女は言っていた。力の前に滅びるのは魔族も獣人も、エルフやドワーフも……そして人間も同じだと。生きているのなら、憎しみではなく笑顔で生きていてほしい、そう願っていた」


「お前は……誰だ?」


 横合いから飛び出してきた光が新しい方の髑髏杖をハーラルトが手放すという結果を作った。一瞬だったけれど、俺の目が間違いでは無ければその光は……青。ということはこの男は……。


「今はそれよりも争いを終わらせろ。それがお前には、お前たちには出来るはずだ」


 言われて周囲を見渡すと、困惑の表情の兵士たちが目に入る。それはそうだろうな。魔王様の力を持つ人が何人もいて、味方だと思っていた奴は実はただの振られ野郎で周囲ごと巻き込むような奴だったという事実が彼らを打ちのめしているのだ。

 俺はそっとヴィレル達に視線をやると、呆れたような顔をされたがしっかり頷いてくれた。


 そうして、ヴィレル達による宣言により、戦いはひとまずの終結を見る。

 同時に、新しい時代の始まりであろうことも。魔王が魔族の王ではなく、魔の王であること。

 勇者もまた、人間の勇者ではなく、世界のための勇者であること。ゆっくりと、簡単にだがそんなことが伝えられた。


 反発も予想されたが、よほどハーラルトのことが衝撃的だったらしく、急な反発は無く……如何に魔王や勇者の力が本当は自分たちの戦いの中に出て来てはいけない力なのかを感じる人が多いようだった。

 どことなくくすぐったい感じがしながらも、俺達は日常に戻った。

 髑髏だけになった物と、暗い感情をまとったままの髑髏杖、2つを手にしたままで。


 まずはこの2つをどうにかしなくてはいけない。その旅に同行を申し出たのは、他でもないドーザとイラ、突然の救援に来た2人だったのだ。


「多くは語るまい。私の目的は彼女の本当の魂、自我だ。争うつもりはない」


 どこか懐かしさを感じる男、ドーザの言葉に納得しにくい部分もあるが、最終的には同行を許可し、共に向かうことにした。魔王の眠っていた場所、魔王廟へ。




ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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