015.先立つ物は必要です
今後もひたすらほのぼのか、紳士向けが続きます。
たまにシリアスっぽくなりますがギャップでニヤニヤする用です。
「グリズリーの毛皮は成体1頭分がこんな感じか……高いのか安いのかわからんなあ」
『狩り過ぎも良くないけど何枚かは換金せずに使いたいわね』
開拓中とはいえ、既に建物がある街の中心区画。
その建物の1つに俺とイアは青年魔族とそのそばで浮く少女魔族と言う体でやってきていた。
ミィは家でお留守番と言うか、出かける準備をしてもらっている。
そうしてやってきたこの建物は大きな倉庫のような物が隣にあり、頻繁に屈強な魔族や獣人達が出入りしている。
何をしているかと言うと、物資の交換や魔物討伐の相談や解体、その他もろもろだ。
紹介所を兼ねた飯の種が集まる場所ということになる。
一見、あちこち痛んでるように見えるけど、しっかりと補修を繰り返され、長く使うことを念頭に置いた建物だ。
何か人間の街でも見たような物に近いと思う。確か兵士とは違う、冒険者とか呼ばれてる人らの施設だったかな?
『他にも換金可能な相手がいるけど、今日はこれでいいんじゃないかしら』
イアがそういって最初に見たグリズリーの毛皮買取価格を指さしている。
壁1面の石板に何やら粉っぽい物で書かれた字はややかすれている。
「そうだな。そうしよう。あの、すいません」
そうと決まればどういう流れになるかを確認しないといけない。
狩るだけ狩ってきて、いきなりでは対応できない、なんてことを言われないとは限らないのだ。
「ん、なんだ。見ない顔だな、新しい開拓の奴らか」
近くで羊皮紙に何やら書き込んでいる壮年の魔族に話しかけると、俺が細かい説明をする前にそういってこちらを見てきた。
幸い、話を聞くことに不信感を持たれることは無いようだ。
やはり、人間の手から逃れ、開拓のためにやってきたという立場が効いているようだ。
「そうです。ここにあるのっていきなり現物持ってきて大丈夫ですか?」
勇者時代は後からきた兵士が回収することが多かったからな、仕事として狩った時にどういう手順になるのか、わからないってのもある。
「そうだな……人数が区切ってあるやつは依頼主に声をかけてから、だな。
それ以外の採取やらは現物をここに持ってきたらいい」
隣で細かい解体もやってる、と親切に教えてもらい、俺とイアは建物を出る。
通りに出ると、賑やかさが目につくのがわかる。活気にあふれ、各々の役割を果たさんとする人々。
そこはかつて、俺がレイフィルドで見た魔族達の村そのままの姿があった。
──明日を見ている、語り合う人
それは見た目は別として、人間のそれと同じだった。やはり、人間と魔族との戦いは単なる善悪じゃない。単純に、種族がぶつかっているだけなのだと思う。
「魔族の国と言うか、階級がしっかりあるみたいだな」
『ええ、かつての魔王在位の時に設けられた盟友会議がまだ残ってるみたい。
有力な魔族が人間で言う貴族のように領土として管理し、年に数度集まって魔王に提言する会議……今は話し合いで色々決めてるみたいね』
イアが言葉を選びながら思い出すように街で仕入れた情報を口にする。
下手に自分の記憶で喋ると当時の魔王の主観になってしまうのが怖いところらしい。
そう、魔族はこの大陸に封じられたという名目で押し込まれてはいるが、それでもこの大陸は広い。
第一、元々魔族は危険を押して外に攻めるか、大陸の開拓を優先すべきかどうかで意見が分かれていたほどの状態だったのだ。
つまり、大陸だけでも生きていける。
結果として今もちゃんとした通貨が存在しているし、それを使ったやり取りが末端まで行きわたっている。
便利具合の問題でこういった開拓場所だと物々交換も残っているようだけどな。
俺に常識を教えてくれた人の1人である、とある教会の神父さんはこう言っていた。
特に神の意思より金銭と言うのは人の心を動かす。それはもう否定できない事実だ、と。
「ま、俺は片隅で過ごせれば満足ですよっと。有力者同士の戦争なんて御免だな」
『それはそうよ。魔王も当時、相当苦労したらしいわよ』
確かに、人間と比べて数は少ないが魔族は魔法を多彩に操ることの多い種族だ。
しかも大体空を飛ぶ。そんな中の有力者、となればいろんな意味で厄介なのだろう。
ふと、そんな相手をどうやってまとめたんだと聞いてみた。
『結構簡単な話よ? 女だからってなめてかかってきた全員をぶちのめして見下ろしたままこういったらしいわ。勝てるようになったら好きにしなさい、って』
どうやら魔王は女王様でもあったようである。
「剥ぎ取り刃物よーし、袋よーし、手洗い用の水筒もよーし、これで全部?」
「うんうん。ミィ、助かったよ。ちゃんと準備できてるじゃないか」
大きな声で指さし確認し、持って行く物資を確認しているミィ。
俺はその姿に妙に感激し、抱きしめて頭をわしゃわしゃと撫でる。
「んふふー。お兄ちゃんとお出かけは楽しみだもん! 頑張ったよ」
撫でられ、ごろごろと聞こえてきそうな表情で笑顔のミィ。
すぐそばでイアがそんなミィを見ながらクスクスと笑う。飽きないわね、と言っているかのようだ。妹を撫でるのに飽きが来るわけがない! とはいえ、さっそく出よう。
「よし、では熊さん退治に出発だ!」
「おー!」『おー!』
仮の家を出て、3人は道を北に進む。開拓者の手によってなんとか道となっている場所を進むとそんなに時間のかからない状態なのにうっそうとした森が広がってくる。
そう、街を出てすぐ、そう遠くない場所から既に自然そのままの場所が広がっている。
そこは、互いの命が掛け金となった命がけの現場なのだ。
長い間魔族達が開拓を進めてもまだまだこの大陸は広い。
だからこそ、俺達がすべり込む隙間というのがあるわけだけども……。
「お兄ちゃん、グリズリーさんって大きい?」
「ああ……立つと俺の2倍あるやつも確かいたはずだ」
きょとんとして聞いてくるミィに答えてやると、その大きさにひどく驚いたようだった。
「すごいねー、じゃあ……足元をなんとかしなきゃだねー」
『あら……今のは教わったの?』
喋りながらミィがしゃがむような低い姿勢で相手の足元を攻撃する仕草をする。
その姿にイアが思わず問いかけるとミィは頷き、手にしているナイフをこちらに見せてきた。
よく見ると結構年季の入ったナイフだな。かなり丈夫そうだ。
「うんっ! ミィは小さいから、相手の急所を突くのは難しい場合が多いと思うの。
じゃあどうするかって悩んでたらみんなが教えてくれたよ!」
みんな、というのは大体は一緒にこの土地に来た獣人たちの事だ。
やはり獣人は生来の狩人の様だ……最近、俺を見るミィの目が狩りの時のそれに少し似ている気がする。
具体的には、俺に抱き付いてくるときの目が……気のせいかな?
そして街から2刻も歩いたころ、俺達はグリズリーの住む森の入り口にたどり着く。
さあ探そうと意気込んだ俺達が見たのは、既に森から出ている3頭のグリズリー。
森の中には同じような気配が思ったよりあるようで、選ぶ余裕すらあるほどだった。
結局、森の外にいた成体4頭と子供2頭を仕留め、ありあわせの材料でソリのような物を作って持ち帰ることになる。
魔物と扱われるグリズリーとはいえ、魔法無しの相手がこちらに叶う訳も無く、あっさりとしたものだ。
どちらかと言うと、いきなり6頭を持ち帰って来た俺達の方が思ったより注目された騒ぎになった気がした。
その時に聞いた話によれば俺達はミィとイアは我がままで着いてきており、狩りは俺1人でやってると思われていたようだ。
「ちゃんとミィも戦ったし、イアも一緒で3人だもんな?」
「そうだよっ! ミィ、頑張ったよ?」
『うんうん。さて、成体2頭は肉だけ売って革はもらいましょ。後小さい方も1頭分」
グリズリーの毛皮は良い敷物や毛布代わりの一品になるらしく、こうして、また1つ家の準備が整うことに3人で喜ぶ。
個人的には小さい方の毛皮をかぶって、「がおー!」と遊ぶミィの姿が一番喜べたことなんだが……おかしくないよな?
感想やポイントはいつでも歓迎です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。