158.さ迷い出た者
このまま終わり近くまでラストバトル的に真面目ばかりです。よろしくお願いします
初戦から数日、俺達は再度編成を終えて次なる目的地へと進むことになった。
向かう先は……北でも一番大きな街であるという場所。聞き出した話からしても、そこに自称魔王候補の魔族がいることは間違いない。
細々と周囲の街を攻めていくのは戦力が足りないし、何より目的に沿わない。
俺達の目的は、初代魔王の遺産や遺体を持ち出したであろう相手への糾弾であり、それらを使ってしでかそうとしている何事かの中止だ。
持ちだされた物からいって、俺たちの考える平和のためにということじゃないのは明白だからな。
「正義も平和も人によって考え方が違う……か」
「どうしたの、お兄ちゃん」
『もう、それを言い出したらきりがないわよ。自分たちがそうだと思ったことをするしか。
だから、考えは間違っている!なんていうのはおかしいわけだけど』
色々と感じる物があるらしいイアに比べ、ミィは俺やイアがそうするからこっちのほうがいいんだと思っているのかもしれない。
念のため、かみ砕いて状況を説明すると、ミィは不思議そうな顔をした後、何かに納得した顔へと変わっていった。
「んー、ミィはね。魔族さんじゃないけど、あんまり気にしたことが無いな。冒険団のみんなと、わーって冒険してたのは楽しいし、きっとそういうのが大事だと思うの。だから、魔族だけじゃなきゃダメ、獣人はいらない子だっていうのは嫌だなと思うし、ミィが大事に思う物のために戦うよ。大丈夫」
「そっか……」
俺が思っている以上にミィは大人になって、自分の考えを持っていることが確認できてよかったと思った。
そこで、じゃあそんな大人じゃないかもしれないミィに色々するのは大人として正しいのか?なんて言われると苦しいところだけどそんなことを言ってくる人はいない……いや、イアならいうかもしれないな。
『ガウ!』
「何か……来るよ」
急に頭の上でカーラが吠えたかと思うと、ルリアが一足早くそれを捉えた。ずっと黙ってると思ったら、どうやら木々に祈りを捧げて先の方を確認していたらしい。良い仕事だ、ルリア。
周囲を固めるエルフの戦士たち。ちなみにミィやイアにも獣人や魔族の有志が付き添いたがっていたけど2人は辞退した。一緒にいると動きにくいから、だそうである。
周囲に警戒を促し、みんなで前をよく見ながら進んでいた時のことだ。
かつての戦いの跡か、盆地があるらしい場所が見えてきたと思うと異形が視界の中に現れた。
「イア……あれは俺達の出番だよな?」
『そうね……偶然出てきた迷い人なのか、作られたのかはわからないけれど……』
そう、視線の先には盆地があった。そこにうごめくのはつぎはぎのような体で動く……ぼろぼろの体。
今までこちらの大陸では見ることの無かった亡霊の類に近いであろう迷い人だ。場所からして、かつての戦いの際の犠牲者が蘇って来た、と思うには少々時間が立ちすぎているように思う。
だけど無いとは否定することもできないわけだ。迷い人は一般的には大地の魔力と本人の怨念などが混ざって起きることだからな……。
乱戦となると厄介な相手である迷い人相手に、正面からぶつかる必要はない。ここは俺たちで一掃しようということでヴァズたちにはその宣言を行って前に出る。
やることは単純だ、燃やし尽くせばいい。カーラの出番だな。
「いいぞ、カーラ」
『ガウガウ!』
大きさは俺の2倍ほどになったカーラの口からは掛け声。どうもそれは詠唱らしい、そんな声が漏れたかと思うと口元には赤い光、火竜お得意のブレスだ。
大体の生き物は生身ごと焼き尽くす強力な物。ぼろぼろの迷い人ではひとたまりもないはずだ。
そこに向けて俺達も広めにアグニスへと祈りを捧げ、無数の火の玉を生み出して打ち出す。
いつの間にかミィも時間さえあればしっかりとここまで魔法を使えるようになったことに感動していたのは内緒だ。
多くの炎が鎮魂の力となって大地を染め、相手を眠らせていく……。
「あれ? お兄ちゃん……そもそも、なんであの人たち骨になってないのかな?」
「前の戦いは数百年前。残ってるの不思議……あれ?」
動く相手のいなくなった炎を見ながら、呟かれた言葉に俺は戦慄のようなものを感じ、皆の前に出て竜牙剣を構える。イアもまた、腕輪に力を巡らせながら険しい顔だ。
どうやらこの迷い人は誰かの手によるものということで間違いないようだった。
ここは乾燥してるという訳でもない。だったら何十年もしないうちに大地に眠った体は腐敗しきってるはずだ、と。
どよめきが、背後から聞こえる。まあ、無理もない。炎が伸びるようにその中にいたはずの迷い人たちが寄り集まったかと思うと塊となり、ついには巨人と化したのだ。
その顔には恨みへの怒りであろう表情が見て取れる。先ほどの俺達の攻撃すら利用した……のだろうか。
『私たちがここに来ることを読んでいた? いえ、どうきてもいいようにあちこちに同じようなのがありそうね』
「それは今はどっちでもいいさ」
相手が異形の巨人とはいえ、1人は1人。こうなるとヴァズたちも戦うという点ではやりやすい。俺たちを援護するように無数の魔法が後方から飛び、巨人へと突き刺さった。
どうにかして魔法を使っているのか、うっすらと張られた膜に邪魔されているようだけど種さえわかれば、な。
「ミィ、魔力刃を絶やすな。間合いが足りないぞ」
「うんっ!」
カーラにはイアとルリアの護衛をお願いしつつ、援護のブレスも頼むことにした。ついてきているエルフたちも必死に詠唱を続けている。この状況でも戦えるあたり、戦士としては十分すぎる合格点だな、うん。
俺も人のことが言えるほど立派な戦士ではないけれど、ためらわず力を振るうことが出来るのは大事だと思う。
走り寄り、近づくとわかるその大きさと異形具合。よく見ると体のあちこちにまだ魔族だったらしいあれこれが残っている。
これが初代勇者の戦いにより死んでいった魔族達の生れの果てだというのだろうか。
いや、勇者は勇者で思うところがあったはずだ。だからこそ魔王の遺体は魔族に引き渡し、討伐だけを目的として大陸を去ったというのだから。
「はぁ!」
「やぁ!」
巨人は確かに強い力を感じるが、それはまだ竜と比べて比較になる程度。切り札である青い光を放つ必要はなさそうで、剣は深々とその足の一部を切り裂いていく。
ミィもまた、飛び上がって脛や太ももにあたる部分を両手の短剣で切り付けていた。そのままだと大した痛みとはならないだろうが、そこを補うのが魔刃だ。飛び出した不可視の刃が巨人を切り裂き……形容しがたい諸々を大地に落としていく。
「うう、お兄ちゃん」
「早く倒すのが相手のためになると思うしかないな」
今もなお、合体前に燃えていた部分はそのままに火に囲まれている巨人。それでもなお動くというのだからその耐久力はものすごい。いや、そもそもそういったものを感じないのか?
カーラのブレスが肩口に当たり、吹き飛ぶようによろけるもなおも立ち上がりこちらの本隊に迫ろうとする巨人。
その後も少なくない打撃を与え、巨人が膝をついたのはしばらくしてからだった。
時間稼ぎが目的だとしたら、十分効果を発揮したと言える。しかし、だ。
「同胞をこのように使うとは……北の指導者は一体何を考えている!」
そう、ヴァズの怒りは皆の怒りでもあった。かつての同胞、既に死んだ者は関係ないと言わんばかりの非道にも思える今回の迷い人からの巨人。
どこかに犯人の術者がいるのか、あるいは何か道具を使って引き起こしたのかは探すことはできないが、相手は作戦に成功したし、失敗もした。
獣人ほどではないが、魔族にだって自分たちの仲間を思う気持ちはしっかりとある。彼らにとって、死をもてあそぶようなこの状況は怒りばかりが湧き出るものだったのだ。
「直接聞くしかないだろう。行こうか」
「ああ……」
あるいは、こうしてこちらから交渉という札を奪っていくのが相手の目的かもしれないな。そんなことを思いながら俺達は先に進むのだった。
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増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます