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155.悲しい戦いの始まり


「ミィ、準備は出来たか?」


「えー、もうちょっと待ってー!」


 恐らくそうだろうなと思いながらもダメもとで声をかけると、やはり予想通りの結果として焦ったミィの声が部屋の向こうから返ってくる。

 まあ、今すぐ何かってわけじゃないから大丈夫だけど……ミィも女の子ってことだな。


 俺はその間に改めて自分の装備、背中に背負った竜牙剣や、予備としての小剣数本等を確かめる。

 鎧も考えたのだけど、動きが悪くなる方が問題かと思い、上等な布を使った服に留めてある。

 その分、ミィやルリアにはこっそり魔法の力のかかったりしたものや、糸の段階から考えられた高級品を身に着けてもらっている。

 イアは元々精神体だし、カーラは自身の鱗が最高の防具だしな……。


 収納袋や、どこかに収まっている聖剣もしっかりと確かめる。聖剣はレイフィルドでの戦い以来、手ごたえはあるのだけどどこか拗ねたような感じを受ける。


(仕方ないだろう……あの子の力が足りなかっただけなんだから)


 俺と同じ、それでもコップと風呂桶ぐらいは違う力の差を思い返し、聖剣に言い聞かせるようにして心の中でつぶやく。

 神様の半身みたいな聖剣にはそれでも伝わるんだと思う、たぶんな。


「よっと、お待たせ! お兄ちゃん、ミィ……変なところないかな?」


「ん……大丈夫じゃないか? ほら、2人とも先に行ってるぞ」


 俺がそういってやると、ますます慌てた様子でミィが俺の手を取って外へと駆けだした。そう、既にイアもルリアも準備を終え、待ち合わせ場所に向かっているのだ。


 北への、進軍のために。






 俺とミィが、もうちょっとなんとかできただろうと言われそうな状況で兄妹以外の関係を増やしてからしばらくは平和な物だった。

 その間は、ミィ達の身につけた力なんかを確認しながらの訓練の日々だ。ミィの成長具合に感動しつつも、俺以外のみんながその手を血で汚すことがあまりないといいのになと難しいことのわかっている願いを誰にでもなく願っていた。


 そして、北の魔族領へと使者が立てられ……彼が命からがら逃げかえってきたのはそれから一週間後のことだった。

 なんとかワイバーンたちのいる場所を通過し、たどり着いた先で……危うくつかまって処刑されそうになったらしい。

 書状を見せるなり、小部屋に案内されて放置されたそうだ。 幸いにも、彼は使者というだけでなく、戦士としても優秀だったがゆえに不穏な空気に気が付いて逃げ出せた。


 しかし、これではっきりしたことがある。北は融和の意志が無いのだと。少なくとも国境に近い街ではそのつもりがないようだ。

 本拠地の考えがどうだかは知らないが、一番こちらに接する場所の意志は転じてそのまま全体の意志ととらえられるのは普通だ。


 ヴィレル達は、北の魔王候補を自称する魔族達が少なくとも事情を知っていると断定した宣言を行った。

 そして……攻め込むのではなく、国境沿いに軍として戦力を進め、相手に問い詰めることにしたのだ。

 まあ、というのは表向きで、実際には相手の攻撃が予想されるので、そのまま戦争になだれ込むという予定なのだろう。

 会話により解決できれば一番だったが、そもそもの問題として魔王の遺体等を北側が持ち去っているとしたらその段階はとうに過ぎているのだ。


 人が2人いて、価値観が2つあるのであれば、その主張はぶつかって争いとなる。

 これは魔族であっても人間であっても……変わらない真理の1つだと思う。


 そうして集まった人員、物資を整え、北へと進軍が始まることになる。俺達はそれに一緒に参加することを決め、今日は出発の日だった。

 駆け出したミィと俺の行く先には、既に大勢の魔族や獣人達が集まっている。中にはドワーフや、なんとエルフもいたのだ。


「遅くなった。彼らは?」


「私の話を聞きつけて志願して来た戦士たち。みんな覚悟を決めてきたんだって」


 ドワーフの方は元々こちらにも住んでいるのでわかるが、エルフはあまりいない。その中で戦士となればなおさらだ。

 そう思って話を聞くと、どうもわざわざ大陸から参加するために旅をしてきたらしい。

 若者というよりは壮年に近い感じなので、だいぶ年齢を重ねた立派なエルフの戦士なんだと思う。


「神樹の導きのままに……表向きは、魔族とは、魔王とは何かという探求の名目でやってきました。ルリア様を少しでもお守りしたくて……」


「私、そんなに偉くない。にーに、駄目?」


 この場合、彼らも参加してもらって大丈夫か、役に立つか、という問いかけだ。俺は改めてエルフたちを見る。誰もが使い慣れている様子を受ける武器を背負い、防具も馴染んだ格好だ。

 知識の探究のために、多くの冒険をこなしてきたんだろうなと思わせた。だから、頷きで肯定として彼らを迎える。


 彼らにとって、ルリアの微笑みが何よりの報酬に違いない。


 それから、いくつもの集団がヴィレル達の号令により一斉に進軍となった。カーラは小さめに俺の頭に乗っかった状態だ。

 大きくなって鼓舞するにはまだ早いからな……。


 北へ向かってしばらくは何事もなく、時折獣や魔物がちょっかいを出してくるぐらいだけど人数が人数なので大した問題にはならない。

 やはり前よりも魔物が活発な気はするけど、これから戦いに行こうという集団だ、あっさりとあしらう日々が過ぎる。


 そして……。


『ガウ』


「ああ、いるな。あんな数のワイバーンが小山に大人しく暮らしてるのか? おかしいな……」


 見えてきたのは山脈というには低すぎる、ちょっとした小山と言った山々。とてもワイバーンのような巨大な生物が群れで暮らすには足りない場所だ。少なくとも、獲物は近いうちに枯渇するだろう……。

 あるいは、それだけの期間しか想定してないのであれば問題ないか。


 そう、ワイバーンたちが餓死する前に戦争が始まるように仕向ける、のであれば。


(となると、すぐ向こうに1人はいるかな?)


 なんとなく、相手の有力な戦力はすぐそばにいるような気がした。そんな気配は感じないけど、ただ国境を突破されるようなことはしないような感じを受けたのだ。

 ともあれ、今はこちらに飛来するであろうワイバーンたちの対処だ。


 小さい影だったいくつかが上昇し、すぐに小さい姿となる。それを見て武器を構え、魔力を練り始めるのはワイバーンを知っている兵士達だ。中には冒険者として各地を回っていた人たちも含まれる。

 ワイバーンがこちらに飛んで来ようとしたから、小さくなったのだと知っているからだ。

 まるで訓練された兵士のように綺麗にそろった飛行。この時点で俺はワイバーンに対して誰かの意志という物を感じた。


 ワイバーンの体の様子が確認できそうな距離になった時、無数の魔法による火の矢といったものが空へと打ち上げられた。

 1つ1つは致命傷には程遠いと思うが、この数がまとまってとなればそうもいかない。

 いくらかは当たらず、あるいは回避されるが半分以上はワイバーンを直撃し、第一陣はそのまま無残に地面に死んだ状態でたたきつけられる。


 ワイバーンを倒した、そのことは今回が初めての戦闘、戦争となる人々に勇気のような物を与えたらしい。

 集団の中から歓声めいた声が上がるのを聞きながら、俺は変な気配がないか探り続けていた。

 それはミィやイアも同じで、ルリアもまたついてきたエルフの戦士たちと一緒に警戒を続けている。


 良い事なのか悪い事なのかは区別がつかないが、ワイバーン以外に問題となるようなことは起きず、俺達は国境沿いの壁のような物にたどり着いた。

 実際の交渉はヴィレルたちがやるはずなので、俺達は不意の襲撃などに警戒していればいい。


 じりじりと、時間が過ぎる。あっさりと交渉が成立するということも無いだろうとはわかっているけど、待つのは苦手だ……うむ。

 が、その願いが通じたわけではないだろうけどにわかに周囲が騒がしくなる。俺達もその騒ぎを聞きながら、とある方向の空を見つめていた。


 北の魔族領であろう場所に広がる黒い雲、そして禍々しい気配。これではったりでした、なんてことが無ければどうも面倒なことになりそうだった。

 そこに駆け込んでくるのはなんと、ヴァズだった。随分と急いでいたのか、息が荒い。


「どうしたんだ、ヴァズ」


「ラディ、状況は良くない。思ったよりもひどい魔族至上主義だった……他種族となれ合う同胞は排除する。魔族だけによる統一のために大地に沈め、と言い切って来たのだ」


 なんということだろうか。ヴァズから伝えられた内容は、俺達が考えている以上の最悪の部類の話だった。

 大地を、敵意を含んだ魔力が走ったような気がした。これはこちらに進軍しようとしてくる北の兵士達の物なのだろう。

 空の黒い雲を気にしながらも、予定よりもかなり前倒しで戦いは始まってしまった。

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増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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