154.確かめ合う気持ち
久しぶり……まだ半年もたっていないというのに何年もあっていないかのように感じるミィ達との再会。
それは思ったよりも強い勢いでのミィの突進と、それに続いたイアの情熱的な抱きしめにより暖かさを感じる物となった。
「どうしたんだ、ミィ」
「えっとね……えっとね? うーん、後でね!」
言いたいことが色々あってまとまらない、というところだろうか? うんうんと悩んだ顔をしたミィがそう言い放ったのを聞きながら、俺は無言でイアと頷きあった。
俺達がいない間、随分と苦労したんじゃないかなという予想は当たっているようで、精神体のはずの彼女の顔にも少し疲れが見えた気がしたのだ。
「にーに、ちょっと苦しいかも」
「おっと。そうだ、ヴィレル達はこっちにいるのか?」
俺とミィ達に挟まれる形となって、悲鳴のような声を上げるルリアを解放する。彼女の頭を撫でつつも俺は話をすべき親子の姿を探していた。
人間が今すぐ大陸に攻めてくることはないだろうことを伝えなくてはいけないからだ。
『ええ、今日もこの先の動きについてあれやこれやと思案中よ。ほら、ミィも行きましょ』
イアに誘われるままに歩いていくと、上空になじみのある気配が生じる。河原にでも遊びに行っていたらしいカーラの物だ。
大きくしていた体を小さくし、まるでミィがそうしたかのように抱き付いてくる。ぺろぺろと顔じゅうを舐められ、彼女の愛情といったものを強く感じた。
そういえば、竜の唾液とかって薬の材料になるらしいとかどこかで聞いたな……今度試そう。
「あははっ! なんだかお兄ちゃんたちが戻ってきたら何でもできそうな気がしてきた!」
「そうか? 元気になったならいいことだ」
状況はよくわからないけど、きっとミィたちが不安を抱えるだけの厄介な出来事がたくさんあったに違いない。
笑顔の中にも少し、影があったのを気にしていたのだけど今はそんな影も見当たらない。
まあ……何があっても、俺が吹き飛ばしてやるさ。妹の笑顔のために兄はいるのだから。
「と、いうわけで今すぐ差別は無くならないし、一緒に暮らそうなんてことはきついだろうと思う。
ただ、魔族狩りや獣人狩りみたいなことは無くなっていくと思う。少なくとも、光の神様であるラエラの信託は魔族排除すべし、ではないということが知れ渡ったからな」
「ふうむ……勇者の力も唯一1人、というわけではないのだな。興味深い」
思い出しながらの俺の報告に、ヴィレルはいつか見たように大きな椅子に体を沈めながらつぶやきを返してきた。
一瞬、それを聞いたイア達の顔に驚きのようなものが走ったような気がするけど、何かあれば後で行ってくるだろうから今は気にしないでおこう。
「前にアーケイオンから受けた神託からすると、どうも勇者も魔王も互いに争い合うための力ではないようだ。
両者が組んで立ち向かうような……何かが出てきた時のためらしい。ただ、力そのものは使い手の自由だから今の状況が産まれたようだけど……」
「今は降りかかるであろう火の粉は払うしかない、か。魔王級の相手にはラディ、よろしく頼む」
頷き返しながらも、ただ斬るだけで終わるだろうかという不安はあった。正直、俺にもすべてがわかっているわけじゃあない。しかし、確かなのは結局は力を振るう己自身が未来を決めるということだ。
北の魔族が恐ろしい手段で魔王の力を他者の征服のために使うというのであればそれに抗うのも、また自由だ。
俺もミィ達の話を聞いて、もっと早く戻ってくるべきだったかと少し後悔はしていた。戻る途中、テイシアからの知らせで速度は上げたけれど、もう終わった後なのは感じる気配でわかっていたからな。
迷い人、かつての魔王の側近の話や、魔王廟での出来事はどれ1つとってもなかなかに波乱万丈と言ったところだ。
「人員や物資が集まり次第、一度北に使者を立てる」
「ふむ? 噂が立っているが、犯人ではないというのなら開示してみせよ、とか言うつもりか?」
今のところ、北の魔族はこちらから人が入ることを良しとしていない。国境と定めているであろう場所にはなぜかワイバーンたちが居座っているし、不思議なことにこちらに来る分にはそのワイバーン達は動かないというのだ。
逆に、こちらから北に向かおうとすると反応してくるのだとか。
ヴァズはその端正な顔ににやりと笑みを浮かべ、頷いた。
「そのつもりだ。ついでに交流を図ろうではないかとね。恐らくはワイバーンに邪魔をされるだろうが、それはそれでいいきっかけになる」
(もうそれだけで真っ黒だが、それはそれ……か)
政治というか、大義名分というのはなかなか難しいものだなと感じる。単純に戦って斬って、吹っ飛ばして終わりなら話は早いんだけどなあ……。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、横にいたイアがじっとりとした視線を向けてくる。
『もう、お兄様。また全部吹っ飛ばしたら楽じゃないかとか思ってたでしょ。半分ぐらい同意するけれども』
まだまだ北の領内には普通の魔族だってたくさんいるわけで、彼らを巻き込んで大規模魔法を問答無用で打ち込むなんてことをしたら非道の罵りは避けられない。じゃあ戦場でならいいのか?と言われると難しいのだけど……。
と、そうしているとイアの力も前と比べると明らかに違いがあることがわかった。冬に着込んでいるかのような、そんな感じだ。
ちらりと聞いていた姉妹のことが関係しているんだろうな。このことも後で聞いておかないといけない。
「当日まで、ゆっくりしていてくれ。疲れない程度に訓練をするなり自由にしてほしい」
「助かる。俺も限界だったんだ……」
そんなに疲れが?と顔を向けてくるヴィレル達に首を振る。別に怪我だとか病気や疲れって訳じゃあないんだよな。
これは俺だけ……いや、ミィもそうかな? つまりはそう……兄妹分が不足しているのだ!
ルリアだけでは足りない。俺達はみんなそろって兄妹なんだからな!
正直に口にするとまた問題かなと思ったのでゆっくりしてれば大丈夫さ、等とごまかしてその場は終わることになる。
会議をしていた建物を出、俺達が寝泊りすることになる家へと向かい、中に入る。
大き目の椅子に座り、手乗りぐらいになったカーラが机の上に乗っかるのを見守って、大きくため息のような息を吐いた。
「あー……落ち着く」
『あらあら、お兄様。そんなに寂しかったの? ルリアが泣くわよ』
「……私も一緒だった。みんながいないからなんとなく……寂しかったよ」
目ざとくつっこんできたイアに対して、ルリアはぽつんとつぶやいたかと思うとそのまま隣のイアに抱き付いて顔をぐりぐりと押し付けている。
実の家族が祖父しかいない以上、ルリアにとって俺達は大切な年の近い家族、ということなんだろうな。
イアもまた、そんなルリアを優しい顔で撫でている。
「ミィもね、お兄ちゃん成分が不足していたの。とう!」
お行儀が悪い、なんていう言葉を飲み込んで腕の中に飛び込んでくるミィを抱きしめ、そのまま静かな時間を過ごす。
なんでもないような、大切な時間。それを大事な人たちと過ごせるというのはなんと幸せな事か。
自然と抱きしめている腕の中のミィへの愛おしさが増した気がした。
『別の意味でも間に合ってよかったわ。ほんとに』
と、急に声の調子を変えてイアがそんなことを言って来た。まだ話していない問題があるのだろうか?
心配になってそちらを向くと、ルリアを抱きしめたままでイアがににやにやとした笑みを浮かべていた。
(一体何が……んん?)
急に、腕の中のミィの体温が上がった気がした。これはそう……いつだったか感じたことのある暑さだ。
『どうもミィと魔王の力は相性があるらしくてね。使った後はちょっと反動があるみたいなのよ』
「お兄ちゃん……ミィね。我慢したの。いっぱい我慢したんだ。でもちょっと限界かも」
耳に届く声。そして腕の中のぬくもり、腕にかかる熱い吐息が……色々と証明していた。
発情している……ような気が……というか今にもはじけそうな気配がするぞ!?
『結界は張っておくから、ちょっと解消して来てちょうだい』
「解消って、ちょっと、ミィ! 引っ張るな……うぉお!?」
予想外の力でミィが俺の腕を取り、引きずるような勢いで寝室へと引っ張り込まれた。
その後はのしかかられたミィに対して……もうちょっと雰囲気ってのがあるだろう?と思いながらもこのぐらいが俺たちらしいのかな、なんて思いながら口づけを交わした。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます