表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/184

151.魔王の宣言

180〜200話には終わると思います。




 実力を小出しにするときと、そうでないときが戦いにはある。困った時には逃げる余裕を持って当たる。

 お兄ちゃんはいつだったかそう言っていた。今のミィも、そんな感じかな。


「お姉さん、お話はしてくれないのかにゃ?」


 思わず、普段は我慢している語尾が出てしまうぐらいには……お姉さんは本気だった。

 猫みたいで子供っぽいからいつもは出来るだけ我慢してるんだよね……うう。


 せっかく話しかけたのに、お姉さんは無言で両手にそれぞれ持った短い剣を構えるだけだったの。

 この前の戦いでは持っていなかった短さ。ミィのより少し長いけど……。


「ふっ!」


 じっとしているのは性に合わないの。だから……つっこんで反応を見る!

 ミィはいつもするように速さを活かして一気に間合いを詰めるの。いつもと同じように見えるかもしれないけれど、同じ相手には微妙に速さを変えてるんだよ? そのぐらいはしないとね。


 響きあう武器と武器がぶつかる音。耳の良いミィにとってはあんまり心地よくない音かな。

 これだったらずっと寝てるからって怒ってお兄ちゃんが出す音のほうがよっぽどいいもん。

 2つ……4つ……6つとお姉さんに竜爪短剣を繰り出すの。でも今回のお姉さんはこの前とは一味違う。


 完全にとは言わないけれど、防がれているのがわかる。少し出会っていない間に特訓したのかな?

 うーん、ちょっと違うかな。これが本当のお姉さんなのかもしれない。


「グッ」


「まだまだあ!」


 本当はミィだって誰かを傷つける戦いなんていうのはお兄ちゃんと一緒で好きじゃないの。だけど、お兄ちゃんが言っていたように、必要な時に戦えないのではそれは不幸を増やすだけだというのもわかる。


 だから……ミィは遠慮しないの。


 お姉さんはミィより背が高い。その分振り下ろすのは得意なの。だけど、自分の横に潜り込まれた時はどうかな?

 ミィは魔法を使って攻撃するのはやっぱり苦手。だけどそれは魔力を使うのが苦手、というわけじゃないの。

 炎は出ずとも、当たったら痛いかもって思わせるような魔力の塊を撃ちだすぐらいは簡単。

 大きな音を立てて、ミィから撃ちだされたそれを打ち消そうとするお姉さんの意識の隙を突いて回り込む。


「くはっ!」


「赤くならないの? じゃないと終わっちゃうよ」


 ミィの挑発が届いたってわけじゃないと思うけど、お姉さんはこの前見たように赤い光を帯び始めた。

 だけどどうしてだろうか? この前よりも……お姉さんじゃない気がしたの。


『ミィ! ダランである内に終わらせてあげて!』


 少し離れた場所から響くイアちゃんの声が、ミィにもさっきの不思議な感じの意味を教えてくれた。ミィの目の前で、お姉さんの顔に……仮面の奥の瞳に、どす黒い物が宿ったのがわかったの。

 直感的に、わかったことがある。早くしないとお姉さんが違う物になってしまうと。


「お兄ちゃん……力を貸して……」


 ミィは……神様じゃなく、お兄ちゃんに祈った。その方が良い気がしたんだ……。







(やっぱり……厄介ね)


 ダランとの戦いを今回も有利に進めていくミィ。ダランの武器が生前の得意な物に変わっているというのに、だ。

 体が違うから一概には言えないかもしれないけど、既にミィはかつてのダランを越え始めているということかもしれないわね。

 恐ろしいほどの成長速度……でも今はそれどころじゃないか。


『ガウ』


『ええ、来てるわね。かつての魔王の敵対者か……発掘に来て力尽きた盗掘者か』


 小さなカーラの警告の声に頷き、私は視線を2人の戦いから外す。そこに現れるのは腕の無い者、足の無い者、あるいは……骨だけの者。

 魔王廟の瘴気に当てられたのか、迷い人となった諸々だ。人っぽいものだけじゃなく、魔物らしい物もいる。

 いずれも朽ち果てる直前で、接していたくはない相手である。


『燃えすぎない程度に焼きなさい。爪にも火をともせば行けるわよ』


『ガウ!』


 ミィとの戦いを邪魔させるわけにもいかないわけで、そのまま1人と1匹は駆け出す。近づくとわかるその気持ち悪さ。ほとんどは無手のようだけど中には武器を持った奴もいる。

 それでも多くは錆び、朽ちかけており武器としては無意味なのよね。


 魔力を節約する余裕があるほどに、あっさりと砕けていく人だった物、魔物だった物。

 念のために焼き尽くすぐらいはしておこうかしら……そう思った時だ。


『ちょっと……勘弁してよね』


 一番奥、ダランが出てきた扉のほうから新手が出てくるのが見えた。そしてそれらのまとう気配の異質さに私だけじゃなく、カーラも顔をそちらに向けてしまう。

 そりゃそうよね……出てきたのは黒。幸いなことに、暗黒竜の黒、ではなかった。

 けれど、厄介という点ではそう変わらないかもね。


 竜の迷い人なんて初めて見たわ。迷い竜といったほうがいいのかしらね。そしてその傍らには妙に古びた装備を身に着けた、細身の迷い人。腐ることなく、朽ちることなく乾燥した体だけは維持されていたんでしょうね。

 見覚えは無いけれど、なんとなくわかる。彼らは魔王が没した後、一緒に眠りについた……かつての将たちだ。


(まったく、どうなってるのよ。過去の亡霊の出番はないはずよっ!)


 心で愚痴りながらも、現状に対処しなくてはいけない。竜はカーラにやってもらうとして、だ。残りは私ね。ミィ……終わんないかしら。

 そう思った時、広い広い通路を魔王の力である赤い光が猛烈な勢いで照らし出した。








「コロス……違う、違う!」


「よくわかんないけど、ミィにとって魔王さんの力は刃物と一緒。使う物であって使われる物じゃないよ」


 勢いを増したお姉さんの剣。避けたはずなのにぎりぎり髪の毛やほっぺたがすこーしだけ切れちゃったの。

 こんな状況だというのに、ミィは自分の心が沸き立つのを感じていた。強い相手との命のやり取り。狩るか狩られるか、そんな場所。


 だけど、ミィは今、狩人として危険に踏み込むことは許されないの。ちゃんと、生き残ってお兄ちゃんに笑顔でお帰りって言わないと。

 竜爪短剣をちゃんと握りしめ、ミィは機会をうかがいながら剣を捌く。


「ウグッ」


 急に呻いたお姉さんを見ながら大きく間合いを取って、ミィは魔王さんの力を一気に放出したの。

 足元には赤い色の魔法陣。どうしてこんな陣が出るのかはミィにはわからないけど……それは後でお兄ちゃんに聞いておこう。


「どんな力も、単に自分の一部でしかないんだよ! ミィは……おちゃんのためにも……負けないっ!」


 叫んで実行するのは全身の強化魔術の倍掛け。やり方だけはお兄ちゃんに教わっていたの。

 後で体が痛くなるからいっぱいは使っちゃダメって言われてる。だけど今は使い時かなって思ったの。


 はじけそうになる力をしっかりと確かめ、竜爪短剣の切っ先をお姉さんに向けて叫ぶ。

 戦うことを口にしながらも、その瞳には戦いを嫌がる物を光らせ始めるお姉さんのために。


「お姉さんがどういうつもりで戦ってるのかはわからない。だけど必要なら……ミィは演じるよ。魔の王、頂点たる人を。青き光の勇者、ラディの妹として、赤の魔王、ミィがここに宣言するよ! 眠りなさいっ!」


 床板を踏み抜く勢いでミィは駆け出し、こちらに振り下ろされるお姉さんの剣を半ばほどで一気に叩ききったの。

 残像が残りそうなほどの赤い光がミィの動きを追いかけてくるようにしてそのまま力となる。

 それはお兄ちゃんの使うような魔力の刃。お姉さんの腕が剣に少し遅れてその刃によって斬り飛ばされる。


 そのまま両手の竜爪短剣を振り下ろす直前。仮面の下でお姉さんが優しい微笑みを浮かべていたような気がしたの。

 手を緩めることなく、そのまま振り抜いた短剣が今度は間違いなく、お姉さんを眠らせた……そう感じたの。


 カランと音を立ててお姉さんの持っていた剣が床に落ちるのと、離れたところでイアちゃんたちの相手が倒れたのはほとんど同じだったの。

 こちらに駆け寄ってくるカーラちゃんを抱きしめつつ、ミィは小さく祈りを捧げるの。


 みんなが、静かに眠れますようにって。

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ