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147.魔豹の祖


「ッ!!」


「させないよっ!」


 地面を影が伸びるように、音もなく迫って来たダランの前にミィがすべり込み、その鋭すぎる一撃を両手の竜爪短剣で受け止め、あるいは受け流した。

 体格的にはダランのほうが圧倒的。それでもミィがしのげるのは獣人として成長したミィの強さだ。

 むしろ今のミィには余裕があるようにさえ見える。


 とっさに後ろに飛んだ私の感覚に新たな気配を感じる。気が付けば、ソーサバグの死骸が積み重なる街道の向こう側に、人影が見えていた。北の……魔族の軍勢だ。

 ただ、あまり数は多くないように見える。少数精鋭なのか、それとも……。


「自分が頭を押さえて後は後衛に任せる。変わらないわねっ!」


「語らんと言ったっ!」


 記憶にあるよりも随分と低い声。それは年を感じさせるものでもあり、何かが違うと思わせる物でもあったわ。

 少なくとも、声を発している当人は前の私が知っている魔族の将が1人、ダランのはず。

 他でもない……ヴィレル達のご先祖様だ。


 獣人をほうふつとさせる鋭い動きと、短めの双剣による踊るような戦い方が今も思い出せるほどの使い手。

 それが今、長剣を使ってミィと斬り合っている。引っかかるものを感じながらも、彼女だけを見ているわけにはいかない。


「イアちゃん、なんとかするよ! 任せて!」


「……わかったわっ!」


 正直、ミィがどこまでやれるかは私にもわからない。だけどミィがやるというのだから私は私のやるべきことをやらなければいけない。

 戸惑いを覚えているこちら側の魔族達へと意識を向け、叱咤の声を口にする。


「構えて! 生きて帰るわよ!」


「りょ、了解!」


 人間でも魔族でも、混乱した時には強く言われればそれに従ってしまうのが性という物。今回も例にもれず、私の叫びにそれぞれが得物を構えなおし、近づいてくる魔族であろう人影と相対した。

 意外にも、魔法をこの距離から撃ってこないことに気が付いた。その理由はすぐに判明することになる。


(まさか、冗談でしょう!? あんなに動く迷い人なんて!)


「イア様!」


「ひるまないで! 一度は死んでるはずの体よ、もう一度眠らせればいいのよ!」


 言いながら、私は手加減に手加減を重ねてイグニスへの祈りを捧げ、火球を作り出してそのまま投げた。

 それは確かな炎となって先頭にいた1人へと直撃し、その鎧を吹き飛ばす。肩口からもげるように右腕が落ち、泣き叫びながら死ぬ……はずの一撃。

 だけど、今目の前に広がっているのはそんな右肩を気にすることなく走ってくる、既に肉の半ば削げ落ちている動く死体だった。


 魔王すら知識として身につけた上で、記した書物は厳重に封印し、覚えている術者を徹底的に管理した禁術。死体操作、ネクロマンシーだ。

 蘇る、とは聞こえの良い魔法の1種だけど、その結果は悲惨の一言。蘇ってきたように見える相手は生前の怒りや悲しみ、とにかく負の感情を魔力で支配され、朽ちるまでその偽りの感情を胸に相手に突き進む。


 一度だけ、たった一度だけ魔王はこの魔法を実戦で投入した。死の山に住まう、暗黒竜と戦う際に使わざるを得なかったのだ。

 選び抜かれた……実際には魔王を出し抜こうと各家からこっそりと送り出された実力者たち……は死闘の末、魔王ともう1人を除いてやはり、倒されてしまう。

 このままでは全滅、そんな時に使われたこの魔法は暗黒竜をその体を100以上に分割してなお、止まらないだけの死の兵士を生み出したという。


(その非道さは伝わっているはず……なんてこと!)


 実際には記憶でしか知らない私ですら、ひどい怒りを覚えるほどの禁術なのだ。それを魔王に仕え続けたダランが良しとするはずがない。そのことが、逆に私を冷静にさせたように思えた。

 戦いの場所を変えていくミィとダランを横に見ながら、叫び声も上げずに迫る死の兵士へと向き直った。


「くそっ、なんで倒れない!」


「下手に砕いたり斬らないで! いっそのこと凍らせなさい!」


 この兵士の恐ろしいところは、生きていれば躊躇するような行動をそのまま実行してくることだ。

 例えば突き出された剣を気にせず胸に突き通し、そのまま近づいて相手へと自分の武器を振り降ろす、なんてことは当たり前にしてくる。

 だから距離を取らせ、とにかく接近しすぎないようにさせた。


 倒すことから、足止めをすることに変更されていった戦い方は効果を発揮し始め、だんだんと死の兵士達の動きが静かになっていく。

 後でまとめて砕けばなんとか……ミィは!?


 慌てて2人の姿を確認すると、ダランに切りかかったミィを、赤い光を帯びたダランの長剣が弾き飛ばすところだった。








「行くよっ!」


「……」


 いつもお兄ちゃんに、声を出すと相手に気がつかれるぞ、なんて怒られるけれど……つい声は出ちゃうんだよね。

 気合が入って、足も速くなるからこの方が良いんだけど……お姉さんも声はあまり出さない派みたい。


 少しずつ速さを変えた竜爪短剣をどんどんと振り抜くけど、思ったようにはお姉さんの鎧に届かない。

 3回に1回ぐらいは届くのだけど、まだまだ毛皮を切り裂くには至らない、みたいなとこかな。


(速さはお兄ちゃんより全然遅い。だけど力が……読めないなあ)


 ミィの短剣をはじくからには、それなりに力があると思うんだけど……重さを感じないの。

 でも攻撃はなかなか通じない、つまりは強いお姉さんってこと。

 

 ゾクゾクとした感覚が自分の背中を上がってくるのがわかった。ミィの悪い部分でもあり、良い部分でもあるなってお兄ちゃんが言ってくれたミィの癖。それは狩りの相手が強いほど燃え上がる獣人の本能みたいなものなの。

 命をやりとりするからには、自分の命も危険にさらされていることが実感できる相手程、これを感じるの。


「お姉さんが誰だかは知らないけど、イアちゃんの、お兄ちゃんの邪魔をするなら……敵だよ!」


 つま先から頭のてっぺんまで、まんべんなく魔力を巡らせて身体強化の魔法を発動。祈る先は名もなき、命全てをいつくしむお母さんみたいな神様。

 感じる温もりはその神様の温かさなんだってお兄ちゃんは言ってた。


 かすかに兜の下で、お姉さんの顔がゆがんだ気がした。


 それを問いかける代わりに、ミィは一気に間合いを詰めて至近距離で短剣を振るった。

 相手にしてみれば、呼吸の間にいつの間にか目の前に来たように見えたかもしれないの。お兄ちゃんはちょっと必死な顔になりながら避けちゃうけど……お姉さんはすごい必死だった。

 がりがりと、短剣の切っ先がお姉さんの鎧の胸元を削るように切り裂いたの。


 少なくとも、竜の素材を使ってるってわけじゃないみたい。斬れたからね。

 だったら……やっぱり当たれば、倒せる。ミィは、負けないもん。


「これほどとは……」


「まだまだ、全然本気じゃないよ」


 出していい切り札があるなら相手の戦う気持ちを削るためにあえて先に口にするのも有効ってヴァズさんが前に言ってたのを思い出したの。ミィにとってはまだまだあくまでも、対人の戦い方。

 だから、本気だけど本気じゃない、そんな状態だったの。


 相手の動きをひるんだものと思ったミィは、油断せず飛び込んだの。

 そう、その瞬間までは油断してなかったと思っていた……けど、相手にももっと切り札になる物がある、そう考えるべきだった。


「仕方ない!」


「わわっ!」


 目の前で短剣を受け止めたお姉さん。その手元、そして瞳に見覚えのある赤い光が少しだけ灯ったのを感じた途端、相手から力があふれてきたの。

 それは間違いなく、ミィとイアちゃんの使う……魔王さんの力。

 その力が本物かどうかを確かめるべく、ミィは一度下がった状態からもう一度飛び込んで斬りかかったの。


「見えた!」


「きゃっ!」


 様子見として突き出した短剣が弾かれそうになり力を体に入れると、それを狙っていたらしい長剣の一撃がもう片方からいつの間にか迫っていたの。

 とっさにもう1本の短剣で防ぐけど、小さなミィの体は結構な勢いで弾き飛ばされちゃったの。


「その光は……」


「使うまいと思っていたが……くそっ」


 お姉さんは魔王の力を使ったことを後悔しているみたいだった。それでも長剣を構えているからには、ミィとの戦いは終わっていない。だったら、ここからは気を付けないと……。


「この力は難点はあるが本物だ。大人しく剣を……なにぃ!」


「ミィはね、お兄ちゃんたちが知らない場所で負けるわけにはいかないんだよ!」


 地面をめぐる魔力の流れ、その力を真似て自分の体の中の力を巡らせ、手足の先まで一気に満たした。

 赤い光と、高揚感がミィの全身を包むのがわかったの。さあ、新しい戦いの始まりなの。



あれ、いつの間にかミィの中身が魔砲少女みたいになってる(笑



ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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