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145.要としての少女



 死の山に近い麓で見つけた遺跡、その中で遭遇したのは自分より以前に作られたと思われる魔王の予備としての精神体だったわ。

 自分のような少女の姿をしており、その体には布1枚で出来たような粗末な服。

 真っ白な肌は病的ですらあり、誰がどう見ても生きていない、と思わせる。


「これが……魔王様の?」


『と思うんだけどね。どうしてここにあるのか……呼びかけにも反応が無いから……自我が無いのかしらね』


 実際、私という成功例の1つに至るまでにはそれなりの失敗例があったはずだ。私の持つ記憶にも、作っては廃棄し、自分の生み出した物が命にならないことに絶望しかかった記憶がうっすらとある。

 あるいは、自分で自分を慰めるという行為に嫌気がさしたのかもしれない。


 ともあれ、目の前の存在が魔王に関係しているのだけは間違いない。そして、これが浮いているこの場所も……ああ。


『そういうこと……この子、結界の動力源なんだわ』


「イアちゃん、それって……」


 人の辛さを感じるミィの事だ、私の言う言葉の意味を正確に理解したに違いない。この少女体が、魔王の力を利用して結界の要の1つとしてここに封印されていたことに。生き物として死ぬことも、あるいは物として朽ちることも許されず、たった1人で。あの11人目の謎の存在は力の残滓が漏れていたのかもね。

 周囲の警戒をお願いして、一人浮いたままの少女体を回り込んで色々と調べる。

 思った通り、地下を走る魔力の道をここにひきこみ、この少女体を触媒に増幅しているようだった。


「それでその……戻せそうなのでしょうか」


「え、またこの子をここに封印するの?」


 青年の言葉に、ミィが悲しそうな顔をするけど悲しいのは私も一緒だ。少し意味合いは違うけれど……。

 何かといえば、もう戻せないのだ。この子はもう要になれない。


『無理くさいわね。魔王の作った道が切れちゃってるわ。戻そうと思えば年単位で頑張れば行けると思うけど……その間に他の要がどうなるか。かといってこの子、目は覚めないのよね……』


 後腐れが無いのは、このまま幽霊や亡霊の類として消してしまうことだけど……なんだかねえ。

 境遇がほとんど同じだからか、出来ればその手は選びたくない。


「連れていくこともできないんだ。触れないもん」


『魔力を帯びてれば私に触れるというっていうのも私の成功例たる所以なのよ』


 腕組みしながらあれこれ悩み……私は1つの結論を出した。要には戻せない、かといって処分染みた行動も嫌。

 あれもできない、これもやだと贅沢ばかりだけど……こればっかりはね。


『アンタたち、誰かこないかしっかり見張ってなさい。これから、重なるわ』


「重なる……つまり、こちらの精神体を取り込むのですね」


 納得した表情になる青年に、わかってるじゃないとだけ言って私はミィにも頷く。心配そうにこちらを見るミィをそっと撫で、浮いたままの少女体に近づいた。

 魔力を吸うとか、一体化するのはやったことがあるけど……丸ごとは……うーん、やってみないとわからないわよね。


『あんただって、外に出たいでしょ?』


 物も言わず、目も開かない少女体にそっと触れ、私は1つになるべく重なった。







 それは記憶。そして悲しい思い出。あの子は私を見るなり、失敗だと呟いて何かの石に括り付けた。

 今考えれば、それにはいつか何かに使おうということで封印に使う専用の石だったに違いない。

 不思議とその石からは離れることも出来ず、離れようという意識すら消えていく。


 最初の何年かは苦しかった。逃げたくても逃げられない。そんな日常だけが過ぎていく。

 飛び上がっても、走っても、あるいは泣きながら叩いても石は壊れない。

 いつしか私はあきらめのように割り切り、徐々に消えていく感情に身を任せた。


 それは何年もたった後、薄れゆく意識の中で私は考えた。あの子のあの様子だと、成功するまで頑張るだろうと。

 あの子の考えを持つ私だからこそ、わかる。


 だったら、いつか成功例が出るはずだと思った。そう考えたらやり残したことがまだある、と思うことができた。

 あの子のことは憎らしいけど愛らしい。だって自分だもの、自分だからこそ、私をいらないと言ってしまう気持ちもわかってしまう。


 けど、誰かが止めてあげなくちゃいけない。こんなことをしても明るい未来は無いよと。

 だから……いつか出会う成功例の私……貴女に私の……。


 瞬間、世界が砕けた。


『はっ!?』


 ずっと呼吸を止めていたような、ひどく息苦しい感覚が全身を襲う。本来呼吸の必要が無い私だ。それがこんな状況になるということは他に原因がある。そう、例えば魔力を吸われ続けた時なんかのように……。


「イアちゃん!」


「「「イア様!」」」


 すぐそばに駆け寄ってくるミィに、声をかけてくる魔族の青年たち。ふらつきそうになる体を維持しながら周囲を見渡すと、既に消えている少女体と、砕けた拳ほどの石。この石は……見覚えがある。


(ああ、私が縛られていた石か……私が?)


『ミィ、あの子は私の中に消えていったかしら?』


「う、うんっ! 急にすうってイアちゃんの中に消えたと思ったらこの石から変な鎖が伸びてイアちゃんを縛ったの。危ないなって思って砕いちゃったけど……駄目だった?」


 さすがにミィは鋭い。魔王の力による警戒、感知を見事に獣人の感覚で処理したのだ。

 もしもミィが砕いてくれなかったらもうちょっとややこしいことになっていたはずだ。

 そう、私が私でいられただろうか怪しいところだ。


『ふう……成功したわ。私はあの子を取り込んだような物ね。貴方達も感じるでしょ?』


「え、ええ。正直身震いするほどです。なるほど、この力があるからこそ魔王様は安心できない日々を過ごしていたのですね」


 口々に、青年たちは手に余る力は恐怖でしかないとか、皆で協力しあってこそだ、などと話し始めている。

 活発な意見に、自然と私の頬も緩むのを感じる。しばらく議論は続き、途中で今の状況を思い出したのかみんな申し訳なさそうにこちらを向いた。


『目的というか、やるべきことはやったわ。戻りましょうか』


「誰があの子を追い出しちゃったんだろうねえ……」


 ミィの言うように、誰がこの状況を作り出したかが問題だ。前々から準備していたにしては要にいたあの子を放置している理由がわからない。

 あるいはそのうち追い出されるように、なんて決めて仕込んでいたのかもしれない。

 誰が犯人なんだか、さっぱりわからないのでこれ以上考えても仕方ないのよね。


 気を付けないと溢れそうになる魔王の力をなんとか制御しつつ、私たちは出口へと向かう。途中、また人数が増えたりしないかと気にしたけれど10人と私達だけのままだった。

 まだあの謎の存在は遺跡の中にいるのかは気になるけど、敵意はなさそうだし放っておこう。


 それよりもここから北側に見つからずにさっさと逃げる方が大事だ。

 下手にあいつらと遭遇するわけには……あらあら。


『何か気配を感じるわ。さっさと行きましょ』


 かなり離れているけれど、北から気配が近づいてくるのを感じた。これまでの私とは段違いの距離を感じ取っている。

 これが試しに作られたとはいえ、魔王の予備2人分の力……か。扱いには本当に注意が必要ね。


 手早く隠ぺい用の魔法を唱えつつ、私たちは南下していく。北からやってくる相手が遺跡が目当てなのか、あるいは他の何かが……私たちが狙いなのか、それはわからない。

 実際のところ、それどころではない状態になっていたからだ。


 パンサーケイブに戻った私達を迎えたのは、どこからかあふれ出したソーサバグの集団が国境から南北どちらにも移動し始めているという話だった。

 まったく、もう少し手加減して出てきなさいよね、なんて言いたくなった私は悪くないと思う。


 理屈の通じない天災、そんな相手の戦いに私達は合流するのだった。

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増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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