144.寂しさゆえに……
急にアクセスが増えてる時間があるんですよね……なんでしょ。
大陸を覆っていた初代魔王の結界。それが破れてしまった現状はひどく危うい。結界の再稼働が出来るのならそれが一番ありがたい状況なので、その日も私たちは手がかりを求めて情報を集めていた。
そんな時に見つかった、古い古い遺跡跡。それは北の魔族領とちょうど中間にある緩衝地帯の中にあった。
北側は今回の結界消滅に対して特に何もすることはなく、こうしたことへ協力もする様子もなかった。
だからこそ、ミィと10人の志願者を引き連れてやってきたのだけど……中に入ってすぐ、11人になっていることに気が付いたのだ。
「私は本物ですよ」
「自分もです」
たまたま選ばれなかったのか、あるいは私とミィはさすがにごまかしきれないと何かが判断したのか。
明らかに1人増えている魔族の青年たち。こうして見ていても、誰が偽物かがわからないのよね。
試しに外に一度出たところ、10人になっていた……けど。
「イアちゃん、誰がいなかったんだっけ……わかんないよ?」
『ほんとね。いなくなった誰かが思い出せないし、11人だったというのだけが頭に残ってるわね』
仮にも魔王の予備である私と、現在一番魔王に近い……魔王そのものといっていいミィにまでここまで干渉するなんてとんでもない技だわ。
ますます、この中にある……あるいはいるのかしら? その何かが気になる。
『邪魔をしないならいいわ。11人で行きましょう』
さすがにみんな不気味そうだけど……逆に何かあるという確証も全員持ったらしく、反対意見は出なかった。
念のため、2人1組となって余った1人は私達とみんなの間に立ってもらうことにして再び地下へ。
やっぱり1人増えていた。念のためにとちぎって持たせた布きれもどこから調達したのか全員が持っている。
(どこだっけ……見たことあるわ……私)
思い出せないもやもやに顔をしかめるも、あまり考えを口にすべきではないと思った。この現象を起こしている何者かがそれを聞けば何をしだすかはわからないからだ。
敵が飛び出してきてもいいように、十分警戒しながら小部屋を探索していく。
さすがにかなり古いものなのか、かろうじて形だけはわかるといったところ。綺麗な床面とは対照的に、壁や天井には随分と埃が積もっている。
ミィが壺らしきものの破片を手にするも、すぐに崩れるほどには昔の物だ。
「イア様、ここはあの場所ではないですか?」
『様はやめてよ……で、どこ?』
同じく室内を探索していた若者に振り返ると……何か違和感。なんだろうか?
ともあれ今は話を聞かないと……。
「アーケイオンの神殿と同じように、ここは祈りに来た者の部屋とかそういったものではないでしょうか」
「おお、そういえば私も行ったことがある。あの見事な像は歴史を感じるよな」
『言われてみればそうね』
指摘する点は今は置いておいて、確かに言われたようにここはそんな場所に見えた。だとするとめぼしいものは無いだろう。
ミィを呼び寄せて、他の場所へと向かうことにしたわ。最初と比べ、気が楽になったけれどそれを表には出さずに私達は進んだ。
「開きませんね」
『ふうん……属性鍵か……』
「ご存じなんですか?」
前にちょっとね、とだけ答えてペタペタと私の倍ぐらいはありそうな扉を触っていく。仕組み通りならこの辺に1つ目の穴が……あ、あったあった。
そこには指が1本入りそうな感じの小さな穴が開いている。他にも5か所、穴があるはずだ。
ふわりと浮いて、上の方も見てみるとすぐに見つかった。当然と言えば当然だ。この穴はつなげると一つの魔法陣になるのだからそういう位置にあるはずだった。
都合6つ、空の光と下の闇と、火、風、水、地を示すための穴。
「イアちゃん、ミィが光らせるよ」
『よろしくね。光と闇は強くしないといけないから……他は普通でいいのだけど』
簡単に仕組みを説明し、ミィには少し風で浮いてもらって上の穴に行ってもらい、他の4つの穴にもそれぞれ人を配置する。
同時に対応する属性の魔力を込めて指を差し込むのが鍵なのだ。
そしてやや薄暗い通路を魔力の光が照らし出すと音もなく扉に隙間と、持ち手が現れる。
残った青年らの手によりそれがゆっくりと開かれ……中が見えてくる。
「なんですか……これは」
『ここはね。古代の神への祈りの場……そして、魔王の実験場よ』
ここにきて、まるで夢が冷めるように私の頭は冴えてきていた。そしてもやもやしていた記憶が一気に蘇ってくる。
ううん……これは、違う。思い出したんじゃない、共有したんだわ。
『かつて、魔王は己の最後の後のことを怖がっていたの。魔族がばらばらになるんじゃないか、権力争いでいがみ合うんじゃないか……協力関係にあった他の種族を虐げるんじゃないか。まあいくつかは現実になってしまったわけだけど』
「魔王様にそんな一面が……確かに、優秀すぎる指導者や、力のありすぎる相手にはつい頼りがちですね。
なるほど、今も昔も人は人、そのあたりは変わらないということですか」
口々に納得の言葉を語り、表情もそういったものに変わっていく青年たちを見ると意外とヴァズたちの苦労を背負ってくれる人材は近く人いるんじゃないだろうか、と思ったわ。
お兄様もそうだけど、自分がやれるからって背負い過ぎなのよね。私も人のことはいえないかもしれない……。
(あーあ、もっと気楽にお兄様とあれこれしたいけど……まだまだね)
そんなことを思いながら、ふわりふわりと浮いて壁の一角にある棺桶のような物に近づくと実体化して力を込める。
案外軽く、あっさりと蓋は開くも中には何もない。
『魔王は他にも怖いものがあった。どちらかというとそれを一番怖がっていたかしらね。何かといえば、自分という物を継いでくれる相手がいないこと。もっと言えば、下手な相手に継がせるわけにはいかなかったわ。
財産にせよ、武具にせよ。それに、魔王という立場も。だからいっそのこととして自分の代わりは自分で用意しようと試みた』
そう、そのためのいくつもの魔王の予備だ。私は……精神体を主としたある意味での不老不死を目指した成果。
他にもいくつかの成果があったはずだ。そのほとんどには自我が無く、私が唯一と言っていいはず。しかも、本人は私に自我があることが想定外だったようだったのよね。
当然、成功の成果の前には詩作という物がいくつもある。それはなんだって同じだ。
それは目の前で誰もが目にしながらも指摘できない物、部屋の奥の方に浮いている人型だってそうだ。
「イアちゃん……あれ」
『ええ。私の前の前……いえ、もっと前かしら? 実験体の様ね。力だけは成功したからここに要として封印したんじゃないかしら。出てきてしまってるようだけど』
意識も無く、ふわふわと漂う半透明の少女。ダンドランではまずみない、亡霊のようにも見える。
さて、こうなれば後は……。
『えーっと……ああ、アンタ。アンタはここでお別れね』
「何を!? ご一緒に過ごした時間をお忘れですか!?」
そうして私は11人いる魔族の青年の1人を指さし、一気に魔力を練り上げて死の宣告となるであろう殺気をぶつけた。
笑えるぐらい動揺し、前から一緒だった、なんて主張をしてくる青年だったもの。
周りの10人もこの相手が同僚であるはずという認識と、私の殺気に混乱している。
『馬鹿ね。アーケイオンの像は壊れたままの方が良い、とお兄様が言うから瓦礫は片付いたけど本体はそのままなのよ。昔の記憶に頼りすぎね……失敗よ』
そう、この青年はアーケイオンの見事な像、といった。実際にはただの石柱にしか見えないぼろい像なのだからそれはおかしい。
実際、建物にいる面々の評価は像に関しては一致しているのよね。お兄様や私たちのようなアーケイオンに声が届いた人にとってはあれがいいのだけど……。
ともあれ、それを知らないということは彼は偽物だ。
すると、音もなく青年は溶けて消えていき、静寂が残る。
『何がしたかったのかしら』
「うーん、一人が寂しかったんじゃないかなあ? 今のもやもや、あの中に消えていったよ」
ミィは指さすのは、目を開くことも無く漂う相手。なるほどね……そういうこと。
私は気合を入れて、浮いたままの少女体に呼びかけを試みることにした。
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増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます