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143.余った一人



『間違いないのね?』


「ええ、この先に……すでに同族がいます」


 人が隠れるにはうってつけと言える木陰で、私は報告に頭を悩ませていた。確かにここは国境を定めていない緩衝地帯だけど、この前の話じゃ興味がなさそうだったじゃないのよ……。

 どうして、こんな遺跡跡に北の魔族達がいるわけ?


「イアちゃん、何か変だよ」


『ん? 本当ね、なんであんなに慌ててるのかしら』


 魔鉄の量産のために、カーラにはパンサーケイブでひたすら鍛冶の手伝いをしてもらっている中、こちらの移動は徒歩かグイナルによる物。やや時間のかかるその移動方法でやってきたのは北の魔族領との中間にある死の山のすそ野の一端。

 

 志願者10名と私、ミィによる小規模の探索隊がやってきたのはそんな場所にあるとされる遺跡だった。だった、というのは既に何者かの手によって遠くから見てもひどいことになっているからだ。

 そんな場所から、人影が出てきた時には慌てた物だ。すぐに隠れて様子を伺うと、既に魔族がいるという。

 考えてみれば、この大陸で動けそうなのは獣人か魔族ぐらいな物なのだから2分の1で魔族なわけだ。


「何かが出てくる様子はないですね……行方不明者でも出たのでしょうか」


(記憶によればここには目立った物は……いえ、もしかして?)


 他の誰かが近づかないようにか、初代魔王は城以外にいくつかの建物を建てていたことに加えて、元々あった古い遺跡の奥に色んな物を仕舞い込んでいた記憶がある。

 王城自体、死の山の向こう側すぐに立てているのだから防衛という点ではその自信のほどはうかがえる。

 事実、戦いとなれば勇者以外の相手にひるむこともなく、全てを打ち倒していたはずだ。それが例え高位竜相手でも、なんとかしてしまうだけの力を誇っていた。

 だからこそ、今も崇拝のような気持ちを集める存在なわけだけど……ね。


 周囲の景色はだいぶ変わってしまったけど、この遺跡跡はもしかしたら、そんな時代に魔王が手をかけた遺跡だったのかもしれない。

 研究成果のようなものを仕舞い込んでいる場所だったかは覚えがないけれど、もしそうだとしたら不用意に足を踏み入れてはいけない。

 中には……問答無用で魔法陣を踏んだ相手同士を合成させるような古代の魔法を再現する装置なんかもあったはずだ。

 さすがにそれは一度動くと10年は動かないぐらいの大げさな代物だけど……。


「どうするの、イアちゃん」


『安全に行くなら……このまま出ていくのを待ってから探索したいわね。でも、そうしてるうちに目的の物、結界の要になる何かが持ち出されても困るのよねえ」


 そう、ここには魔王の結界を維持するための要になる物の1つがありそうだということでやってきたのだ。

 それが竜魔石のような物なのか、それとも全く別の道具なのかはわからないけれど、何かあるだろうなという予感はあった。

 ただそれが、魔族が行方不明になるようなものであれば考えは改めなければいけない。


 私やミィなら逃げられることでも、他のみんなはどうかという問題もあるものね……。

 口にしたら、そのぐらいの覚悟はできてる、なんて言われそうだけど。

 お兄様も、犠牲が出ないに越したことはないはずだものね、気を付けないと。


「一度ここの辺から何かを撃ちこんでみましょうか。それで逃げるならその程度で、もし逃げないようならそれだけ何かあるか、見つけたかということで」


『それしか……ないか……じゃ、ちょっとやってくるわね』


 こういう時は、意識しなければ半透明になって浮いて行ってしまう自分が適任だ。ふわりと空を舞うように溶けて飛んでいき、相手の魔族たちを眼下に収める。


(適当に狙いをつけてっと……せいっ!)


 見た目だけは派手に火の魔法をすぐ横あたりに撃ち込んでやると、慌てた相手は荷物をまとめてすぐに立ち去って行ってしまった。

 しばらくは戻ってこないかを警戒していたのだけど、戻ってくる様子もない。


『なんだったのかしらね……』


「よくわかりませんが、彼らが慌てるだけの何かがある、と考えるべきでしょう」


 志願者の代表である魔族の青年の言葉に、他の9人も静かに頷いている。どうでもいいけど、みんな寡黙よね。

 気になって聞いてみたら、私とミィが魔王の力を持っていることを知っていて、どうしても緊張してしまうんだとか。普通でいいのに……ちょっと無理かしら。


 ともあれ、彼の言うように何かがあるだろうと思って動くのが正しい。

 凶悪な罠か……あるいは化け物でもいるのか。目の前の遺跡、地面に潜るような階段を持った地下施設の入り口がぽっかりと穴を開けている。

 上にあった建物部分は崩落しかかっており、ぎりぎり残っているといったところ。


(近くで見ても、特に記憶には……痛っ……)


 階段を覗き込んだ瞬間、何かの痛みが頭を走った。呼んでいるのとは何か違う、でも私はこれを知っている……?

 脳裏にいくつも浮かぶ光景はこれまでの思い出のようでもあり、いつかの魔王時代の記憶の様でもあった。

 そんな中、1つの光景が妙に鮮明に思い出された。


 それは、魔王が自分の予備としての存在を疑似家族と扱うために一通り集めた時の記憶だった。

 男性体もあれば、老人のような姿もある。そして、私のような少女体も。

 どれもが本物と思わんばかりの姿だけど、魔王自身は不満そうだった。それはそうだ……だって、ほとんどには自我を与えなかったんだもの。ただの人形の集まり。

 結局は作り込んだ以上のことはできなかった。そんな予備たち。


「……ちゃん! イアちゃん」


『はっ!? ごめんなさい、ぼーっとしてたわ』


 肩を揺さぶられ、私は階段を覗き込んだまま立ち止まっていたことを悟る。今のは、偶然だろうか? それともこの遺跡の力?

 その疑問はすぐに晴れることになる。私以外には誰も特に問題が起きなかったのだ。

 恐らくは偶然、そう思いなおして慎重に階段を下りていく。

 地下の方に、力を感じたのだ。





「どこかで見たような……」


『神殿……かしらね』


「よくわかりませんが、祈れと言われれば祈りたくなる空間ですね」


 主に恐怖からですけど、と断りを入れる青年に頷き返して、私も地下にあった空間を見渡す。

 中央の通路の左右には小部屋がいくつか。今のところ何かが飛び出してくる様子はない。

 その代わりに、中央真っすぐの部屋には何かを感じる。気のせいか、ついこの間まで誰かが掃除していたかのように埃が無い。


 中身がなんであれ、結界の要の1つになりそうな予感だけは妙にはっきりしていく。

 魔物の襲撃といったことに警戒しながら、ゆっくりと前進していくも拍子抜けのように襲撃は全くなかった。

 先ほどの魔族達は何に驚いて慌てていたのだろうか?

 ふと振り返り、脱落者がいないかを確認する。ミィもいるし……11人全員……!?


『止まりなさい! そういうこと……1人、増えてるわ』


「え? 最初から11人じゃなかった?」


 獣人として、鋭い感覚を持つミィですら気が付かないほどの状況。それが逆に怖い。私の声と、ミィの返答に全員が顔を強張らせる。彼らはちゃんと11人できた覚えがあるようだ。

 不気味なことに誰もが同じように困惑の表情を浮かべている。私が間違えているという可能性が頭をよぎるほどだ。


 さて……どうしたものか? こんな物に出会いたくはなかったんだけどねえ……。


 恐らく、外に出るとこの1人はいなくなるのだ。だからさっきの魔族達はすぐに逃げ出したのだ。

 よくわからないけど、今外にいるので全員のはずだ、ということで……。


 どうやって11人目を見つけるべきか……私は11人全員を見渡しながら思案する。


 


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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