013.妹、くまさんに……であったー
タイトルコールはお好みの方でお願いします。
ライネルを出ての南西への旅路。
結局30人ほどの獣人の皆と一緒に俺達は旅に出ることになった。
大人だけでなく、子供も何人もいる。道中徒歩になるのか、と気にしていた俺だったがそれは杞憂だったようだ。
「大きいねえ、お兄ちゃん」
「うん。こんなに大きいとは思わなかった」
『1頭いくらぐらいするのかしら……昔はいなかったような……』
空を見上げながら周囲を伺っていた俺は、ミィに言われ改めてそう感想を口にする。
イアは隣に座りながら何やら考え込み始めた。俺は自分達や獣人の皆が乗る荷台を引っ張る巨体を見ながら、その力強さに感心していた。
5台ほどの荷台をそれぞれ馬車のように引っ張る四足の獣。
レイフィルド大陸では見たことの無い動物だ。
太って大きなトカゲをそのまま四つん這いにさせたような姿で、背中にふさふさの毛が生えている。
トカゲと違い、原始的な魔法を使うことで冬場でも動ける草食な奴らしい。
これまで村で見たことが無かった理由は、単純に出払っていたかららしかった。
体の割に意外と足が速く、人が小走りになる程度の速度が出るのだ。
おかげで旅は順調であり、このままいけば一月ほどで目的の土地にたどり着けるらしい。
思ったより遠いような、大陸を移動することを考えるとそうでもないような。
ただ、間違いなくレイフィルドから遠くなる。
『また考え込んでる。お兄様は心配しすぎ。大丈夫よ、きっとね』
「そっか、そうだよな。ありがとう」
横合いからイアにつつかれ、はっとなってお礼を返す。
イアは旅の間、実体化はしていなくてもあまり浮かないようにしているようだった。
理由としては意外とこの獣、グイナルが速いから置いてかれてはたまらないということだ。
ミィもしゃべっていないときは俺に抱き付いたままで日差しに目を細めながらぼんやりしている。
正確にはぼんやりしながらも訓練の最中なのだが。と、ちょうどその訓練の相手が見つかったようだ。
「ベイル、林の向こうで2頭何かが暴れてる」
隣の荷台にいるベイルに声をかけ、俺も念のために姿勢を整える。
「ご飯? 今日はミィの番だよね!」
遅れることしばし、ミィもまたその気配を感じ取ったようで荷物から自分の得物、片刃の片手剣を手にする。
きりっとした姿も非常に可愛らしく、このまま撫でたくなるのを必死で我慢しなければならない。……ともあれ、道中の食事が豪華になるか質素なままかは狩りにかかっている。
かといって横道にそれるような狩りは時間がもったいないのでほとんどない。
だから、こうして道すがらに出会う獣で問題なさそうな相手はありがたくいただいているのだ。
林に近づき、気配の主がそろそろ見えてくるころ。
イアはふわりと浮き上がり、先に確認をしてくれるようだった。
『あ、熊ね。結構大きいけど痩せたのが喧嘩してる。餌の奪い合いかしら?』
「たぶん冬眠から覚めたばかりなんだろう。共食いみたいで少し気は引けるな……」
イアの報告に、ベイルは若干顔をしかめるが止めようとは言いださない。
獣人にとって獣自体は別に敬う様なものではないが、避ける物でもないらしい。
ミィ以外にも何人かが当番ということでそれぞれ荷台から武器を片手に飛び出していく。
俺もまた、手を出す予定はないが一緒についていくことにする。
見えてきた熊は……確かに大柄だが痩せていた。とはいえ、絞られた体、というぐらいだから食べるには問題ない体格だ。
争っていた2匹がこちらに気がつくも時遅し。腱を切られ、あっという間に2匹とも物言わぬ躯と化すのだった。
(ミィも強くなったな……獣人の子らしくしっかり成長している)
まだ1年も立っていないというのに、ミィは様々なことを驚くほどの速度で吸収している。
獣人としての生き方や、その狩りの手法。体の使い方等を遊びも通じてすぐに見につけた。
魔力を使った自己強化の魔法もあっさりとだ。
これがミィの獣人としての才能なのか、魔王としての魔力操作の才能なのか、判断は難しい。とはいえ、ミィは自分に出来ることが増えることに喜んでいる。
俺の手を離れていくような気がして少し寂しいが、まだまだ教えることは多い。
そろそろ、力が怖いということをしっかり教える頃だろうけど、それは新天地で落ち着いてからでもいいのかもしれない。行けるところまで行ってみるのも大事だからな。
後方で見ていると、2匹は既に解体されているところだった。
手早く部位に分けられ、魔法が得意な子により水が魔法で生み出され洗われる。
ミィはそばに掘られた穴に食べない内臓たちを一生懸命移動して……お?
「それはもらっていいか?」
「あ、お兄ちゃん。これ? 美味しくないって」
俺が指さすのはミィが捨てようとしていた袋のような物。
何かと言えば、胆のうである。色々教えてもらった武芸者もこれさえあれば大体大丈夫、と言っていた。腹痛なんかには一番効くらしい。
「干して薬にするんだ。じゃ、もらってくぞ」
手早く口部分を紐で縛り、俺は手を振って荷台に戻る。
イアはそんな俺を微妙な目で見ている。視線の先には持ってきた内臓2つ。
『なんか匂う気がするわ』
「確かにそのままだとな。さてっと……」
頷き、本当なら自然に乾燥させるそれに意識を集中させる。
やることは単純に、魔法で強制的に乾燥である。効き目は多少落ちると思うが、乾くまでどこかにぶら下げて持ち歩くのもちょっとな。
そうしてミィ達が戻ってくるころには乾燥は終わり、再び旅路は始まる。
夜は当然、野宿だ。道らしい物はあるけど、途中で建物を見ることはまずない。
人間は魔族をこの大陸に追い帰した、と伝えられているけど実際にはそんな窮屈な物ではないのだと思う。
もしも魔族や獣人たちがこの大陸に十分繁栄したならば……人間は今と同じ立場で考えることが出来るだろうか?
そんなことを思いながら夜の見張りに立つ。
魔物が襲ってこないとも限らないので、こうした見張りは大事だ。
少し離れた場所にいる他の荷台のそばでも見張りは誰かがやっているはずだけど、音を立てることの無い静かな時間。
ぱちぱちと、時折たき火がはじけるぐらいだ。空の星を見上げ、白い息を吐く。さすがにまだ夜は寒い。
ミィも毛布にしっかりくるまって……おや?
「なんだ、起きちゃったのか」
「うん。お昼寝したからかな……」
たき火のそばにミィが一人、やってきた。イアは荷台で大人しく寝ているようだ。
寝る必要はないけど、寝られないわけじゃないそうだから、不思議なもんだよな。
「ほら、温まるぞ」
「ありがと……なんだかこっちに来た時を思い出しちゃったの」
自分で飲むために温めていたお茶をミィに差し出すと、一口舐めるように飲んで熱さに顔をしかめたミィはそんなことを呟いた。
こっちに来た時、か。大陸を出るという時、ミィは一日中俺に抱き付いていた。
離れるのが怖かったのだと思う。何もない山や荒野で一晩を過ごし、朝が来たらまた駆け出す。そんな日々だった。
「そういやこうやってたき火を2人で見てたな」
「うん。旅の間、怖かったけど嬉しかった。ずっとお兄ちゃんがいる。
ずっと、一緒だって。今もみんながいるから楽しいけど、2人の時も、嫌じゃなかったよ」
つぶやくように言うミィを俺は抱き寄せ、そのまま頭を撫でることで応える。
嬉しいような、寂しい思いをさせて申し訳ないような、そんな気分だ。
そのまま会話は少なく、俺達は見張りを朝まで続けた。
そして夜も寒さが目立たなくなったころ、俺達はまさに開拓中、という村から街に変化しそうな土地に到着するのだった。
早くセーフ、いや、アウト? セウトだー!になるべく進みます。
感想やポイントはいつでも歓迎です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。