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138.希望の果て

ミィたちが見たらラディが怒られそうな気がする回(>_<)


「ふざけないでよ! ボクは邪悪を討たなきゃいけないんだ、そう光の神様に誓ったんだ!」


 足元から青い光を溢れさせ、その小柄な体が矢のように突撃してくる……が、今度は俺の抜き放った竜牙剣に地面へとたたきつけられるようにして抑え込まれる。耐えているということは折れないほどには聖剣としては本物ということだ。

 目の前で少女の驚愕の表情が見える。これまで自分の攻撃が防がれたことが無いのだろう。無理もない。

 その間、王や教主からも返事は来ない。


「だんまりか。まあいい。気配でいる場所はわかってるんだ」


 どうして人はこうも偉くなるとわかりやすい場所に自分を置くのだろうか? あるいは頭がここにいると周囲を鼓舞するためだろうか?

 そんなことを思いながら、兵士が固めるあからさまに豪華な天幕へ向けて無造作に暴風を放つ。それは地面から吹きあがるような動きをし、天幕を大きくめくり上げさせた。

 中に見えるのは顔をひきつらせた……懐かしい奴ら。なんだ、2人ともいるじゃないか。


「そこから見てろ! 自分たちが何をしでかしたかの結果を!」


 景気づけにと、俺は光の神ラエラ、闇の神アンリの両方に祈って左右の手からそれぞれに力を打ち出す。矛盾するように見える両者の力。しかし光が強くなれば闇が濃くなるように、闇が深いほど光は目立つ。そういう密接な関係にあるのだ。

 闇夜を照らすような光球が飛んだかと思うと、何もかもが飲み込まれそうな闇玉が産まれ、それは周囲に積まれた物資に着弾し、それらを吹き飛ばし、その玉の中に飲みこんだ。


「あっ……」


「さあ、構えろ。力を入れないとすぐ終わるぞ?」


 まるで悪役だな、と思いながら顔色も青くしながら聖剣であろう小剣を構える少女へと向き直る。

 状況は明らかだけど、聖剣は力を失っていない。その事実に内心舌打ちし、聖剣の力の源である神へと心で恨み言を呟く。

 聖剣にいる神様は、この状況を楽しんでいるのだ。悪の俺に対して、正義の少女が逆転を狙う面白い光景だと。


(道理でこっちの聖剣が手ごたえがないわけだ)


 その事実に、相手の聖剣の材料がなんであるか、察しがついた。いつぞや自戒のために折った聖剣の一部、それをどこからか拾ってきたのだと……。

 恐らく教主たちは俺がいつか勇者を辞めるということを察していたのだろう。出なければ動きが速すぎる。


「聖剣よ!」


「遅いっ!」


 剣の力を引き出すのに叫ぶのは俺もよくやっていたことだ。実際には周囲に聖剣を使う勇者、というものを強調するために行っていたのだが彼女にとっては違うようだ。

 恐らくはそうしないと勇者と聖剣の力を発揮できない、そう訓練してしまっているのだろう。

 俺自身は実際に聖剣が無くても勇者の、青い光を自分から発することが出来る。


 逆に言うと、自由に勇者の力が発揮できるということになり、管理したい側にとっては厄介な状況だったんだと思う。

 それを反省点として、彼女は力の使い方をそう覚え込まされてしまっているのだ。


 並の兵士や魔物であればなすすべもなく貫かれるであろう鋭い一撃。切っ先に集中した力は俺の魔力障壁もぎりぎり貫くだろう。当たれば、だが。


「きゃあああ!」


「ほらほら、叫んでばかりでは勝てないぞ?」


 勇者の力である青い光はそれ自体が防御の役目も果たす万能な力だ。現に彼女も転がっていった先で兵士や物資の入った箱を巻き込んでいくが、彼女自身には怪我はないはず。

 その代わりに巻き込まれた先がひどいことになっているが、仕方ない。


「アルフィア王、それに教主様よ。こんな、こんな子供に何を期待しているんだ?」


 俺は色々な感情をこめて、豪華な衣服に身を包んだ2人を睨みつける。竜牙剣の先を向けてやればそこから何かが打ち出されているかのように面白いほど震え始める。

 おだてられ、神のご意思だと言われ、俺は奴らの思うままに力を振るっていた。その結果に何が産まれていたかを知らずに。

 そう考えると自分のことを棚に上げての八つ当たりになっているのかも……しれないな。


「あ…ああああ悪魔め!」


「悪魔? 冗談だろう。悪魔が……光の力を借りられるのかな?」


 震えながらも、そんなことを口走る教主のすぐ足元へと、ラエラの力を借りた光線が音もなく伸び、地面に穴を開けた。

 名前を騙られ、神意をゆがめさせられたというのはどうやら神様もご立腹らしい。ちょっと光らせるつもりがこうだ。

 アルフィア王に目を向ければ、既に彼は戦意という物をどこかに投げ捨てたらしく、後ずさりながら震えている。


「王よ。確かにそちらの持つ権力は力だ。しかし、それを使った先で何が起きるか、どんな反撃が来るのか。それぐらいは考えておくべきだったな」


 彼らの首を飛ばすのは簡単だ。ちょっと剣を振るえば実際に首が飛ぶだろう。しかし、それでは解決とはならないのだ。

 こうして生き残ることで、その問題点や行った事への責任という物が生まれ出るのだから。


 俺が1歩歩みを進める度に、周囲の兵士たちが1歩下がる。と同時に取り落した武器の音も響いた。彼らも迷い、悩み始めているのだ。光の神の名のもとに始まった戦いの根本が揺らいだことに。

 だからこそ、俺はそんな彼らを害することなく、静かに足から剣先へと黄金の光をうっすらとまとわせる。

 彼らの戦争を否定するためにだ。


 ガラガラと音をたて、少女が飛んでいった先で瓦礫となった物資が崩れ、まだ無傷な少女がまた立ち上がる。

 怪我はなさそうだが、俺との実力差は明らか。にもかかわらず彼女はまだ俺を睨み、聖剣を手放さない。

 それがどこか面白いのだろう。聖剣からは光は失われず、むしろもっとと輝いているような気さえする。


(まったく、悪趣味にもほどがある)


 おとぎ話のように、困難を乗り越えてこその勇者という気持ちが聖剣に宿る……聖剣そのものと言っていい神さまの悪いところだ。

 すんなりと物語が、戦いが終わってほしくないという退屈を嫌う神様でもあるのだ。


「ボクは負けない。負けちゃいけないんだ。だってボクが負けたら魔族を誰が倒すの? 誰が家族を守るのさ!」


 その細身の体にどこにそんな力があるのか。少女は全身から力を振り絞るようにして突撃して来た。

 甲高い音を立てて、少女の聖剣と竜牙剣がかみ合う。俺の魔力を帯びた竜牙剣は俺自身の聖剣には及ばないが竜の鱗も容易に切り裂く。

 そんな剣と刃こぼれなくぶつかるのだから少女の聖剣もよほど必死なようだった。


 だから俺は顔を寄せて囁いた。


「魔族にも、家族がいるぞ? 戦地に赴く父を待つ母子が。お前が斬るのは夢のある若者かもしれない……父を失い、復讐に燃える子供かもしれないぞ?」


「う……嘘だ! 魔族は闇に生き、毒の沼で体を洗い、瘴気を食べる邪悪な存在だ! アルフィア王が、父さんがそういうからボクは勇者になったんだ!」


 剣をぶつけたまま、少女が震え始める。自信に満ちた状態で一度へし折ったからだろうか。証拠も何も示していないのに俺の言葉に明らかに動揺している。

 本当に、俺は悪い大人だ。こんな風に少女を脅かすなんて……。


 アルフィア王が父だと彼女は言った。計算が色々合わないので、恐らくは孤児院か何かから実は隠し子なんだなどと呼び出したに違いない。素質のある彼女を。


「嘘だ嘘だ嘘だ!! 消えろぉ!!」


 俺の姿は人間のままだというのに、彼女は俺がまるで魔族であるかのように必死な形相でにらみつけ、聖剣を振るい続ける。しかし、それは俺には届かない。

 そんな彼女の間合いに無造作に入り込み、俺はその剣を握る手を掴んで囁いた。


「勇者というのは……人間の勇者じゃないんだ。覚えておくんだ。そして……お休み」


「あっ……」


 瞬き程の間、俺は勇者の力を発動し、青い光が衝撃となって吹きぬける。俺がつかんだままの少女はまともに衝撃を受けつつ、飛んでいくことも許されない。そうして彼女のまとっていた青い光を突き抜けての衝撃は彼女の意識を断った。


 脱力し俺にもたれかかる彼女を抱え、俺は死屍累々と言った様子で呻く男達を見る。


「さあ、戦いを辞めるか、光の神の元にお仕置きを受けるか。好きに選ぶがいい」


 真夏の太陽のように俺の頭上に輝いた光球を前に、兵士達は武器を捨ててひざまずく。王と教主は……とみるとそのまま瓦礫の中で気絶していた。


 こうして、俺の変則的な里帰りは1つの終わりを告げるのだった。

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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