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137.作られた希望


 雲を貫くような細さの青い光。俺の力と比べれば巨木と枝ぐらい違うが間違いなく、勇者の力だ。

 その光の元にいる力の持ち主と、その暴力でしかない力が向かう先を考えると背筋に恐怖が走った。


 一部の例外を除けば、勇者や魔王の力というのはまさに別格の力を発揮する、ずるのようなものだ。

 それは対人間、もっと言えば同じぐらいの生き物に振るう力ではなく、いつかやってくる規格外の存在への対抗手段であるとアーケイオンは語っていた。言うなれば、巨岩を砕くための力を日々の料理をするのに使えばどうなるか、といったところだろうか。


「悪い。俺達はいかなきゃ。獣や魔物があっちから逃げ出してくるかもしれないからな、気を付けて」


「またね、ばいばい」


「お、おい!」


 ようやく出されたスープに口を付けたところでの出来事で、碌に休憩も取れていないが仕方がない。

 熱すぎるスープを名残惜しそうに見るルリアの頭を撫で、雨の降る外に出る。しっかりと彼女の体を掴んで……ウィンディールへと祈りを捧げる。

 ただの高速飛行のために呼び出すと怒るだろうか? と、そんな疑問も返ってきた力の強さで吹き飛んだ。

 飛べ……そう言われた気がした。


「いいよ、にーに」


 小さな声に頷き、俺は雨空に勢いよく舞い上がった。ちょっと地面で水が跳ねたと思うけど……。

 豪雨ともいえない雨は周囲に展開された風の膜にはじかれていく。若干視界は悪く、雲に遮られて暗い気もするが方向はしっかり覚えている。

 空中で後ろに風を生み出すという方式で一気に自分自身を前に押し出し、空を舞う鳥よりも早く俺達2人の見える景色が後ろへと流れていく。


 街道を越え、小山を越え……見えてきたのは平原。ここに来ると雨もほとんど止んでいて、雲が空を覆うばかりだ。

 これから降るのか、もう止んだのかはわからないが……目的地はどちらにせよ、近い。


 見えてきたのは大軍と大軍。見覚えのある旗印を掲げている方がアルフィアに間違いないだろう。それに相対しているのがコルナ兵たちなんだろうか?

 そして、その両者の間に巨人が描いたような溝があり、まだ小さいが青い光を放つ人間がいた。


「子供だよ、にーに!」


「ああ、わかってる!」


 小柄な体、肩程で切りそろえられた髪。この距離からでも大人ではなく子供だなと感じる姿。その手にしたレイピアのような長さの剣が天に向けられ、その刀身へと青い光が……まずい!

 俺はルリアが少し苦しいかなと思いながらもさらに加速し、勇者とコルナ側であろう兵士達の間にすべり込んだ。


「なっ!」


 その叫びは誰の物か。目の前の子の物だったかもしれないし、後ろに控えていたアルフィア側の物だったかもしれない。俺はそれに答えず、掲げていた右手、ただひたすらに魔力を込めた魔力障壁を展開したまま両者の間に立った。

 振り返れば、ルリアが空気を読んでるのかいないのか、服のしわを直してアルフィア側ではなく、後ろの軍勢へとぺこりと頭を下げていた。


「突然だが、ここで勇者はお帰りだ。人間の戦いに出てくるもんじゃないぞ、その力は」


「だ、誰だよ急に! ボクの邪魔をしないで!」


 甲高い声。ああ……女の子なのか? よく見ると可愛らしい顔立ちをしており、なぜか都会の給仕が着ているようなひらひらした布の服を身に着けている。どう考えても戦闘に挑む格好ではないが、そういう演出なのだろうか、あいつらの考えそうなことだ。

 俺はその少女に答えず、勇者の力をはじいたのだということを強調するべく、右手を押し込む。


「うそ……手加減してあるけど勇者の力なんだよ!? どうして!」


 怯えるように自身の感情を口にする少女。まだまだ戦闘面では甘い。気持ちはわからんでもないが、相手に自分の動揺を伝えるなんてのは良くないことだ。演技という訳でもないようだからな。

 じわりと、青い光を帯びた小剣ごと少女が下がっていく。なんでもないはずの魔力障壁によって防がれた勇者の力という現実をそこに残して。


「アルフィア王か教主か、どっちでもいい! そこにいるかああーーーー!」


 俺は怒っていた。大人だから良いという訳でもないだろうが、子供が自分の意志に関係なく戦場にいていいものではない。戦いに歳は関係ないというのも悲しい現実の一面だ、それは否定しない。しかし、自覚のないまま戦場に力を持って相手の命を奪う。そんなことは子供にさせるべきではない。


 殺気と、魔力を乗せた俺の叫びと視線に兵士が割れるように動き、1つの方向を指し示してしまう。

 これは兵士が悪いという訳じゃあない。そういう戦いに兵士を連れてきたあいつらが悪いのだ。


「おい、防げよ」


「え? きゃあああああーーー!!」


 轟音と共に、少女は手にした小剣ごとあいつらのいるであろう方向へと俺の一撃で吹き飛ばされていった。まったく、こんな力で勇者を名乗らせて挑もうとは……相手が人間だから良いものの、竜だと速攻終わりじゃないのか?

 既に魔導書を背負い、杖を手にしたルリアに視線を向けるとこくりと頷かれるのでこの場所は任せて俺は吹っ飛んでいった少女の方へ向かうべく兵士達を睨む。


「私は人間じゃない、けど戦いは止める。エルフのネスフィアが娘、ルリア。この戦いに光の神の信託は無い。その証拠を今ここに。雲間に挿す光は父の呼びかけ、そのぬくもりは母の愛情……光の神よ……示せ!」


 立ち昇る先ほどの少女に劣らないほどの力。それは地上から空の雲を貫き、黄金色の力となって晴れ間を産む。ぽっかりと開いた空の穴から、まるで光の神が降りてきたかのような暖かな光が降り注いでいるはずだ。アルフィア側を除いて。


 どよめきと、視線を感じながら俺はその兵士達の間を進む。本当ならばこっそりと勇者をどうにかするなりする予定だったがこうなっては仕方がない。しっかりと示してやろう。アルフィア国が別に大陸の盟主でもないこと、教主が光の神の代弁人でもないことをな。







「何者だ!」


「その問いに意味があると思っているならそこをどけ」


 他の兵士より豪華に見える装備をまとった男がそういうなり斬りかかってくるが、ミィの速さと比べればため息が出るほどだ。

 わずかに身をどかし、足を引っかけるようにして転がす。自分の装備の重さでどこかを痛めるかもしれないがそんなことは知ったことではない。

 ここに、王か教主を守るためにいるのならばあの勇者の計画を何も知らないということもないだろうからだ。

 と、吹き飛ばされた先から転がるように飛び出してきた少女が斬りかかって来た。


「ボクは勇者なんだぞ! なんなんだよキミは!」


 さすがは勇者といったところか。吹き飛ばされても泥や汚れ以外に怪我はないようだ。もっとも相手もそうしたように俺もしっかりと手加減したのであれで怪我をされても困る。

 ちゃんと、張本人たちの前でこの子の力にあまり意味がないことを証明しなくてはいけないのだ。


「俺か? 俺は……お前を叱る男さ。その力は人間に対してまともに使っていい力じゃない。それを教えるために来たのさ」


 わらわらと集まってくる兵士達。その実力は前線にいた奴らよりは数段上だろう。しかし、あくまでも人間としては、だ。俺は元より、ルリアにだって敵わないだろう。

 少し震える切っ先が俺を向いているあたり、なんとか気合で恐怖を抑えているというところか。


「勇者の力は人の欲望のために振るう物じゃない。そのぐらい、教わらなかったのか?」


 そうして、ちょっとばかり大人気ない時間が始まった。

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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