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130.人の大地へ


 俺はあまりの衝撃にすぐには動けなかった。ダンドラン大陸のほとんどを覆う魔王の結界。それは大地をめぐる魔力をも使い、その性能を維持するとされる究極的な魔法の1つだ。

 俺もイアからの話や、見聞きしたことから推測するしかないほどの儀式めいた結界。


 この結界のおかげで外から見るとダンドランは紫に染まる空、荒れ果てた砂地、不気味にゆがんだ枯れ枝のような木々がいくつか見える程度の不毛な大地に見えているはずで、そこを魔物が闊歩するという人間には旨みの無い土地、と思わせる状況だった。


 それが、その結界が無くなったとなれば状況は一変する。もちろん、近づかないとわからないだろうけども空が青く、大地は肥沃で、木々も緑にあふれた豊かな土地であることがわかってしまう。

 魔物自体は俺達が困るほどにはあちこちにいるが、それだけが正解となってもあまり意味は無いだろう。


「狼の前に柔肉が差し出されたような物だ……ヴィレル」


「ああ、すぐに各地に伝令を出そう。北とも揉めている場合ではないな。さすがに私たちが消耗して相打ってくれればいい、とは考えるとは思いたくはないが……な」


 俺が言うまでもなく、統治する者の顔になったヴィレルは強く対策を言い切った。同時に懸念事項もだが……そうだよな、あいつらは使者の段階でこちらを馬鹿にしたような感じだったものな。

 援軍の準備に手間取りました、ぐらいはしてきそうだ。


「俺達はどこに行こうか……悩みどころだな」


『お兄様、それなんだけど……いっそのことお兄様だけで一度戻ったらどうかしら』


 カーラを含めると俺達の戦力は遊ばせておくにはもったいなく、人間側がどれぐらいの規模で、あるいは本当に攻めてくるかどうかはわからない状態だけど備えておかなくては。

 そう思い始めたところにかかるイアの言葉。その顔は何やら思案顔だ。


「どういうことだ? たぶん、あっちの王様1人ふっ飛ばしたところでいざという時には止まらないと思う」


 少々乱暴な手段だけど、俺にはそれが出来る。忍び込んでなんてぐらいなら余裕だからな。

 ただ、イアの意見は少々それとは違うようだった。


『さすがに私たち全員で動くにはレイフィルドは目立ってしょうがないし、種族的にもまずいわ。

 だから、私たちはこっちで備えようと思うの……魔族同士の戦いに』


 そのままイアは、何枚かある大陸の地図を机の上に取り出し、いくつかの場所に筆記具で丸付けを始めた。それは山の中だったり、大陸の中でも要所とは思えない場所ばかりだ。

 共通しているのは、つなぐと大陸を囲う円になるような……これは!


「初代魔王……ライラの結界? イアちゃん、思い出した?」


『ううん。そういうわけじゃないわ。私が同じことをやれと言われたらこの辺にくさびを打つだろうなって予想なんだけど……。偶然かしら? これまでに大きな戦いのあった場所が大体かぶってるよね』


「えっと……? お兄ちゃん、どういうこと?」


 頭がぐるぐるしだしたらしいミィをぽんぽんと撫でつつ、俺も地図を改めて見る。ヴィレルも伝令を誰か呼んだ後に同じように覗き込んできた。

 指さし確認をしていくと、確かに西は例のウェスタリア、つまりは海魔に襲われた場所だ。そして北は今も竜と戦いがあるらしい魔族の領土、南や東に至っては俺達が戦いを経験した場所ばかりだ。


『誰かが裏で糸を引いている、というには無理があるけれど、出来過ぎているわ。そう、このあたりで問題が起きると結界に悪影響があることを知っている存在がいると思うほかないもの。でもそんなの、魔王も超えるような化け物でしかないわ』


「本人達に気がつかれず、そこで問題を起こすように誘導する……確かに」


 人間に限らず、群衆という物は確かに何かしらに流されることがある。これは俺も勇者時代に何度も経験したことだ。

 でも……竜や海魔までその影響に? どうやって?


 考えていても仕方がないかもしれないが、イアが俺1人でレイフィルドに行くのもいいかもしれない、という意味はよくわかった。

 人間は俺が言うのもなんだが、いざとなれば目ざとく利益を奪いに、あるいは恐怖の元を断とうと押し寄せてくるだろう。一部の指導者の扇動によって……。

 さらにこのダンドランでも起きるかもしれない新しい騒動に備えておきたいということだ。

 特に、イアと似ているという魔族のいる西と、謎のままの北からの騒動に。


 人間も全員が魔族を討伐しないと明日が無い、なんて考えではないが王やそのぐらいの立場の人間が扇動したならば、兵士たちが海を越えてくるだろう。

 状況を探るためにレイフィルドに渡るというのはいい考えだが、どんな姿で行くか。

 魔族は論外、獣人も扱いを考えると微妙。人間だとどこで勇者だとばれるか……だとすると……。


「にーに、私も行く。エルフ二人組の知識を求めた旅、なら一人よりいいかも」


「ははっ、そのほうがラディが女性に絡まれることも減るかもしれんな。こちらは息子と私がなんとかしよう。好きに動くといい」


 唐突なルリアの提案にも、ヴィレルは乗り気だ。確かにそういう手も無いわけじゃない。あちらの大陸にもエルフは少数だけどいたはずだ。それに人間が魔導書を持っているとなれば奪おうということにもなるかもしれないが、エルフとなればそれは大陸を越えた問題になる。

 さすがに他の種族全部と戦おうとは人間も思わない……よな?


「お兄ちゃん、ルリアちゃん。気を付けてね」


「うん。ミィちゃんも……」


 2人は抱き合い、まるで互いの匂いをこすりつけるかのようにしている。本当に、仲が良くなった。

 これだけでも頑張ってきた甲斐があるという物だ。俺もイアに微笑み、頷きを返した。

 未知の事への不安はあるが、それで動かないというのも問題だからな、ここは皆に任せよう。


 俺は首元の首輪に手をやりながらルリアを見、出会ったエルフたちを思い浮かべながら魔力をそっと込めた。

 光が淡く広がり、全身を膜のような物がうっすらと包むのがわかる。


「にーにもお耳が長耳さん。お揃い」


『あと2つか3つぐらい探しておそろいの格好になりましょうか。そのほうが楽しいかも』


「ミィ探すよ!」


 姿見で確認した俺は、エルフの若者としてルリアと同じ髪色となり、特徴的な長耳も突き出ている状態だ。

 これならふらりと街に現れて、前々からレイフィルドにいたとして押し通せそうだ。


 ヴィレルやミィ達と今後について話し合い、そして彼女らにはいざとなればテイシアのバイヤーから連絡を取るように言い残す。

 速い方が良いだろうということで、俺はルリアと共に外に出て……彼女を背負った。


「カーラ、みんなを頼んだぞ」


『ガウ!』


 見送りに来てくれたカーラの首をルリアと一緒に撫で、励ますように言い残して俺はパンサーケイブから駆け出した。

 ルリアを背負った状態ではあるが、遠慮なしの移動であれば空を飛ぶのと大差はない。

 全身に強化の魔法をかけ、風の力も借りて大地を、空を駆けていく。


「すごいね、にーに速い!」


「しっかり掴まってろよ。まあ、障壁で包んでるから落ちないけどさ」


 目まぐるしく変わる景色にルリアが戸惑っているのが手に取るようにわかる。それでも低空を飛ぶような動きはカーラの回転飛行よりはマシなのか、気持ち悪くなる様子はないようだ。

 あっという間に畑がなくなり、人の手があまり入っていない自然の道が広がってくる。


 向かう先はこの大陸の入り口にあたる村、ライネル。レイフィルドの北から逃げてくる獣人や魔族が大体最初にたどり着く場所で、俺もお世話になった場所だ。みんな、元気だろうか。

 歩きやグイナルでは1週間ではきかないような距離を半日ほどで踏破し、俺はライネルのそばまで来ていることを周囲の景色で感じていた。


(あの岩山とか川も旅立った時と変わらないな……)


「にーに。見て」


「ん? 松明? 随分と多いな」


 道を行く誰かを巻き込んでもいけないので、速度をだいぶ落としての移動となったころ、ルリアに言われ前をよく見るとライネルの方角に灯りが多いことがわかる。


(一体何が……?)


 内心の焦りを隠せず、速さを少し上げて村に近づくと……何やら宴のような騒動となっていた。

 それも襲われたという様子ではなく、何か歓迎をしているような……。村の外から様子を伺うと、広間には20人ほどの人影、その周囲に主に獣人が集まっている。

 よく見ると人影は、随分とくたびれた衣服の魔族と獣人の家族たちだった。


「みんなで逃げてこられたお祝い?」


「みたいだな。よし、行こう」


 村が変わっていないことへの安心感を胸に、俺達はライネルの門へと向かうのだった。




ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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