128.揺れる情勢
全体の3分の2は来た感じです。200話は多分行きません。
ダンドラン大陸の南端からやや西寄りの街、テイシア。突き出た岬のような土地を活かして交易を中心とした港町だ。
今のところ確認されている大陸や種族で、人間以外の種族と大陸を全て交易対象にしている街でもある。
毎日船が行き交い、多くの物が売られ、買われ、そして運ばれていく。
俺たちの乗った船もまた、他と同じようその日の夕方、テイシアに入港した。やや外観で注目を集めながら……。
事前にバイヤーに話を通していた甲斐もあり、すぐに船に人が群がるようにして無事だった荷物を運び出していく。
少しでも船を軽くしておかなければ本格的な補修もままならない状況だった。
嵐を抜けてたどり着いた先であるウェスタリアを少しでも早く抜け出したかったというのが理由なのだが、それを知る者は船に乗っていた当事者たち以外には多くなかった。
「聞いてるだけでも厄介な話じゃないか……まったく、退屈せんな」
「出来れば他の事で忙しくなりたいところだよ……」
ミィ達はひとまず先に休ませるべく部屋へと向かわせ、俺は1人でバイヤーと話し合いの場を設けていた。
彼にとってもウェスタリアの動向やその理由は知りたい情報で間違いなく、忙しい状況であろうにすぐに時間を作ってくれたのだ。
そこで俺が話したのはウェスタリアの状況と、謎の2人の魔族について。
「ドーザという魔族のほうは記録や老人を当たろう。それだけの体躯、武器だ。知っている奴が1人や2人はいるに違いない。
問題は少女の方だな……喋らず、血が通っていないかと思うほどの白い肌、無表情な謎に満ちた姿。
しかもそれを崇拝するかのように崇める街の魔族……か。何か変な魔法でも使っているのではないか?」
「その可能性は考えたが、調べる前に出来るだけ早く離れた方が良いと思ってね。結局詳細はわからずじまいさ」
長くいるほどミィ達の疲れはたまるだろうし、どこでどう話が漏れるかもわからない。
あるいは相手がミィ達の気配、魔王の力を感じ取らないとも限らない状況だったのだ。
バイヤーも情報を武器とする1人。そのあたりは重々承知の様で、何度も頷きながら腕を組んで呻く。
これでこちらに攻めてきそうというのなら話は早いのだが、決してそういうわけではない。むしろ、同胞である魔族の領土が復興するのなら歓迎すべき話ではある。それが……本当に彼らの意思ならば。
「しばらくは様子見か……。魔物のほうが対処が決まっている分、気楽だな」
「俺もそう思うよ。ミィ達は船倉に閉じこもったままだったからな、しばらくはこっちで休んでいこうと思う」
今頃は食事でもしているのか、色々ふっ飛ばして寝ているのか。どちらにしても久しぶりのゆっくりした時間には違いない。
イアとルリアはともかく、ミィとカーラはだいぶ不満そうだったからな。いつもと違う環境に疲労もたまりっぱなしだ。
「それがいい。北や竜の情報も整理しておくといいかもしれないしな」
「そうだ。北には動きは?」
俺達が旅に出るまでは不気味なほどに沈黙を守り、国境とした場所にも兵士が来るということも無いと聞いている。
それまでの動きや、考え方からいって謎な状態のはずだった。
まさか、1度きりの戦いでこちらに勝てないと思った、なんてことはないだろう。
「何もない……と言いたいところだが、判断が付かないことがある。これはウェスタリアを通り過ぎてウチにきた魔族の話だが……北ではワイバーンが週に1回は空を飛んでいるそうだ。その上、魔物がいる草原などに舞い降りてはまた飛び去っていくという」
「週に1度? 冗談だと思いたいな……。ワイバーンだとしてもまともに相手をするには有力な戦士が必要だ。……数がそこそこいるらしいと聞いているけど、それでも週に1度は多すぎる気がするな。しかも都合が良すぎる」
経験からそういうと、バイヤーは苦渋の表情で首を振った。ということはまだ何か良くない知らせがあるということだろうか。
「それが、だ。その中にはワイバーンの数倍はある大きさのも混じってるらしい。曰く、まるで竜だと」
「その大きさ……まさか、祖竜? こっちでは生きているのか」
人間が単純に竜、として想像するのがこの祖竜だ。力は高位竜は元より、火竜といった属性竜とはさら数段下。高位竜が王で、火竜たちが宰相だとかすると祖竜は兵士の部隊長か精々近衛兵の1人、といったぐらいか。
強いことは強いのだが、有力な戦士が5人もいればいい勝負だろう。逆に言えば、戦士が5人いないといけないという強さではある。
レイフィルドではワイバーン同様に昔にほとんど狩りつくされたらしいと聞いている。
平地には住めず、ワイバーンのいるような土地に行かなければ出会うことも無い……ん?
「確かパンサーケイブの西や北西の山にワイバーンが急に来たことがあるんだが。もしかして祖竜が増えてるのか? あるいは住む場所を移ったのだろうか」
「あるいは祖竜も逃げてきたのかもしれんな。突拍子もない考えなのだが、聞いてくれるか?」
部屋には俺とバイヤーの2人のみ。であるのに声を抑えてのバイヤーの言葉だ。相当な中身の事を言おうとしてるのだろう。
自然と俺も姿勢を整え、耳を傾ける状況となった。
「髑髏杖、そして聞こえてくる噂……北の魔王候補は竜をある程度従えているのではないだろうか?
そのまま配下にしているのか、都合よく導くことが出来るかはともかく、戦力に出来ているのではないだろうか。
そう思えてならないのだ」
「竜をか……」
馬鹿なことを、と一蹴することはできないのが問題だ。手法はともあれ、俺達は既にそれを成し遂げているのだ。
カーラという火竜を仲間、家族として一緒に戦うという偉業を成しとげている。もし戦争となれば、1人と1匹だけで空から奇襲し、全てを終わらせるのも不可能ではない、そんな状況なのだから。
今のところそういう奇襲が無いということは相手が竜を従えてると言っても領土内ぐらいの距離に限定されるのだろう。
それが今後拡大されないとは限らない。
「対空の防衛や、巨大な魔力を感知する手法などを作っていく必要がありそうだな」
「それは既に研究させている。海でも役立つからな。魔力を元に波動を撃ちだし、返ってくる反応で強い反応があればすぐにわかる、そんな道具も試作は済んでいるぞ」
「そいつはすごい」
素直に感心し、後で見せてもらう約束を交わす。気配を探知する魔法を応用したのだろうか?
どちらにしても需要を道具という形にするというのは俺にはできない話だ。さすがバイヤーというところか。
「いずれにせよ、何かあるならこちらより東ではないかな。人間もこのまま何もせずに時代を過ごすとは思えない。
そろそろ精鋭の一団ぐらいは送り込んでくるのではないかな?」
「かつての大戦の再現か……」
目を閉じて、かつて所属していた王国の戦い方を思い浮かべる。一言で言えば、利益のための戦争をする国、だ。
魔族の脅威を声高に訴えかけながら、実態は停滞しかけた経済や膨らんだ問題を一気に解決するために戦争を仕掛けたとも噂されている王国の末裔が今のアルフィア王国だった。
怒りの矛先を魔族へと向け、自らの統治を硬いものにした手法は褒められるものではないが、巧妙だ。
俺はこの大陸に来て、ようやくその狙いに気が付いたのだ。あのまま向こうにいたら疑問はあっても見抜けなかっただろう。
恐らく、ミィが魔王の転生先というのも自らの国内で発生したことに対する批判を躱すために先んじて手を打ちたかったのだろう。
バイヤーは知らないかもしれないが、それに加えて勇者はいなくなった。
常にアルフィア王国の衰退を狙っている他の国々にしてみれば大きな隙だ。
アルフィア王国が盛り返しを狙うのか、他の国が抜け駆けするのか、それはわからない。
ただ、バイヤーの言うように遠征軍が組織されそうな状況ではあった。
「一度ヴィレルらと話し合うといいのではないかな。どう動くにせよ、東は荒れるぞ」
「そうするよ。ありがとう」
バイヤーの元を去りながら、俺は一人考えていた。人間の国がこの大陸へと攻め込んできた時、俺は何が出来るのだろうかと。
どちらも不殺というのが理想ではある。しかし、欲望を抱えて戦いにきた人間はそれでは収まるまい。
どうするべきか……その答えは見えないまま俺はミィ達の元へと戻る。
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増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます