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127.人形のような少女



「ですから、偉大なるドーザ様とイラお嬢様がなされたことはですね……」


「な、なるほど……」


 俺達が高位竜同士の争いによる嵐から逃れ、たどり着いた魔族の街ウェスタリア。そこは以前、トライデントを持った海魔たちによって襲撃され、有力な魔族の戦士がその餌食となった。

 力をほとんど奪われ、魔王候補から漏れた形になったとは聞いているが……それぐらいだ。

 その後の復興の手助けも断り、細々とした生活のはずだったが最近になってテイシアとも交易を再開、まるで海魔の襲撃が無かったかのような平穏を取り戻しているという。


 実際、船から降りて眺めた街並は被害を受けた跡は確かにあるが行き交う魔族に悲壮な色は無く、まったくもって普段通り、といった様子だった。

 ただ1つ、決定的におかしいと思うことがある以外には。それは、今目の前で熱弁している彼のように、新しい指導者らしい2人の魔族に関する称賛と崇拝と言えそうな態度だ。


 大柄で、ポールアックスを得手とする男の魔族ドーザ。そしてその傍らに付き添うという声なき魔族の少女、イラ。

 この2人がウェスタリアにやってきたのは海魔の襲撃からしばらくしてかららしい。

 街が破壊され、有力な戦士も力を失い、失意に沈んだ街。支援の手を掴むにも街の責任者は軒並み戦死か、寝込んでいる状況だったから支援の申し出も断ったという経緯があるらしいこともわかった。

 未来に希望が見いだせない中、街を襲う海魔の残党。それを追い帰し、力を見せつけたのがそのドーザという魔族らしいのだ。

 そしてどこに隠れていたのか少女イラと共に瞬く間に街の皆をまとめ上げ、復興への道を歩み始めたのだという。


「ああ……可憐で儚い、妖精のようなイラ様……」


「そんなにかわいい子なんだな。一度会ってみたいものだ」


 出来れば盛り上がるような相槌は返したくないのだが、何も言わないともう一回話してくるし、否定的な言葉を返せば誤解がありましたか?等とやはりもう一度話が始まるのだ。

 なにせ……もう2日目なのだ……いい加減疲れてきた。


「可愛いなどという言葉も恐れ多い事です。ああ、私もお声を聞いたことが無いのですがね? きっとこの世の物とは思えないお声に違いありません」


「声を聞いたことが無い?」


 ようやく、話の向きが変わりそうな単語を聞いた俺はそこに一気に踏み込んだ。気になる部分ではある。

 この街に来て、2人の話はどこでも聞くが……肝心の2人の姿はまだ見ていないのだ。

 実在の人物なのか?と疑いそうになるほどに……。


「ええ、ドーザ様は時々皆の前で語られますが、イラ様はその横で佇み、頷くのみですね。その代わりと言ってはなんですが、いざ戦いとなればその手からは魔王様かと思うほどに素晴らしい魔法が放たれます。この前は街を襲うワイバーンの群れを追い返したのですよ」


「ワイバーンを? それはすごいな」


 俺や今のミィ達ならばそこまで苦戦しないだろうが、ワイバーンは厄介な魔物の代表格の1つだ。空を飛ぶし、個体によっては魔力塊を撃ちだしてくることだってある。それを話からするとほぼ単独で追い帰したという。

 それが本当なら、魔王候補に出てきてもおかしくない実力ということになる。

 しかし、今のところこの地方では海魔の襲撃以降、魔王候補への声は上がっていないはずだ。

 ヴィレルやバイヤーからも聞いたことが無いからな……。


「ワイバーンを殺さなかったのもきっとイラ様がお優しい方だからでしょう……。騒動にも動じない物静かな態度。ドーザ様にだけお伝えしているであろうお言葉とお声がどんなものなのか、気になって夜も眠れません」


「じゃあイラ様だけで出歩くこともないわけだ……徹底してるな」


「まったくです。もっとも、おひとりでいるとこを見かけたら、無数の魔族が周辺をお守りするでしょうからご安心ください」


 俺としてはその意味で言ったつもりはないのだが、青年はどう勘違いしたのか俺の言葉をドーザがイラを心配してそばを離れていない、と解釈したようだ。俺の考えは違う。


 ドーザは、そのイラという魔族の女の子を利用しているのではないかという考えだ。


 青年からその後も聞き出した話の内容に俺は疑惑を確固たるものとして考えるようになった。

 魔族の少女は、喋らないのではなく……喋られないであろうということ。ワイバーンを追い返したというのも、言葉が喋られないので祈りの詠唱が上手く行ってないのではないかということだ。

 もちろん、祈りに言葉が無くてもいいのだが、あったほうが強く結果が返ってくることが多いのも事実だ。


「やっぱり俺も一目会ってみたいな」


「ええ、ぜひ。目を奪われることは間違いないですよ。黄金を糸にしたかのような金色の髪……宝石をそのままはめ込んだかのような真紅の瞳。その背には宵闇を切り取ったかのような漆黒の翼が……」


(なんだって……? その姿……本当なのか?)


 思わず口に出さず、心で思うだけにとどめた俺を誰か褒めてほしいと思う瞬間だった。背格好、そして語られた見た目。それは俺の良く知る誰かにそっくりな要素ばかりだ。

 もちろん、魔族の少女というだけで似たような姿の子がいないわけじゃないし、これまでにも街で見かけたことはある。

 ただ……偶然にしては出来過ぎではないだろうか? 街を救ったという少女が、イアと似ているのだと。


(いや、名前もよく考えたら似ているな?……姉妹か?)


 イアはかつての魔王の予備となる存在だという。予備を1つしか用意しないというのもその意味では考えにくい。

 彼女の記憶にないだけで、姉妹相当の存在が複数いても不思議ではない……とは思うのだが、それにしてもだ。

 速めに街を出た方が良いのかもしれない。相手がイアの事をどこかで知ったり、感じ取ったら?


「おっと、一度仲間の元に戻って状況を確認しないと」


「ああ、そんなお時間ですか。ではまた」


 本人はそこまで重要なことを話したつもりはないのだろうけど、今回の話は俺たちにとって非常に重要な物になった気がした。

 気にすべき項目がいくつも浮き彫りになり、どうにかしなくてはいけないこともわかったからだ。

 とりあえず、ドーザやイラとの接触はやめよう。相手が実力者なら俺の力が普通じゃないことに何かで気が付く恐れがある。

 このままテイシアの方へ帰ったほうがよさそうだった。








『なるほど。それでこの嫌な感じがあったわけ……。気になったからちょっと遮断の結界を張っておいて正解ね』


「急にイアちゃんがお部屋にえいってやるから何かと思ったよ。そっかー……」


「ドーザという魔族の方も心配。魔導書みたいなのを持っているかも」


 妹達の反応はおおむね予想通りだった。イアは先手を打って自分の気配を感じられないように部屋に細工をしたようだ。

 この感じなら、魔力を感知されてということもないに違いない。


「ああ。しばらくは窮屈だけど我慢してくれな?」


 せっかく港に寄ったのに外に出られないというのは相当大変だと思うけど、ここで問題が起きてしまっても後々大変なことになる。

 幸いというべきか、3人とも状況を理解し、納得してくれたのでひとまずは問題ない。

 その代わりと言ってはなんだが、俺が外に出る度に買い物を頼まれるのは……まあ、必要経費だろう。


 恐れていた出会いはその後訪れず、エルフたちの尽力もあって船の修理が予定より前倒しで終わったのは一週間後の事だった。

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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