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124.天に伸びる麓で


 光が無数のホタルのように舞っている。どこからか光が現れては不意に消える……そんな明滅が視界いっぱいに広がっていた。

 気のせいか、どこからか俺達の呼吸以外の音が優しく耳を打っている気がする。


「にーに、これは神樹の呼吸。そして色々と吸い上げている音」


「そうか……良い音だな」


 そう、俺達がいるのは3本ある神樹の内、一番太く大きな奴の根元だ。

 村ぐらいなら1つ丸々入るんじゃないかと思うような太くてでかい幹、そしてそのままワームとして動き出しそうなほどによじれた無数の根っこたち。

 当然、表面には苔のような物も乗っているが不思議とどこを見てもきれいだなという感想ばかりが出てくる。

 日の明るいうちも綺麗だったが、夜となるとその光景はまさに別世界だった。


 青とも緑ともつかない色の光が幹や枝葉の輪郭としてほのかに光り、どこからか風切り鳥の卵ぐらいの大きさの光が浮いてきては飛び交い、消えていくのだ。

 そばにいるミィやイアも言葉を失って見上げるばかりだ。ちなみにカーラは既に見上げすぎてコロンと転がっている。


「来てよかったな」


その俺の言葉も幻想的な光景に溶けていった。






 サルファンに言われ、俺達なら安全にここに来ることが出来るだろうから見に行くといいと言われての神樹への旅。

 といっても半日程度ですむ旅程だ。ついでとばかりに途中の街道をふさぐ状態になっている木々や草は許可を取った上で伐採済みだ。

 魔物も走りやすいだろうけど、行き来するのに楽になってると思う。


「特に異常はなさそうだな」


『魔力の流れもきれいな物ね。この辺に住んだら勝手に魔力も高まるんじゃないかしら?』


 俺たちぐらいの魔法使いになると、普通の地面もその下に流れる魔力を感じられるようになる。

 大体は微々たるものだがここのようにその流れ道となっている場合が稀にある。

 それは大陸中を網のように巡り、あらゆるものに影響を与えている。

 そんな中でも、ここの流れは光の川と見まごうばかりに見事な流れだ。


「お兄ちゃん、こっちに祭壇があるよ」


「おっと。一緒に頼まれてたんだったな」


 そう、サルファンには観光案内のように言われはしたが、どうせ行くならと頼まれごとがあったのだ。

 エルフたちが作った野菜や穀物などを捧げるエルフの豊穣の儀式。

 俺達にはルリアが一緒なので彼女が代理でやればいいということだそうだ。


 恐らくは昔のエルフがしっかりと作ったであろう祭壇は年月を経てもなお、丈夫そうな姿を見せている。

 そこに持ってきたものを並べていき、静かにルリアがその前に立つと最初は囁くように語りだした。


 俺達は少し離れた場所で彼女を見守る。この時ばかりはミィの腕の中のカーラも静かな物だ。

 あるいは周囲に満ちる魔力に心地よく感じているのかもしれない。


 紡がれる聞き覚えの無い言葉たち。エルフ独特の言葉だろうか?

 どこか物語を口にしているような、心地良い響きだ。時に手を動かし、体を動かし……声は歌となって響いていく。

 小さなルリアの体からどこにそんな声が、と思うほど段々と声が大きくなっていき、儀式も佳境だと感じる。


「すごいね……」


「ああ……」


 普段見たことが無いほどに瞳を見開いたルリアの声が神樹に向けて響いていく。

 それは到底届くはずもない距離と高さであっても神樹の枝葉を揺らした気さえする。

 詠唱と同じ扱いになっているのか、周囲や地面の魔力の道から祭壇とルリアに魔力が集まっていき、それは力の渦となって葉っぱを舞い上げる。

 葉っぱや風の立てる音がまるで神樹の声であるかのような響きの中、ついにはルリアが空に向けて両手を突き出して一言叫び……音が消えた。


 あれほど舞っていた葉っぱもヒラヒラと地面に落下していき、風のように巡っていた魔力も何事もなかったように静まっている。不思議な光景であった。


「終わった。よかった……こっそり練習してた」


『お疲れ様。素敵だったわよ』


「うんっ!」


 竜であるカーラにも何かすごいものだというのがわかるのか、ミィの腕から飛び立ったかと思うとルリアの周りをくるくると回っては子供の様に喜んでいる。まあ、まだカーラも子供か。

 戦いとなると竜らしく頼もしいのだけどな……。


 サルファンにでも聞いたのか、儀式をやり遂げたルリアはすごく満足そうな笑顔だ。

 やっぱり、こういう笑顔がいつもある環境にしてあげたいよな。


「にーに。本番は夜だからこのままここで過ごすの」


「そうなのか……たまにはいいな」


「ミィ、おなかすいたよぉー」


 情けない声が響き、俺達はつられて笑い出してしまう。その拍子に神樹のあちこちにいる小動物が逃げ出したのはご愛嬌という奴だ。

 火を使う訳にもいかず、作って来たお弁当を広げて木漏れ日の中、食事だ。

 戻って来た小鳥の鳴き声が聞こえては神樹の大きな幹と枝葉の陰に消えていく。

 他に誰もいないのに、不思議と見守られてるような、誰かがそばにいるような安心感のような物がある。


 それはきっと、神樹のおかげなのだと思う。今こうしている間にも、足元では神樹へ向けて大地の魔力が流れて行っている。

 魔力が吸い上げられていく神樹はそんなことはないはずなのに、脈動さえしている気のする巨大さだ。

 ここで神樹が喋り出しても驚かない自信はあるが、今のところその予定はないようだ。


 だんだんと日が暮れ、様々な赤、黄色といった光が周囲を染め上げていく。


『大事にしたいわね』


「ずっと未来まで、残したいって最長老は言ってた」


「ミィたちがおばあちゃんになるまで何回も来たいな!」


 全身を夕日の光に染めながら、それぞれが笑い、不思議な時間を過ごす。今日は特に何もしていないわけだけど、きっとそれでいいのだ。


 おこぼれのように俺達の体にも地面から魔力が巡り、神樹へと流れていく。それは俺達も神樹の一部になったかのような気分にさせ、自然と時間を忘れさせる。

 いつしか夕日は夕闇となり、周囲に闇が降りてくる。


 そして、別世界への扉が開いた。


 ぽつぽつと、光が舞い上がっては消えていく光景が現れたのだ。

 感嘆の言葉も漏らすことなく、俺達はその光景に目を奪われながら地面に座り込んだ。


「神樹は、エルフの魂を吸い上げて天に還すって伝説があるの。この光はエルフだけじゃなくて、一緒に生きて死んだ色んな命だって……今は信じたいな」


「きっとみんないるよ! ルリアちゃんの目でも光が見えるんでしょ?」


 小さく頷き、ルリアが根っこにもたれかかるようにして空を見上げる。その視線の先には星空といい勝負をしている不思議な光の乱舞。

 そう言われてみると、踊るように舞う光に1つ1つ命があるように見えてくるから面白いものだ。

 願わくば、この中にルリアの両親がいて彼女を見つけてくれるといいのだが……。


『あ……』


 イアの声に振り向けば、少しだけ他より強い光を放つ物が2つ……3つと雪が降るように降りてくる。

 それは俺達の上を回るようにしてゆらゆらと……ルリアの元に近づくと明滅して消えていった。

 きっとただの偶然、そのはずだ。ただ……ルリアの瞳に溜まる涙が本当ということでいいのだろうなと思った。


 そうしてとても不思議で、素敵な夜は過ぎていった。

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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