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121.妹の凱旋


 結論から行くと、さすがに若い土竜もそのままこの場所で住み着くのは嫌だという反応が返ってきた。


(そりゃあ……そうだよな。俺でも嫌だ)


 ではどこに住んでもらおうか、と考え始めた時だ。カーラが器用に右手で死んでいるほうの土竜を指さす。

 俺は首を傾げ、ミィに翻訳を依頼した。こういう時はミィの方が良いからな。


「どうしたの、カーラちゃん。んー、隣に死んでるのが嫌なだけで、ここに引っ越すのは構わないの?」


『ガウガウ!』


 何がどう違うのかはわからないが、土竜としては場所そのものは構わないが、あのデカブツをどうにかしてほしいということらしい。

 俺はこの話に驚きを感じていた。きっとイアやサルファン、そしてルリアも同様だ。

 何かというと、若い土竜は俺達が勝者で、死んでいる土竜に価値があると思っていることを本能的にか感じ取っているのだということだ。

 そうでなければ、問答無用で自分の力で吹き飛ばすなり食べるなりするだろう。


 竜は賢いのかそうでないのか、ちぐはぐな感じを良く受けるが今回もそれが当てはまりそうだった。


「人手を集めるにしてもここでは少々遠すぎるな」


「ある程度斬って運ぶか?」


『ねえ、ちょっと待って。土竜が何かしようとしてるわよ』


 どう運んだものか、サルファンと協議を始めてすぐにそれは無意味な物となった。

 振り返れば、土竜とカーラが死んでいる土竜の脇に立ったかと思うと、持ち上げ始めたのだ。

 カーラは最大の大きさ、つまりはほぼ生体の大きさと巨大になっている。

 都合竜2匹による力は強力で、大柄に思えた土竜がじわりと浮き上がる。


「ちょっと偏ってる。にーに、魔法で支援できる?」


「お、おう……やってみる」


 飛ぶように風魔法でもかければいいか?と思いながら見上げるような位置から祈りを始め、実行。

 局地的な上向きの風が吹き続けるという自然にはあり得ない現象が発生し、土竜の死骸を浮かせようと力を発揮する。

 そのままするすると竜2匹の力を借りて移動が始まり……気が付けば無事な神樹の近くまで来ていた。


「ここからならなんとかなるのではないかな」


『じゃ、降ろしてもらいましょ』


「竜が竜を運ぶなんて世界初じゃないか……?」


 正直、俺も驚いてばかりだ。それでいいのか、竜の世界って……。

 当人である若い土竜は満足げに道を戻っていく。カーラによればこれでゆっくり寝れる、と言っている感じのようだ。

 このままあの折れた神樹のあった場所で魔力の道から吸い上げ、過ごすに違いない。


「にーに、ひとまず防腐と、眷属が食べに来ないように工夫する」


「そうだな。サルファン、結界は使えるか?」


「多少はな。相手は動かない以上は敷地に展開するのと同じだ、すぐに始めよう」


 さすがに魔導書を引き継ぐ最長老、そのぐらいは可能だということだった。

 近寄る眷属はミィを中心に討伐し、その間に俺達は土竜の死骸を囲むように結界をはり、地中からもワームの類が来ないように地面にもうっすらとだが結界を張った。


 なんだかんだと作業が終わったのは土竜討伐から2日後であった。




 エルフの里は歓喜と驚きに満たされる。それは竜の脅威が取り除かれたことであり、新たな竜とエルフの関係に新しい物……共生関係が産まれたことへの興奮からだと思う。


 討伐の証明にと角と牙といった目立つ物を切り取り、それぞれに運びながら俺達はエルフの町へと帰還したのだ。

 最長老自らの出陣ということで心配していたエルフは多いようで、行きと比べると随分と大げさな歓迎模様だ。

 どうも他にもエルフの町は点在しているらしく、雰囲気の違う集団がいくつもあるのがわかる。

 その集団は恐らくは他の町の連中なのだろう。


 牙を持ったままのミィが振り向けばどよめき、人ぐらいになったカーラが肩にルリアを乗せて歩けば歓声が上がる。

 おおむね、歓迎されているとわかるだけの反応だ。

 特にカーラを見る目と反応に悪いものがなくなっていくのがよくわかる。

 最初は明らかに火属性の魔物、ましてや竜じゃないのかという疑惑(本当の事だが)が不信感を募らせていたようだがエルフであるルリアと仲良く歩いていることに人々にも、何かが違うのだと感じさせたようだ。


「諸君!」


 ざわめきの中にサルファンの声が強く響く。そのままでは聞こえないだろうから、何か声を広げる魔法でも使ってるんだと思う。

 自然と、エルフたちの視線がサルファンを向く。それは大人も子供も一緒で、思わず俺達もそちらを向くほどだ。


「神樹を脅かしていた脅威は取り除かれた! その証拠がここにある!」


 儀式のような身振り手振りで示されるのは俺達で運んできた竜討伐の証明の数々。

 エルフたちの視線が熱を帯び、角や牙に注がれるのがわかる。

 それを見て取ったサルファンはこぶしを突き上げてさらに叫ぶ。


「しかし! この牙たちの主は神樹を最近脅かしていた竜ではなく、別の者だったのだ!」


 ざわめきというよりもどよめきに変わっていく周囲の面々。そこに畳み込むようにサルファンは語る。

 土竜が2匹いたこと、神樹を完全に破壊していたのは前からいたほうの個体であること。

 最近出てきた若い方は交流に成功したこと、住む場所が別になったことなどだ。


 最初は半信半疑という感じだったエルフたちもだんだんとその言葉が染み入って来たのか納得の表情になっていく。

 サルファンが土竜の体を素材とするべく、人手を募ると宣言したことも大きいのかもしれない。

 細かい話は置いておいて、今目の前で謎の多い竜を素材として確保できるという現実がエルフたちに利益と知識という利点をはっきりさせたのだ。


「私はここに宣言しよう。土竜の躯を余すことなく使い、新たに祭具として魔導書を作成することを。新しい未来を見据えるための灯として!」


 両手に魔導書を持ち、天に捧げるように突き上げたサルファンは何を思ったのか、その手を降ろして俺達、正確にはルリアの方を見た。


「気づいている者もいようが、今回は先祖の時と同じく、他の種族の戦士が手を貸してくれた。その中には……我らの同胞もいる。さあ、ルリア……来なさい」


 突然のお誘いにルリアが驚くのが横にいてもわかる。ただ、悪い話ではなさそうだった。

 だからこそ、俺はルリアの頭を軽くなでて、そっと背中を押した。彼女もまた、俺を見てうなずき前に歩き出す。


「彼女は……ネスフィアの家の娘だ。結果として苗字をなくすことになってしまったが、その心は失われていなかった。ルリア、エルファンリドルに手を……見よ!」


 大きなどよめきが街の外にまで響きそうなものになる。視線の先には魔導書に手を乗せているルリアがいる。

 ほのかに魔導書が光り、それはルリアの全身を包み出した。


「魔導書エルファンリドルは竜と魔族、そしてエルフの力の結晶。祖父はこの魔導書に枷を設けた。それはこの力を悪用しない、正しきエルフの心の持ち主でなければならないという枷だ! この少女は示したのだ、己の心が真にエルフであることを!」


 高らかにサルファンの声が響き続ける。その間、ルリアは恥ずかしそうに魔導書を抱えたまま輝き続けている。

 それは少女だからこそ感じるはかなさや、可憐さを増やす形になり視線を自然と集めた。


「時代は進み、我らも新たに歩き始めねばならない。だからこそ、私はここで彼女にエルファンリドルを譲る。そうしてこそ、私の手は新たな魔導書を掴めるという物だ!」


「「「おおおおーーーー!!!」」」


 怒号のような声が響き渡る。エルフという種族にしては珍しい本当の大声だ。

 サルファンに促され、ルリアも魔導書を掲げ、その光をみんなに見えるように大きくした。


「ルリアちゃん、良かったね」


『まったくよ。あの子も幸せにならないと』


 妹2人の言葉に俺も頷き、腕に抱えたカーラを少しばかりきゅっと抱きしめた。

 ガウっと文句を言われた気がしたがきっと気のせいだ。


 その日、ルリアはエルフとして再び皆に認められたのだ。

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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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