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011.イアの独白(わがまま)

挿絵にしたら捕まってしまう!

 



 ふと左腕に寒さを感じ、目を覚ます。

 いつもと同じ、窓からの月明かりだけが照らす部屋。

 冬の夜は長い。月の高さから、まだ真夜中であろうことがわかる。


 横を向けば右腕にはやはりいつも通りのミィ。静かな寝息を立て、ぐっすり寝ている。

 左腕に……誰もいない。毛布もかかっておらず、腕が出たまま。

 しかし、シーツには誰かがいたようなシワがある。


(イア? どこかにいったのか?)


 イアは本来寝る必要も無いらしく、たまに散歩として出ていくことがある。

 でもその場合には毛布ぐらいかけていくはずで、こんな風には放っておかないのだ。

 ミィを起こさないようにそっと剥がし、毛布をかぶせる。

 猫が丸まるように姿勢を変えるミィに微笑み、静かに部屋を出た。


 暗いはずの部屋には暖炉の灯りが灯っていた。


 確かに暖炉にはしばらくは火が残るぐらいの薪を入れておいたはずだけど、もっと小さい火になっているはずであった。

 視線をやれば揺らめく炎、そしてたまに薪のはじける音。


 そんな暖炉の前にあるソファーに、イアは一人座っていた。


 最近お気に入りだというスケスケの、寝間着の役割を果たしていない薄着。

 何度言っても寝る時には下には何も身に着けない、と公言するイアだ。薄着過ぎる1枚以外には何も身に着けておらず、イアの肌が透けて見える。

 寒さは感じないらしいから良いとはいえ、薄着越しに見える少女然とした体の艶めかしさに俺は顔が火照るのがわかる。


 だけど、イア、と呼びかける声は口から出る前に消え去ってしまった。


 膝を抱え、じっと暖炉の火を見る瞳にはほとんど感情が無かった。

 普段の、明るく陽気なイアの姿はどこにもなかったのだ。

 初めて見る彼女の姿に体が硬直しているのがわかるが、それでも動かないわけにはいかない。

 彼女は俺を兄と呼び、俺もまた、妹として接しているのだから。


「イア」


 今度は声が出た。ただ、普段通りの声が出せているか自信は無かった。


『……お兄様、どうしたの?』


「それはこっちの台詞だ……」


 膝を抱えたままのイアの横へ歩み寄り、隣に座る。

 器用な獣人の手によってつくられたソファーは俺の体重も難なく支え、快適な座り心地を提供してくれる。

 イアは一瞬戸惑ったようだけど、俺から離れるといったようなことは無かった。


『まあ、そうよね。少し……自分の事を考えていたの。自分は何者だろうと』


 そんなことは決まっている。

 そう言おうとして、こちらを見るイアの瞳に言葉が飲まれる。


『初代魔王のいざという時の保険、それが私。あいにく知識と力の器だけで、体はそのままとはいかなかったみたいだけど……でもそれだけ』


 座ったままイアは手を動かし、手元の薪を1本、暖炉に放り込む。

 上手く入り込んだ薪はすぐに火が付き、炎を少し大きくする。


『ミィは私がいなかったとしてもいつか魔王として力をつけられるだけの才能がある。

 これは中にいた私だからこそわかるわ。言うなれば今代魔王ってとこかしら。

 お兄様と同じ、偶然に偶然が重なった生来の才覚になるわね』


 淡々と説明をしながら火を見つめ続けるイア。

 俺はそんな彼女に声をかけることも、肩を抱くこともその時は出来なかった。


『でも、私は違う。魔王だった何か。魔王でもなく、魔族でもない。かといって人間や他の種族でもない。私は……何?』


「イアは、イア……だろ?」


 ようやくそれだけを口にして、妙に乾いていた口を湿らす。

 イアは俺に何も答えず、暖炉を見続ける。弱弱しくつぶやく彼女に何もできない自分にいら立ち、ソファーについたままの手をぐっと握りしめてしまう。


『やっぱりお兄様は優しいわ』


 イアの小さな手がそんな俺の手に重ねられ、温もりを感じる。


『怖いの……この体もいつ消えてしまうか。何より、今こうしている自分という物が魔王だった何かの物なのか、自分自身の物なのか。自分だと誇れる何かが自分にはないことに気が付いてしまったの』


 イアの告白に、俺は頭を中から殴られたかのような衝撃を覚えていた。

 何が兄だ、何が勇者だ。お兄様と呼ばせておきながら、俺は彼女をちゃんと家族として見れていたのだろうか?

 少なくとも、こんな悩みを抱えさせたままで、良いはずがない。


『だから、きゃっ!?』


 可愛らしい声が俺の腕の中で響く。左腕でイアを俺が抱き寄せたからだ。

 戸惑いにか、慌ててこちらを見上げようとする彼女の頭を右手で抱きしめるようにして抱え、ソファーに倒れ込む。

 魔力を押し付けるように吸収させて全身実体化させた状態だ。


「……悪い」


『よくわからないけど、お兄様だものね』


 俺が下になり、彼女を抱きかかえたままであおむけの状態。

 薄い寝間着越しに、彼女の体が俺に密着する。俺の魔力を勝手に吸っているのか、しっかりと実体化した彼女の体。

 ミィよりは育っているといつも言っている胸が押し当てられるというか押しつぶされているのがわかる。


『お兄様の鼓動が……響いてる』


「俺もさ。イアを感じる」


 丁度互いの心臓が重なる位置で、2人は重なっていた。

 耳を当てているわけでもないのに、聞こえる気がする互いの心音。


『ふふっ、お兄様。どきどきしてるの?』


「ああ……悪いか?」


 我ながら妹扱いする女の子に言う言葉じゃないな、と思いながら抱きしめる手は緩めない。

 自然と限界が来たのか、イアの顔が俺の首元に降りてくると自然と彼女の息遣いの音も聞こえてくる。


「どきどきが聞こえるってことは、生きてるってことだ。誰でもない、イアが俺の前で生きている。それでいいじゃないか。もちろん、ミィも仲間に入れてって来るだろうけどな」


『いいの? 私、きっと邪魔になるわ。物を食べても魔力は補給されないし、何かの儀式で消えてしまうかもしれない。初代の残滓だからって利用しようと魔族がやってくるかもしれないわ』


 俺はそんなイアの言葉に彼女の頭を乱暴に撫でることで応えた。


「兄貴は妹に苦労させられたからってどうってことないさ。家族なんだ。一言、言えばいい。助けてってな」


『そっか……そう……お兄様は、そうよね』


 イアはそれだけを答え、沈黙する。

 俺の首元に倒れ込んだまま、指を俺の胸元で踊らせる。

 ひっかくような、くすぐるような動き。それに何か言おうとして体が飛び跳ねた。


 イアが、ちろりと目の前にあったであろう俺の首を舐めたからだ。


「おい、イア」


『なあに、お兄様☆』


 いたずら心いっぱいの、いつものイアの声が耳に届く。

 顔を起こしてみれば、見つめ合う瞳には光が戻っている。

 そのことにほっとしながらも、動きを止めないイアに文句を言おうとした時だ。


『だーめ』


 ぎゅっと、イアは両足を俺の左足に絡め、しっかりと抱き付いてきた。

 咄嗟の事と、なぜかしっとりと湿ったイアの体がぴったりと俺に張り付く。


『お兄様、私……妹としてお願いがあるの』


「どんなお願いだ?」


 嫌な予感がしながらも、俺に断る術は無い。


『簡単よ。ちょーっと、いつもより吸わせてほしいの』


 にこりと微笑むイア。しかし、その言葉の中身は到底ほのぼのとしたものではないように思えた。


「だったらこんなこと必要ないだろう!?」


 こんなこととは、体を絡めた挙句、抱き付いたまま……その、体に口づけをするような真似だ。

 水音がするたびに、確実にイアに俺の魔力が伝わっていくのが感じられる。


『あら、魔力の吸収は接触の方法で効率が違うのは常識よ?

 それに、お兄様のお兄様はちゃんとわかって期待してるみたいだけど……ふふっ』


 自称の年齢の割にしっかりと女の子らしい腰をひねりながらそんなことを言うイア。


 まずい。


 何がどうって言えないけどたぶんまずい。


「冗談はその辺に……いつの間に!」


 さすがに焦りを覚えた俺は拘束から脱出しようとしたが、それは出来なかった。

 いつの間にか両手足首に透明な、魔力で出来た拘束具が現れている。


『お兄様の魔力波長を調べるのにだいぶ時間がかかったわ。

 これでそう簡単には外せないはず。つまり……目くるめく背徳の時間よ、お兄様!』


「違う、結構違うぞ、イア!」


 イアに魔力を分けること自体は別に駄目じゃない。

 しかし、それを丁寧に説明している暇はなさそうだった。


『さー、脱ぎ脱ぎしましょうねー。お兄様は私に任せて天井の石の数でも数えてて』


「それ違うぞ!? 何か、何か違うぞ!? ちょっ」


 その後の事は多くは語るまい。最後まで締まらないなあとどこかずれているような感想を持ちながら、俺はイアのなすがまま……夜を過ごしてしまった。





 翌朝。


「あれ、お兄ちゃんどうしたの、そんなに疲れた感じで。イアちゃんは妙に元気だし……???」


「いいんだ、ミィ。いいんだ」


 いつも通り起きてきたミィの問いかけに、俺は力なくそう答えるのだった。


感想やポイントはいつでも歓迎です。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。

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