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118.土竜、その出会い


 エルフの大陸にそびえるように生える神樹。個別に名前は付けず、まとめて神樹と呼ぶそうだ。

 いずれも大地から多くの魔力を吸い上げ、枝葉に至る頃には自らの力も混ざって独特の力を放つ木材となる。

 エルフたちは年に決まった回数で神樹から素材を頂き、それを利用しているのだとか。

 吸い上げすぎて枯渇するというようなことはないらしい。


(そうなると……この辺の地下にあるな、魔力の道が)


 サルファンの経験上、比較的安全だった道を皆で連れ立って歩く中、そんなことを考えていた。

 ちなみに同行者は他にいない。もう一度言うと、最長老たるサルファンが竜に会いに行くというのに俺達以外誰もいない。


『ねえ、さすがに護衛もなしでいいの?』


「ははは。他の者では眷属の一部はともかく、神樹にたどり着くころには疲弊してしまうだろうさ」


「人手は欲しいが、無理されてもなあ……」


 まさかとは思うが、土竜の眷属はみんなあのワームの類じゃないだろうな……。

 変な予想は本当の事になるからやめておくようにといつだったか誰かに言われたような気もするけど、こういう物は止めようとしても止められないよな。

 なおも案内に従い神樹へと歩いている途中、気が付いた。


「お兄ちゃん」


「ああ」


 サルファンを囲むように円陣を組み、それぞれが武器を構える。カーラは人ぐらいの大きさに戻り、手乗りから立派な戦力へと変わっている。

 そんなことをしなければいけない相手、つまりは敵がいる。森が、静かすぎた。

 彼が慌てていないところを見ると、このあたりは以前からこうなってしまったのかもしれない。

 土竜とその眷属の影響によって……。


 飛び出してきたのはワーム……ではなく、熊型と狼型の魔物だった。普段なら争うか、出会うことを避ける2種類が協力して襲い掛かってくるという状況がまずおかしい。

 見れば、その瞳や手足等にわずかながらも魔力の揺らめきが。

 魔物と化してしまったのか、あるいはこの形を取ったのかはわからない。


『ガウ!』


「お肉……無理そう!」


 飛ぶようにしてきた狼型を無造作にカーラがつかみ、道のわきにたたきつけるようにして投げ捨てる。 ミィも空中に生み出した岩のような何かで邪魔をすると、転げてきた相手の首を見事に切り裂いていた。

 イアとルリアもそれぞれに魔法による迎撃に入っており、こちらにたどり着く魔物はいそうにない。


「やはり、旅は成長には必要ということかね?」


「それが正解かどうかはわからないが、じっとしていては変わらないだろう」


 正面に立っていた熊型を数匹まとめて竜牙剣で切り裂きつつ、そんな背中にかかった声に答えた。

 サルファンもまた、その手に持った杖の先端から光弾を打ち出して迎撃に参加している。

 魔導書は彼には強力すぎるそうで、いざという時以外には使わないのが無難なのだそうだ。

 確かに、武具に振り回せるという逸話は人間にだってあるものな。


 一通り倒しきり、気配は感じてもこちらに向かってくるものがいないことを確認して歩みを再開する。

 どうやら、厄介な相手だということは周囲も認識したのだろう。

 これで土竜が眷属として魔物などを従えていれば、それでも襲い掛かって来たんだろうが……それが無いということはやはり勝手に周囲に集まっている、ということか。


『あ、ワームみたいな頭の無い奴は襲い掛かってくるんじゃないかしら』


「にーに、足元注意、ね。」


 少し弛緩した空気を引き締めにかかる優秀な妹2人に笑い掛けつつ、道というには下生えも生い茂り始めた道を歩いていくことしばらく。

 剣や魔法でひたすら切り開き、さらに奇襲を防ごうとするために広げたので俺達の後ろには結構な幅の道が出来ていた。

 ちょっとやり過ぎたか?


「この後、神樹に向かうのに助かるからいいのではないかな」


「それもそうだ」


「お兄ちゃん、あれ」


 前を向くと少し先にちょっとした坂があり、その向こうには神樹の1本。

 木々や地面に隠れて根元が見えないが、だいぶ近づいてきていたようだ。

 もうひと踏ん張りと道に出てきた枝葉を切り裂きつつ、道を作る。

 そうしてたどり着いた先は、下を見下ろせそうな場所だった。


『へぇ……あれが土竜なの……何か変な姿ね』


「えっと、鼻先に魔力を集中して土の中を進むって読んだことがあるよ」


「ほほう、我らでも知らぬことが多いその話を……なかなか勤勉に過ごしていたようだな」


 思いがけず褒められたからだろうか、照れた様子のルリア。そんな彼女を可愛く思いながら俺も視線の先にいる相手、土竜であろう存在を見る。

 全体的には黒か茶色、四つ脚の獣のように見える。鼻先はとがっているというよりは突き出ているという方が正しいか。

 この距離でもわかるほどの光沢を誇っており、うつぶせに寝た状態で投げ出された両手足の先には鋭い爪が。

 大きさを別とすると畑とかにたまに出てくる土中のなんだっけな、獣に似ている気がする。


 土竜が寝ている神樹のそばから海辺の方へと広い道、恐らくは土竜が歩いた後であろう部分がまっすぐに広がっている。


「あれで竜なのか? 予想とだいぶ違うんだが」


 ミィも俺の言葉にうんうんと頷いて驚いた様子で土竜を見ている。

 が、イアとサルファンはそろって首を振った。


「あれでもブレスは吐くし、ちゃんと鱗もあるのだ。空は飛ばないが……」


『住処が違うから変化したんじゃないかしら。ほら、風竜とか嵐竜ってすごいほっそりしてるって聞くわよ』


 そういう物らしい。確かに嵐竜は空を飛び続けるために火竜とかとは違う体をしていたな……。

 となると土竜も環境に適した体に変化していったというわけだ。

 領土が土の中……にしてはでかいな。


「あんな大きいのが潜ったら穴だらけになっちゃわないの?」


「ミィちゃん、多分カーラと同じ」


『ガウ?』


 ミィの素朴な疑問は答えが目の前にあったということのようだ。土竜もまた、大きさを変えられ……だとしたらあんなに大きくなってなくて神樹のそばにいればいいじゃないんだろうか?

 最初から小さい状態でなら被害も大きくならなかったろうに……。何か理由があるのだろうか。


 そんなことを考えながら見つめていたから気が付かれたのだろうか?

 あるいは、その類の獣同様にひどく鼻がいいのかもしれない。

 見つめる先で、土竜がその長い鼻先をヒクヒクとさせたかと思うと、巨体をむくりと起こして周囲を眺め始めた。


 咄嗟にみんなしてしゃがみこみ、出来るだけ気配を消すようにする。しばらくして変化がないのでそっと覗き込むと、土竜はまた眠りについていた。


「ひとまず近くに行こうか」


 全員の承諾を受け、なおも森を進み……神樹を見上げられるような距離にまでたどり着いた。

 花や草木だけがある空間ながら、神樹のおかげか独特の雰囲気というか気配のような物を感じる。

 あるいは神樹にも何かの意識があるのかもしれないな。


「お兄ちゃん、土竜さんが寝返り打ってるんだけど」


「ああ。あいつの歩いてきた広い方に出てから起こそう」


『寝起きが悪いとかは止めてよね……』


 まったくだとイアのつぶやきに内心答えつつ、俺達はこっそりと目的地にたどり着いた。

 さて、どうしたものか?


「どうやって話しかけるんだ?」


「ああ、一応前に効いた手段で試す」


 サルファンからそうして魔力と共に出ていく魔法は……チャネリング?

 覚えのある魔法の気配、そしてここでそれが意味があるのか、と両方の驚きで俺がサルファンを見る間に効果が出たようだ。


 唐突に、土竜が顔を上げ……こちらを向いた。


 響き渡る咆哮。それは大地を、森を震わせる。


「っ! 子供かっ!」


「うわわわ!」


 土竜の咆哮、それは決して敵対した物ではなかった。

 全く別の物……それは。


─あそんでー!


 そんな、子供じみた感情だった。






ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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