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117.魔導書と土竜の秘密


「好きに座ってくれたまえ」


 案内された屋敷の一室。床や壁、天井や柱に至るまで明らかに質が良いとわかる木材が使われており、室内にも関わらず緑があちこちにある不思議な場所だった。

 最初はお金に物を言わせて良いものを買い集めて建てたのか?なんていう考えが浮かんだが、どうも違いそうだ。

 サルファンは俺から見てもわかるほどに丁寧に椅子も扱い、ゆっくりと座ったからだ。ちゃんと、物に気を使っている。


 彼が最長老ということは恐らくは間違いがない。であればルリアの身の回りの話なども少し気になることが出てくるのだ。


「最初に、最長老とは何をしている立場なんだ? さっき聞いた話でいえば、神樹の守り手を決める儀式は最長老がやる、ぐらいのほうが威厳がありそうだが」


「もっともなことだな。それはこれを見てもらった方が早いだろう」


 言葉と共に机の上に出されたのは……魔導書、エルファンリドル。

 見える限りは茶色を基本として金糸で縫われているのか、無数の模様と文字が描かれている。

 中に何が書いてあるのかはわからないけど、まるで中身を見せたくないと言わんばかりに鍵がつけられている。

 表面は紙というよりも何かの革のような……ん?


『この感覚、まさかその本……』


「お兄ちゃん。竜牙短剣が震えてる」


 言われ、俺も立てかけた竜牙剣に手をやると確かに何かに反応するかのように少し震えていた。

 牙に既に意志があるわけではない。つまりこれは……魔導書に共鳴している?


 そしてイアの言うように、魔導書に感じるこの気配は……。


「エルファンリドル。別名竜躯の書。にーに、剣を抜いてみて」


「お、おう……」


 ゆっくりと鞘から抜き放つと、魔導書もまた、わずかに光を放ったような気がした。

 まるで久しぶりに同胞に出会った時の歓喜の震えのようですらあった。

 やはり、この魔導書は竜の素材を使っている。


「かつて、魔王はダンドラン大陸に魔族の住める領土を確保した。しかし、考えても見てほしい。今でも恐らくはあちこちに魔物が闊歩し、竜が自由に動いていた土地だ。そこに魔族が繁栄しようとしたらどう思うだろうか?」


「竜にとっては、羽虫が増えてきてうるさく感じるだろうな」


 そう、竜そのものは別としてワイバーンやその類であれば魔族達でも討伐は出来る。生き残るためにそれらの命を奪うことは良くあること、といった時代だっただろう。

 そうなれば住処が騒がしいことに竜が気が付かないはずもない。


「その通り。魔王の配下……仕えてはいなかったようだから客人扱いか。その中に私の祖父であるエルフがいたのだよ。最終的に彼と魔王は大陸北西部に住み着いていた竜たちを何体か仕留め、その躯を大魔法の触媒として用いたそうだ。魔族たちが暮らせる土地にするためにね」


 これはその時の一部で作られたのさ、と言ってサルファンは魔導書の表面を撫でた。

 竜の皮、そして竜の血を使ったインクで描かれているという魔導書。

 表面の模様は鎮魂の意味を持った物なのだという。


「いつしか魔王が魔族としての国を作るとなった時、祖父はその場を離れたそうだ。自分自身もエルフを支えなくてはいけないのだから、とね。その際にこの魔導書は餞別としてもらったそうだよ」


 その後、魔王は……自分を頂点とした組織を作り上げていく。あるいは、そのまま一緒にいたらそのエルフを巻き込んでしまうと感じたからなのかもしれないな。


「魔導書の持ち主は強大な力を得ている。しかし、逆にその発言力は大きすぎる。望まずとも、最長老に指名されたという気持ちが増長を産む。それを危惧した祖父は最初から自分では選ばなかったそうだよ」


「それが最長老であっても色んな役割を兼任していない理由か……なるほどな」


 つまりは最長老はいざという時の外敵への対処を主に行う、名前と比べて最前線にいることの多い立場ということになるようだ。

 それでいうと、土竜は彼1人では対処できない物ということになる。


 それを口にすると、サルファンは重々しくうなずいた。


「口惜しいことにね。追い出すだけなら行けるかもしれないが眷属を封殺したり、神樹に被害が出ない戦い方では勝てそうにないのが実情なのだ。そこで君たちがやってきた。しかも、こうして感じるほど竜由来の武器も携えて」


「最長老。お願いがある」


 ルリアが席を立ち、真剣なまなざしで最長老を見、頭を下げた。

 小さな少女がやるには相応しいとは言いにくい謝罪の姿勢だ。


「家の復興自体は出来なくはないと思うが……彼はもう前のような祖父にはなれないかもしれぬ。

 それぐらい、衝撃を受けているようだ。それでも望むか?」


 サルファンはルリアが要件を口にするより早く、その望みを把握していたようだ。

 確かに、こういう時ぐらいじゃないと覆すのは難しいだろうなと俺も感じる事柄だ。


 ルリアは小さな顔をくしゃりとゆがめ、それでも頷いた。

 俺はそんなルリアを見て……思わず腕を取って抱き寄せた。


「にーに……」


「無理に家と役目に戻る必要はないさ。俺達だってもう家族なんだ。ルリアがしたいようにしたらいい」


 そう、彼女の祖父が家を取り戻したい、残った家族と暮らしたいと思っているならそれを選ぶはずだ。

 もしもそうでなく、ルリアへの妄執に捕らわれているだけなら……復興の意味はない。

 潤んだ瞳のルリアを撫でてやると、落ち着いてきたのか席に座り直した。


 イアとミィが席の端から褒めているのか、にこっと微笑んでいる。

 あ、カーラが暇そうにしているな……。


「連れが少し飽きてきたようだ。土竜との対話の席について確認したい」


「ああ、それもそうだな。そこの赤いのも……火竜だな? 随分小さいようだが」


 サルファンに見つめられ、カーラが体をびくんと跳ねさせて机の上に立って見せた。

 何か用?と言わんばかりだな。


「神樹にさえ気を付けてもらえれば、強力な札となってくれそうだ。その時はよろしく頼む。さて、土竜だけど神樹の1本を住処にしているのは聞いているようだが……今もそうでな。しかも、たまに様子を見に行かないと暴れるのだ。暇だと」


「……? もう一度言ってもらえるか? どういう理由で暴れるって?」


「構ってくれないと暇だと暴れるのだ。どうやら地中に普段いるせいか、接触に飢えているようなのだ」


 なんだろう、その残念具合は。横を見ればミィやイア達も呆れた顔をしている。何をどう間違って人語というか、他の種族と語りあう術を手に入れたのかは知らないが、知らなければそんなこともなかったろうに。

 まあ、本能のままに暴れられるより対処法があっていいと考えるべきか?


「土竜は自身の眷属たちは特に従えてるということではないようでな。勝手にそばにいて勝手に暴れているそうだ。そのせいで私が現地にたどり着けにくい状態になっているのだが、それは考慮してくれないようでね」


「眷属が邪魔していけないのに、最近来ないと暴れ出すかもしれないと」


『……ねえ、これから行ってたたき出してどっか別の場所に住んでもらったら?』


 そんな、イアの身もふたもない意見が現実味を帯びて感じられるほど、ちょっと残念な土竜の現状を俺達は知ってしまったのだった。

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増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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