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116.街中に湧き立った者


 外は既に戦場と化していた。エルフの人々が悲鳴を上げながら騒ぎの中心から離れていく。

 その大元には、巨大なワームが何匹か顔を出していた。太さは俺の胴体以上にはありそうな、なかなかの巨体だ。


『うげげ、ワームは嫌よ』


「好き嫌いを言ってる場合じゃないだろう?」


 とは言いながらも、俺もすすんで戦いたい相手かというと疑問が残る相手だ。

 生命力も強く、半分に切っても生き残ることが多い。燃やし尽くすか、首を落とすか。

 街中のこの状況だと……。


 エルフの中にも当然戦士はおり、今も思い思いの攻撃をしかけているようだけど、ワームは致命傷にはいたっていないようだ。

 俺が戦ったことのある相手より耐久力高くないか、アレ。

 そうなると、だ。暴れてもらう訳にはいかない。


「ルリア、凍らせるぞ!」


「うん。わかった」


 一番効く火系統は周囲に燃え移ってしまうかもしれないから使えず、生き物に有効な雷も下手に暴れたりされても厄介だ。

 という訳でリヴタートルに船上でしたように氷の魔法を選択した。

 2人の異なる詠唱が短く響き、白がワームへと襲い掛かった。

 氷の毛布を巻き付けたかのように、ワームたちが白い氷に覆われる。


「ええい!」


 2人の横をミィが飛ぶように駆け出し、一陣の風となる。

 その間にもワームは囚われていない部分で抜け出そうとするけど俺も参加した氷はびくともしない。

 気が付けば、ミィはすぐそばに迫っており、地面を蹴って鳥のように飛び上がるのが見えた。


『ますます早くなってるわね」


「ああ……」


 飛び上がった勢いそのまま、ミィはワームの1匹の首元を竜牙短剣で深々と切り裂いた。

 降り立ったミィにわずかに遅れて、ワームの首が転がり落ちる。

 音を立てて、巨体が地面に倒れ込んでいく。


 周囲のエルフの多くはその光景に目を見開いていたが、戦いを続けていた戦士はこれ幸いと残ったワームへと襲い掛かり、その首を狩り取った。

 どうやら追加のワームはいないらしい。街に平和が戻った……ということでいいかな。


「ミィ、他にはいそうか?」


「ううん、大丈夫みたい。でもあっちのほうに何かいるよ。大きい、すごいのが」


 ミィが指さすのは神樹の1本。例の土竜がいるという方向なのだろう。

 土竜……どんな奴なんだろうな。空を飛べないらしいことはわかるのだが。

 それはそれとして、残念なことにワームは利用価値がない。食べられないし、皮もすぐに腐るので使えないのだ。

 後処理はどうしたものか。前に出会った時はそのまま放っておいたが、この街中ではそうもいかないだろう。


「おお、もう終わっておるのか。さすがの実力じゃの」


「なんとかな。土竜の眷属とかいってたが、頻繁に来るのか?」


 言いながら、そう頻繁には来てないだろうなという確信があった。もし頻度が高いなら、もっと街中が大変なことになってるであろうし、こうも混乱した動きにはならないだろうと思ったのだ。

 エルフたちが逃げ慣れてない、そのことが襲撃の少なさを示している。

 老エルフは、過去の経験から眷属と見抜いたのだろう。


「たまたま振動に覚えがあっただけじゃからのう。これまでに数えるぐらいじゃよ」


『話は追々として、ひとまず埋めちゃいましょうか』


 イアの提案に頷き、俺も穴に手をかざして大地の神様に祈りを捧げる。

 水が沸いてくるように、地面に開いた穴に真新しい様子の土が盛り上がってくる。

 この土がどこからくるのか考えたことはないけど、考えても仕方ないか。

 ワームは仕方ないので別の場所に穴を開け、適当に放り込んで埋めた。他に方法が無いのだから仕方がない。


 周囲で見守っていたエルフたちの感嘆の声が響いたのが聞こえ、思っているよりエルフたち自身の魔法は他の種族より強いという訳ではないのか?と思い始めた俺がいた。

 直接比べたことはないけれど、俺が聞いたことのある話でもエルフは魔法に長けているという物が多い。

 それはもしかしたら、抱えている知識量といったものの関係で、使い方に長じているということだったのかもしれない。

 その割に、ワームへの対応はやや遅れているようだが。


「お兄ちゃん、これからどうするの?」


「ひとまず土竜のところに話し合いだな。俺達だけじゃなくてエルフの代表者もつれていくことになると思うけど……」


 ふと顔を上げると、ざわめきの向こうに何人かのこちらに向かってくるエルフを見つけた。

 少なくとも、周囲にいる普通のエルフとは少々、違うようだ。

 だが、近づくにつれ違和感が俺の中を満たし始めた。


 力を感じる場所は先頭にいるエルフではあるが、その本人ではなかったのだ。

 手にした何かに主に力を感じた。


(この感じ……もしかして?)


「魔導書……エルファンリドル……本物……」


「ルリアちゃん、大丈夫?」


 肩を抱えるように震えながらも先頭のエルフを見るルリア。彼女の言葉通りなら、あの手に持っているのは初代魔王がエルフたちの力を借りて作り上げた魔導書ということになる。

 ということは持っているエルフがつまり、最長老だ……若いな。


(力の強いエルフが老化が遅いという可能性もあるな)


 自身の想像を仮の答えとして用意しておいて、歩いてくるのを待ち構えた。

 気が付けば周囲のエルフたちも彼を迎えるように向きを変えているのを見ると、最長老かは別として相応に偉い立場にいるのだと思わせた。

 近づいてくると、若く見えた顔にも確かにシワが多少ある。ただそれも、その程度の違いしか感じられないということなのだが……。


「君たちがワームを対処してくれた客人かな?」


「ああ。土竜との対話に参加するためにきた」


 言葉よりも語ってくれるだろうと思い、竜牙剣を鞘ごと前に構えてそっと刃を見せて見せる。

 これだけでも見る者が見れば、この剣の特異性に気が付けるはずだ。

 そして、相手のエルフは推測通りに剣の力を感じ取ったようで、大き目の書物を掴んでいる右手に力が入ったのがわかる。


『貴方がエルフの代表者かしら? まさかとは思うけど最長老ってことでいいの?』


「そのまさか、だ。お初にお目にかかる。力ある者たちよ……土竜との交渉には私、サルファンも同行する」


 こちらこそまさか、だと思うんだがな……ここは黙っておくところなのだろうか?

 竜となればその力はそこらの魔物では比べ物にならない脅威だ。そこに一族の代表者になるであろう人物が同行するというのは正気とは思えない。

 ルリアをちらりと見るが、驚いたまま首を横に振っている。つまりは、嘘が無いということだ。


「何かあったら責任が取れないんだが……?」


「一族の大事を他者に預けるというのも無責任が過ぎるであろう。話を詰めたい。

 屋敷に来てもらえるだろうか」


 そう言われて断るという選択肢は俺達には用意されていない。

 この後のためにも、話し合いは必要なのだ。

 エルフたちの視線を集めながら、俺達は最長老─サルファン─の背中を追いかける。


『お兄様』


「わかってる」


 耳元にふわりと浮いてのイアのささやきに俺も小さく答える。

 左手にルリア、右手にミィの手を掴み、しっかりと抱き寄せられるようにして歩き出した。

 視線の中に、どうにも粘つくような物を感じたからだった。


 表には警戒を出さず、警戒だけは続けてサルファンの屋敷へと向かうのだった。

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R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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