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114.緑の大地へ



 エルフが主に住む大陸、ユラシアへの旅路は順調だった。

 途中、時々だがルリアにエルフたちの視線が来たような気もするが、ちょっかいは出してこない。


(ルリアは真実の瞳でエルフの誰かに都合の悪い真実を見てしまったと思うのだが……)


 エルフの中にまれに現れるという偽りを見抜く真実の瞳。幼い彼女はその力で何かを見たがゆえに大陸を出たのだ。

その何が、あるいは誰のを、というのはよく考えたら全く知らないことに気が付いた。

 かといって、実際にそのエルフがこの船の中にいるかもしれない状況では迂闊に聞けない。

 少々もやもやしつつも、何かあれば守り切る、その覚悟を持っていることにした。


「あれ、お兄ちゃん。何か追ってくるよ」


「ん? 海魔か?」


 今回はエルフの船にお邪魔している立場ということで、邪魔にならないように後ろの一番高い位置にいたのだが、白波を立てる後方をよく見ると確かに何かがいる。


「リヴタートルが出たぞおお!」


 野太い、エルフが出す声としては恐らく最も期待を裏切るであろう声が響き渡り、船に緊張が満ちる。

 どうやらそれだけの相手ということのようだ。

 まさか、竜種程ということは無いのだろうが……。


『でっかい亀がいるわよ。カーラのちょっと大きい時といい勝負ぐらいの』


「……時々船が1隻は沈められてるって聞いたことがある」


 そうして俺達が手を出すべきかどうか考えている間に、その亀らしい気配が船と並走したかと思うと、上空に気配が動いた。

 飛んだのだ……家ほどもある巨体が。


「「うわあああ!!!」」


 リヴタートルが降り立った甲板は大混乱に陥った。

 咄嗟に切りかかるエルフや、慌てて逃げ出すエルフ、魔法を放とうとしてここが甲板だと思いなおしたのか詠唱を止める者もいる。

 確かにあの巨体が甲板で暴れたら、船の1つも沈むという物だ。すでに大穴が2つほど開いている。


「ミィちゃん、いこ」


「うんっ!」


 俺が飛び出すより早く、ルリアがミィを伴って駆け出した。ここはお手並み拝見と行こうか。

 珍しく、ルリアが自分から動いたんだしな……妹の成長を見守るのも兄の務めだ。

 いざという時には助けに入ることができるように、イアとカーラの3人(?)で2人を見守った。

 が、その必要もなさそうな光景がすぐに広がるのだった。


「冬の朝、霧の向こうに見えるのは人? それとも……フリージングフォグ」


 エルフ流の詠唱なのだろうか? ルリアの魔法詠唱は俺達と比べるとやや独特だ。

 日記を読むような問いかけの言葉が詠唱となり、白い霧が彼女の手にした短杖から一気に産まれていく。

 竜骨を用いたそれは世間的な良品が束になっても叶わない魔法の増幅率を誇っているはずで、その証拠に白い霧はリヴタートルの上半身を素早く包み込み、ここまで聞こえるほどの大きさで凍り付かせた。

 ギシっと響く冷気の中、ミィが姿勢を低くして飛び込み、素早く右手を首元に挿し込んだ。


「よくわからない相手は、首を落とすか中心を打つ。お兄ちゃんが教えてくれたからね」


 そのささやきは、静寂に包まれた甲板に妙に響き、やや遅れてリヴタートルの首から青い血が噴き出していく。

 至近距離故、避けきれずにミィはその血をもろに浴びてしまうのだった。


「うえぇぇ……おにいちゃぁん」


「詰めがちょっと甘かったな。でもよくやったぞ」


 抱き付こうとしてくるミィの肩を掴んで止め、そのままあちこちにいる水の神様……名前も何もないようなのだが、に祈りを捧げて詠唱として真水を生み出してミィにかける。

 まるで体を洗った後の猫のようにぷるぷると首を振るミィは可愛くて仕方がない。

 尻尾も耳も水に濡れてへにょんと垂れているのがさらに良いと思う。


 と、甲板にいたエルフたちのざわめきが聞こえる。


「あれを一撃で?」「いや、その前の魔法の精度と威力は何なんだ」

「あのエルフどこかで……」「それより採取だ。すぐに痛むぞ」


 最終的に、ひとまずリヴタートルを解体し、素材とすることを優先することとなった。

 俺達には甲羅が貰えることになったが……半分嫌がらせだと思う。

 本人達はそんなつもりはないんだろうけど、どうやって持ち歩けと。

 途中で気が付いたのか、若干気まずそうなエルフたちの前で余裕の表情で影袋に仕舞って見せた。


 その後、色々と質問攻めにあったのは言うまでもない。

 バイヤーのところでは多少もめたが、エルフが知識の探究者というのはやはり今の変わらないようだった。




 数日後、海の向こう側に大陸が見えた。目的地である、ユラシアだ。

 この距離からでも見えるほどの巨木が数本、そびえるように伸びているのがわかる。


(あの中のどれかに竜がいるのか……)


「ここにいたのか。上陸の準備はいいか?」


「ああ。荷物は甲羅と一緒に仕舞ってあるからな」


 道中、話すようになったエルフの男、この船の船長として乗り込んでいるらしい白いひげの似合う壮年のエルフだ。

 エルフで壮年に見えるということは、相当な年齢なんだと思う。


「あいつは先に降ろす予定だから、お前たちは後から降りたほうが騒ぎにはならんだろう」


「ん? ああ……そういうことか。わかった」


 あいつとは、バイヤーのところで激昂した若いエルフの事なのだろう。

 反省はしているようだが、俺達と顔を合わせればいらぬ感情がまた湧き立つかもしれない。

 今も、部屋に閉じこもってるみたいだからな。


 無言の時間……その間にも風の魔法を帆に受け、海上を飛ぶように進む船は瞬く間に距離を稼ぐ。

 気が付けば、遠かった陸地は随分と近づいている。水平線の半分以上がもう陸地だ。

 多くは森、そして山だ。時折見える白い部分は岩肌だろうか。

 そしてそんな中に見えてくる海辺の建物たち。


『木製……かしら?』


「良く見えるな、この距離から」


 気が付けばイアが隣にふわりと浮いて佇んでおり、目を凝らしていた。

 右手を筒のようにして覗き込んでいるから、何か魔法でも使ってるのだろうか?


『秘密、と言いたいところだけど……ほら、遠くのものが近くに見えることあるでしょ?

 あれと同じ。この輪っかの中にそういうのを作るのよ』


 こうやってね、と実演されると確かに筒状にした手の中で魔力が動くのが感じ取れる。

 イアはこういう独特の魔法をいくつも持ってるし、開発するのが得意だよな……。


 振り返れば、甲板上も上陸の準備のためか騒がしくなり、エルフたちがあれこれと持ち場についているようだった。

 ミィ達もこちらに駆け寄って来たし、俺達の準備はいつでも大丈夫だ。


「ルリア、大丈夫(・・・)か?」


「……平気。今はにーにや、みんながいる」


 幸いにも、ルリアが大陸から抜け出したこと自体は犯罪扱いではないことは船長から聞き出せている。

 それでも、あの大陸にルリアがいたくないと思えるようなことが起きたのは間違いない。

 そこに行くけど、いいのかと問いかけるが彼女はしっかりと俺の目を見て答えた。


 女の子は、俺が思っているより強く、美しく成長する。

 そのことを実感した瞬間だった。


 そして、俺達の乗った船は港にたどり着き、俺達が見守る間にどんどんと荷物と人を吐き出していく。

 あらかた降ろされたかなというところで船長が手招きをするので、全員で甲板に降りてそのまま梯子を使って桟橋へ。

 さあ、話し合いをどこでするのかと思った時だ。


「ルリアか!? 何故ここにいる!」


 桟橋に降りたった俺達に向けて大きな声を上げる男。

 高ぶった感情にか、エルフらしくない形相でこちらを睨んでいる。

 正確には、ルリアを。


「おじい様……」


 つぶやかれる少女の言葉が、騒動の始まりだった。

 


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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます

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