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112.西へ

血縁は無いのに似た者同士でした。


 新しい旅路はグイナルを借りての物となった。荷台の上でのんびりとした旅だ。

 グイナル自身は特に命令しない限り街道をひた走る。走るのが好きな子を、と選んだから当然か。


 途中、癒しの魔法をはさみながらの一般的にはかなりの強行軍。

 それでもカーラで飛ぶことを考えたら非常にゆっくりしたものだ。

 イアが何故だか強く推してきたんだよな。俺としても、反対する理由は特になかった。


 それに、こういう旅なら旅で得られるものもある。

 平和であればそれを実感できるし、何か問題がありそうなら把握も出来る。


 何より、ミィ達と一緒の時間を静かに過ごせるのが良い。


 村や街が無かったとしても、野宿には何の問題もない。

 岩場を柱に、適当に屋根を作ってはそこに潜り込み、狩った獲物で腹を満たして満足し、イアの呆れた視線を浴びつつも岩による湯船を作ってはお風呂に入る。


 少し大きな街道とは外れた場所を進んでいるので、すれ違う相手もほとんどいない。

 自然と、開放感のある星空の元での夜となる。


 困ったことと言えば、前と違う様子で洗って?なんて言ってくるミィにドキドキしながらのお風呂が増えたぐらいだろうか。

 ミィはそう言ったことに知識はあるようだけど、本当のところはわかっていない様子だ。

 イアに色々知識が追加されないことを祈って……無理か。


 空を飛ぶときと比べ、のんびりしたものとはいえ毎日進めば旅も終わりが近づいてくる。


 気が付けば、もうすぐテイシアという場所での最後の野営だ。食事も終え、夜の闇が周囲を満たしていく。


 一人、たき火に薪を足していきながら遠くを見ると暗闇の大地と、星が無数に浮かぶ空とが相まって上下の感覚も怪しくなる。

 視線を下に戻せば、カーラとミィ、ルリアが抱き合って寝ている。

 体温以上にほのかに温かいらしいから夜にはいいよな。


 ふと見れば、イアがいない……と同時に視界に動く影。思わず竜牙剣に手をやるが、すぐに安堵の吐息が漏れる。


「イア、どうしたんだ」


『んー、別に。何でもないわよ』


 どこかに散歩に行っていたのか、それとも単に浮いていたのか。

 俺がそれを聞くより早く、ふわりと横に寄り添い、腕を絡めてくる。

 じんわりと魔力が吸われていくのがわかった。


 本当ならどこからでも吸えるのに、最近は微妙なところから吸うようになった。

 指を唇に持って行ったり、俺の胸元に顔をうずめたり等々。

 元々そういった触れ合いには積極的だったフシがあったけど、その動きが前とは方向性が変わった気がする。

 甘えたい……そんなものを感じたのは俺の気のせいだろうか。


「いつも悪いな」


『あら、お兄様がそんなことを言うなんて。明日は竜のブレスでも降ってくるのかしら』


 クスクスと笑いイアはいつものように俺をからかうような、信頼して踏み込んできてるような、そんな顔。

 俺はそんなイアの腕を取り、自らの腕の中に抱きかかえるようにして姿勢を変えた。

 慌てたイアの気配が伝わるけどここは無視だ。


「心配事ばかり押し付けてる気がするな」


 そう、イアは前の魔王の記憶を多く持っている。だからこそ知ってることも多いし、いつも助けられている。

 戦いの時だって、ミィやルリアという女の子相手の話も。


『1人ぐらいそういう妹がいたほうがお兄様が楽でしょ?』


「だとしても、さ」


 そう言ってみると、俺の腕の中でイアは脱力し、そのままもたれかかってくる。

 時々ずるいわ、なんて言葉を聞きながら俺は星空を見上げる。


 結局、その後は何も語らずに朝までの時間が過ぎていった。


 起きてきたミィに見つかり、今度はみんな一緒!と怒られるように言われたのが妙におかしかった。

 ミィをなだめているうちに再びのテイシアの街並み。

 戻ってきてからずっと移動してばっかりだな。まあ、しょうがないのだが。


 海を行くとなればバイヤーらに話を通さないわけにもいかない。

 ついでに良い船があれば紹介してもらう方が早いだろう。

 そう考えてバイヤーの商館へと向かうのだが、少々前に来た時と比べて様子がおかしかった。


 皆ある方向を気にして仕事をしている。中には立ち止まっているのもいるぐらいだ。


『どうしたのかしらね』


「お兄ちゃん、聞いてみよう?」


 頷き、近くの従業員らしい魔族を捕まえて話を聞いてみることにした。

 彼は俺の顔を見て、後ろのミィ達を見るなりその緊張に満ちた顔を驚愕のそれへと変えた。


「ああ! ラディさん! よかった。バイヤー様の手助けをお願いできませんか!?」


「落ち着け、何があった。厄介な事件でも起きたのか」


 暴漢が襲い掛かって来た、という訳ではないだろうと思う。

 もしそうならとっくにそういう連中が助けに入っているはずだからだ。

 となると……何か商売上の話か? 不良品だとか、荷物が駄目になったとかそういうことか?


「エルフが……エルフの団体客がやってきて、いつも通りに売買をしていたんですが……。

 見てしまったんですよ、アレを。そうしたらあるだけ売ってくれってずっと騒いでて」


「あれ?……まさか、竜鱗かっ!」


 バイヤーが所有している売り物、非売品合わせてもここまで騒ぎになるような物といったら他にはおとぎ話に聞くような希少な鉱物ぐらいしかないだろう。

 従業員が俺に助けを求めてきたということは竜関係で間違いないはずだ。


「お兄ちゃん……」


「ああ、俺が入っていって逆にややこしくなるかもしれないが、わかった」


『お兄様、みんなで行きましょ。船に乗る乗らないって話になるかもしれないし』


「(コクン)」


 大人しくしているカーラを置いていくわけにもいかず、結局は全員でバイヤーが応対しているであろう部屋の扉を叩き、入室する。

 入った途端、中にいた全員の視線がこちらに集まるのがわかる。


 まあ、そりゃそうだよな。

 出来ればミィとルリアが驚くからやめてほしいところだ。


「ラディ……来たのか」


「たまたまさ」


 バイヤーとエルフたちが集まっている机にのせてある物品たちはどれもが相当に高価な物だ。

 バイヤー本人が応対するところからもそれがうかがえる。


 それにしても、いくらなじみだったとしても1人でこの人数相手に応対しようというのは、少々不用心じゃないだろうか?


 俺が声をかけるより早く、エルフたちの視線が俺の顔ではなく、背中に注がれるのがわかった。

 そこにあるのは竜牙剣とその鞘。なるほど、彼らは鞘越しにでもこの剣の違いがわかるらしい。まさか竜の牙だとは思うまいがな。


「竜の素材は1つでも影響力が大きい。それをあるだけ売ってくれとは、

 いくらエルフでも強引が過ぎるんじゃないのか?」


 出来るだけ威厳ではないが、舐められないように自信満々という態度を全身で出し、バイヤーのそばへと歩みよりエルフと対峙する。

 こうしてみると、海を旅してくるだけあって全員そこそこ強いようだ。

 魔法だけかと思ったが、肉弾戦もそれなりにいけそうだ。ただまあ、それなりに、だが。


「金なら出すと言っている。儲かればいいのだろう?」


「冗談じゃない。少なくともそう考えてるやつに売りたくはないね」


 ああ……と思った。最近のエルフの動きにイアや他の皆が感じていた空気。

 お金が全ての解決手段となると思い込んでいるこの感覚。


 こいつらは、お金を一番上に置いてしまっている。


「探究者として森で生き、ついには海に出るまでに至ったその心。

 未知を知るために必要な物を得るのに商売を始めたのは知っている。

 どうやらそれは行き過ぎているようだな。ここにいるのはエルフじゃない、

 ただの金の亡者だ。なあ、エルフの姿をした諸君。反論はあるか?」


 敢えて、そう敢えて挑発を口にし、煽ってみた。

 これで何かしらが決裂するとしてもエルフがみんな彼らのようになってるとは思いたくない。

 エルフの心を持ち続けてるやつらがまたやってくることだろう。

 エルフの鋭い視線を全て受け止めながら、そんなことを考えていた。

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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