110.祈りの鳥
書き方変更中。
俺は、星の海にいた。
遠く、遠くまで無数の光が暗闇に踊っている。時折横切るのは、たまに夜見える流星だろうか。
白い星、黄色い星、青い星。幾つもの光が瞬いている。
(綺麗だ……)
言葉なく、それだけを思った。
初めての光景のはずなのに、どこか覚えがある。
そのことに俺が思い至った時、恐怖が背中を駆けあがった。
咄嗟に竜牙剣を掴もうと手を伸ばし……何もなかった。
ならば魔法でと意識を向けるが祈りが伝わる様子がない。
『人の子よ』
「っ! これは……」
頭に届く聞き覚えのある声。呆然とする俺の前に、星の光が集まり……形を作る。
それは森林のように緑の全身、四つ脚の鳥。
最初の神が一柱、アーケイオン、その使徒だ。
『祈りを聞き、再び汝の呼びかけに応えた』
なんでもないようにつぶやくアーケイオンの使徒。
(ああ、そうだ。俺はミィ達と一緒に祈りに来たんだった)
ぼんやりとしていた頭が動き始め、朝の出来事を思い出す。
祈りに来る人が増えているという話が出た遺跡へ行ってみようとフロルを出た朝。
最初は獣道ぐらいしかなかった場所に、立派な道が出来ておりそこをみんなで進む。
途中、同じように歩いている人らを見かけ、やってくる人が増えているというのを実感することができた。
「うわぁ……!」
『結構直ってるわね』
「立派」
視界が開けると、そこには草だらけだった空間は無く、丁寧に掃除され、崩れた場所は撤去、あるいは新しく作り直された、まさに神殿というべき建物があった。
秘境の遺跡、といった様相だった最初の頃とは当然だが別物のようだ。
飛んでいるカーラをミィが抱きかかえ、そのまま全員で建物に入る。
入ってすぐに受付のように座っている2人の男性がこちらにやってきた。
獣人と魔族という組み合わせだ。どこかゆったりとした、神官という名前が似合う格好をしている。
「ようこそ。ああ、そのお姿……お連れの方も考えるとラディ様ですね。
皆さま、どうぞこちらへ」
「俺達の事を知っているのか?」
案内を受けながら、問いかけてみると横にいた獣人の神官の方が微笑む。
「それはもちろん。ここを再発見し、神託を受けし者。
私たちのようにアーケイオン様の信仰に目覚めた者にとっては
ここを祈りの場としてくださった功労者そのものですよ」
『大げさねえ。そうでもないのかしら?』
俺の気分としてはイアの言うように、特に何もしていないも同然なのだが、彼らにとってはそうではないらしい。
そうしてそのまま案内を受けた先は、そのまま会議でも出来そうな広めの一室。
「みんなここでお泊りしてるの?」
「遠方の方はそうですね。掃除が少々大変でしたが……これも祈りのためです」
多少古ぼけてはいるけど、修復が施された建物は思ったより丈夫そうで、50人ぐらいは泊まり込めるらしい。
祈りの場所は大きく分けて3つ。
椅子が立ち並び、アーケイオンを模した像を祈りの対象とする部屋。
個室がいくつもあり、個別に祈る部屋。
そして、俺達がアーケイオンの神託を受けた広間。
この最後の広間では長く祈ることができないらしい。
自然と、少しの祈りで終わってしまうのだとか。
「すべてが海に注がれる水のようだ、と言ってる者もいますがね」
「なるほどなぁ……」
どうせ祈るなら、と俺達は最初にアーケイオンに祈りが届いた場所を選んだ。そこに行く途中に聞いた話がそんな内容だ。
広間への扉をくぐると、広い広い空間に出た。
瓦礫は片づけられているが特に装飾品も無く、ただ広いだけの空間。
何か像を置こうという気持ちにもならないのか、前にやってきた時と大きな変化はなかった。
案内の獣人神官とは別れ、俺達だけが広間に残る。
シンとした空間で、俺を先頭に祈りの場所へと向かい、膝をつく。
深呼吸を1つ、静かに祈りの姿勢をとった。
全ての神様に共通の最初の祈り。
言葉なく、首を下げ、つながりを求めて魔力を練り上げ、注ぐ。
近くに妹達の魔力を感じながら祈りを続け、いつぞやのように何かにつながった感覚の後……。
そうして俺は星の海にいたのだ。
『稀代の依り代よ。翼たちと生きる覚悟は決まったようだな』
「翼?……ミィのことか?」
答えながらイア達の事も考えていた。翼たち、と目の前の相手は言ったからだ。
『然り。運命に負けず、戦う者よ。
翼たちの力を借り、地を眠らせ、天を押し上げるのだ』
くちばしも動かず、直接頭によくわからないことが響く。
何かを倒せ、ということに聞こえるけれども……。
何故、俺たちなのだろうか?
勇者や魔王の力が俺達に宿っている理由は……?
『始まりを見よ』
宣言と共に、虚ろにこちらを見ていた使徒の瞳が怪しく輝く。
そして、俺の意識はどこかに飲まれていた。
─それは古い古い時代。
この世界にまだ神々と竜がいたころ。
海は竜の羽ばたきで荒れ、空は竜の息吹で荒れ、大地は竜の嘶きで赤く染まった。
人々は、種族を越えて竜に対抗していたが押し込まれるばかり
そして、神々に祈りが届く。
我らに剣を、安息の地を得るための刃をと。
神々は迷った。力の刃はいつか与えられた側同士を傷つけるものになりやしないかと。
強い力同士は引き合い、時に反発するからだ。
しかし、事態はその迷いも許さず、高位竜はその上の存在と共に世界を蹂躙しだした。
神々の涙と嘆きと共に地上に産まれた青と赤。
無数の光と共に、それは竜を押し返し、幾匹もの高位竜を消滅させた。
そうして、地上には竜以外の生き物も住めるようになった。
その場にアーケイオンは降り立った。力の強さと、その良し悪しを伝えるために。
力の強さに恐怖した青と赤、そして光たちは己を封印し、必要な時に蘇るようにした。
未来の危機に対して、救いの一手を残すために。
そうして今、アーケイオンが力の暴走を防ぐための知識を与えられたものが人間や魔族、エルフやドワーフなどとなり、そうでなかったものが魔物として力に溺れているということも。
「じゃあ、青と赤、勇者の魔王が共に立っている今は危機が迫っているのか?」
星の海へと戻って来た意識、俺は見た光景に思わずそう口にしていた。
本来なら、時が来るまで青と赤は戦うことすら避けるべきだったことも知ってしまった。
だが、実際に勇者と魔王は以前に戦ってしまっている。
『竜が滅びの依り代であるならば、勇者と魔王は天と地の依り代。
生きていれば滅びが避けられないように、天と地も混ざらぬ場所は無い。
青と赤、そして他の光が寄り添えば……勝てよう』
何に?と問いかける前に光が弾けた。
『……っ……!』
遠くに聞こえるアーケイオンの声。言葉にならないその中身ははっきりとは聞こえない。
何者かがこの祈りのつながりを邪魔している、そう感じた。
遠くなっていく繋がり。
しかし、俺は動じずにその何かの方向を睨んでいた。誰が来ようと、ミィと、妹達との未来のためには負けるわけにはいかないと。
いつしか光は収まり、俺は祈りを始めた時と同じ姿勢で床を見つめていた。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。