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108.勇者と魔王、帰還する

書き方を少し変えています。読みにくかったらごめんなさいです。


 人間から見ると、木々はやせ細り、大地は穢れ、凶悪な魔物と魔族らが死闘を繰り広げる荒れ果てた世界。


 それがこのダンドラン大陸の印象だ。

 しかし、現実は違う。


 魔王の結界を越えてしまえば、目に入るのは自然あふれる姿。

 勿論、魔物は数多く生きており、あちこちで魔族や獣人と日々、戦っているのも間違いではない。


 そこには生がある。


 人間と同じように笑い、泣き、怒り、家族と他人との生活も当然のようにある、そんな世界だ。

 元人間側の勇者だった俺としてはいまだに新鮮味を感じる光景である。

 とても、いいことだよな。


『ガウ!』


「ああ、見えてきた」


 グイナルの引く荷台の上で、何やら調子の上がって来たカーラの顎を撫でてやる。


 小さい大きさになっているカーラは本当に犬猫のような可愛らしい姿だ。

 この姿のままでも、その辺の魔物は撃退できるのだからある意味、怖い話だ。

 大きさが強さではない、そう感じさせる。


「みんな元気かなー」


『そうね、冒険団の皆も元気だといいのだけど』


「きっとあちこち走ってる。それが子供という物」


 まだ子供なルリアの妙に大人びた台詞に、それを聞いたみんなしてくすっと笑ってしまう。


「? 変だった?」


「いや、大丈夫。着いたらヴァズかヴィレルにしっかり報告しないといけないな」


 きょとんと疑問を顔に張り付けているルリアを撫でつつ、近くなってくる街並み、パンサーケイブを見る。

 そう、ぐんぐんと街道を進み、ついに自警旅団は1つの終点であるパンサーケイブに迫っていた。


 ここから先は東側の海岸沿いとなり、比較的状況は落ち着いた地域になる。

 魔物は山側、つまりは中央に多いのだ。

 海岸は海岸で何もいないわけじゃないけど、圧倒的にその活動域が違う。


 つまりは自警旅団の目的は、こうして大陸側の安全確保という部分が大きいわけだ。


「にーに、畑がいっぱいあるよ」


『あら……だいぶ開墾したのね』


 街に近づくほど、景色に人の手を感じるようになってきた。

 具体的には2人の言うように、畑が増えてきたのだ。

 柵がしっかりと作られ、区画が整理された畑は数多い。

 こちら側は地面を掘ってもいい鉱石が採れないような土中心の土地だからだろう。


 露天掘りをしている側と比べ、印象深い光景になっていると思う。

 青々とした野菜が育ち、中にはもうすぐ収穫かなと思わせる大きさの物も。

 近くの洞窟から引いた水や、誰かが魔法で水まきもしているのだろう。

 特にしおれたような様子もなく、立派な物だ。


 畑の中には作業中の人影も結構いる。

 魔族、獣人、中にはドワーフっぽい体格の人も。

 人間の大陸や、北部では考えられないのどかな光景だ。


 グイナルが歩く道も、大きな石は落ちておらず、段差も随分と減っているという印象だ。

 街は、成長しているのだと感じさせた。


 だからこそ、守りたい、その感情が湧き上がる。


「お兄ちゃん、このまま平和だと良いね」


「ああ、そうだな」


 どこかしんみりした空気が漂ったがすぐに街の入り口にたどり着き、荷台から降りて荷物を降ろしだす。


「随分と助かりました」


「いや、俺達もいい経験になったよ」


 自警旅団の面々とひとまずの別れを告げ、握手を交わす。

 短い間だったけど、旅を共にした彼らとは仲良くなれそうだった。

 いくつかの荷物を抱え、街に入る。


「あ、ミィちゃんたちだ!」


「ほんとだー!」


 そんな俺達に、元気な声が届く。

 こちらを見つけて駆け寄って来たらしい子供たち。

 冒険団にいたはずの子達だけど、離れてる間にぐぐっと成長したような気がする。


 このぐらいの子供は、すぐに大きくなるよな。

 それは体つきだけでなく、まとう雰囲気も、というところ。


「ただいまー! ねえ、ヴァズさんかヴィレルさんはいる?」


「いるよー!」


 あっという間に子供たちが集まって来たかと思うと道の真ん中でありながら獣人と魔族の子供の団子の出来上がりだ。


 ミィたちがそれだけ慕われていたんだなと実感する光景だ。


「戻ったか。無事で何よりだ」


 その輪から外れて見守っていた俺に語り掛けてくるのは街にいるドワーフの職人。

 作業中だったのか、鼻には煤の跡。


(ああ、そうだ。彼らにもちゃんと渡さないとな)


「おかげさまでね。パラケルン大陸のアースディアで色々と教わったよ」


「アースディアに? そうか、その様子なら皆元気に生きているということか」


 故郷なのか、知っているだけなのか、それはわからないけど懐かしそうに視線を遠くにやるドワーフの前に1つの物を差し出す。


 締まったままの、火竜の鱗の1枚だ。


「む? まさかまさか……ふふ、これは後の話が楽しみだ」


 あの竜たちとなじみのあるドワーフだからこそ、たった1枚だが込められた意味は伝わったようだ。

 じっくり後で聞かせてもらうぞ、と肩を叩かれるがそれも心地よい物だ。


『ほら、まずは報告しないと。怒られちゃうわよ』


「はーい」


 まだ子供達と騒いでいたミィとルリアを引きはがし、4人と1匹で歩き出す。





「予想外というべきか、やはりというべきか……言葉に悩むのは久しぶりだ」


「なんだか、悪いな」


 額に手をやり、沈痛な面持ちで言葉を絞り出してくるヴァズに俺もなんだか申し訳ない気持ちで小さくなってしまう。

 実際、後始末というか影響の調整は俺達ではなく、ヴァズやヴィレルがやることになってしまうのだ。


 駄目ということは無いだろうけど、苦労はするだろうなあという自覚はある。


「フフ……ハハハハハ! なあに、このぐらい突き抜けている方がやりやすいという物よ。

 今日ここに来ていてよかったぞ。出なければ知らせを受けて飛んでこなくてはいけないところだった」


 たまたま、本当に偶然に昨日パンサーケイブに戻って来たばかりだというヴィレル。

 以前よりやや実務を優先したように見える服装からはまだ年齢を感じさせない覇気のような物を感じる。


(おっと、忘れるところだった)


「そうだ。二人にも良いものがあるんだ。パラケルンのドワーフ謹製品さ」


 そういって取り出すのは、ヴァズに似合いそうな細身の長剣と、ヴィレルが好みそうな4本の爪。

 どちらも竜骨や竜牙の削り出しによる特注品だ。


「またとんでもない物を……いや、彼女らの腰に下げてる物を見れば一目瞭然か。

 これなら竜も断てそうだな。竜を持って竜を断つ、まるでおとぎ話のようだ」


「竜を屠ったまたとない証拠だな。これを突き付けた時の相手の顔が見ものだ。

 ありがたくいただこう。それで、残っている素材の扱いだが……」


 最初は思わぬ贈り物ということで喜んでいた2人だが、扱いには注意の必要な竜素材となるとにこやかにという訳にもいかない。


 価値が高すぎるのだ。

 結果、国の共有素材として、必要に応じて供給するものとなった。


 そのぐらいが妥当だとは俺も思う。本当は1個人が持つにはすごすぎるのだ。


「しばらくはゆっくりしておくといい。今のところは動き気配がない」


 そんなヴァズの提案に頷き、俺達は久々の家に向かうのだった。

 途中、子供達とまた出会い、わいわいと話しながら家へ。

 名残惜しいが子供達と別れ、既に懐かしさすら感じる扉を開けると冷えた空気が漂ってくる。


「ただいま……」


「ただいまでお帰りだね、お兄ちゃん!」


『お風呂にしましょ、お風呂に!』


「掃除が……先?」


 バタバタと走り回る皆を見ていると、特別な物は何もないはずなのに、心には温かいものが灯るのだった。


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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