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105.祝いの準備

本年もよろしくお願いいたします!

 

 村での話し合いは非常に単純な物だった。元々の予定通り、数日の討伐と雑務の手伝い。

 自力で村を維持できている状況から、あまり大きな助けはいらないであろうことはわかりきっていた。

 そのため、人員も単純に2つに分けての活動だ。


 そんな中、村には喜ばしいことがあるのだという。

 何かといえば、1組の結婚だ。よければ参加してほしいと誘われたのだった。

 自警旅団としては予定の日程内であれば是非ということで俺達も参加が決まった。

 そうと決まればやることは多い。獲物の狩りに、村の整備などである。


「結婚かぁ……」


 村の近くで、婚礼の儀式に使うという木々を切りながら、

 俺は誰にでも無くつぶやく。何かわかりやすい物があるとそれを意識するのが人間という物である。

 イアとルリア、カーラには婚姻の宴の準備に参加してもらっている。

 近くには他の獣人もいるが、事実上の2人きりだ。


「お兄ちゃん、結婚したいの?」


「今はどうかな。あっちこっち行くからなあ」


 実際、誰かと結婚する未来が想像しにくいというのもある。

 恋だって……恋……か。


「じゃあ一緒にあちこち行ける人ならいいの?」


「それだけじゃ結婚はできないだろ?」


 何の気なしに答えたけれど、ミィはそれは不満なようだった。明らかにむすーっとした顔で木を切っている。

 ミィの言いたいことは、なんとなくわかる。わかるが……俺はそれを選んでいいのだろうか?

 あの日、ミィの差し出してきた手と指。生きるために、あるいは温もりを探して。

 小さな、小さな手。それでも彼女は、俺の事を力一杯握り返してきた。

 小さく、か細い声で泣きながら。


 物や命を奪うばかりだった俺の手を、ミィは嫌がることなく握っていた。

 その時、俺は許された気がしたのだ。そして、今度はその手で……奪ったものを守れと。


 勿論、そんなことは俺の思い込みであろうとは思う。

 ただ、ミィの存在が俺の生き方を変え、そうして勇者としての在り方そのものを変えたのは事実だ。

 あの日、人間に都合のいい勇者だった俺は死に、誰のための勇者であるが正しいのか、どうあるのが正しいのか、教えてもらったのだ。


 いや、正確にはもっと別だろうか。正しさなんてものが、本当は無いのだと。

 大切なのは、自分の心で、自分の決断で振るう力こそが本物だということ。

 だからこそ俺は、聖剣をひっそりと折り、破片の側は自戒の意味を込めて山奥の遺跡にこっそりと安置して来た。

 険しく、人の足ではたどり着けないような山の中にあった古ぼけた遺跡にだ。

 そうして、俺は今、ここにいる。俺の人生の大半はミィの、妹たちのために費やすことになるだろう。その先に……俺は……。


「お兄ちゃん?」


「あ、ああ。後何本ぐらいだったかな」


 しばらく呆けていたらしく、ミィの手の中には何本もの切り取った枝が握られている。

 燃やすと独特の香りがするらしく、たき火の中に紛れ込ませるとか言っていたな。


「後4本ぐらいかな。不思議だよねー。匂いのあるたき火なんて」


「それがこの村にいる獣人達の風習らしいからな」


 特定の土地やそこに住む人たちには独特の風習があったりする。

 それ以外にも、種族が違えば色々と違う物だ。結婚にしたってそうだ。

 人間の場合には基本的には家族という枠が増える形で、貴族だなんだとなれば家が絡んでくる、といった具合だ。


 魔族はそこに力の話が絡んでくる。厳しい土地柄故か、自分の家が相手の家と一緒になることでどれだけの力になれるのか、あるいは何が出来るのか。

 生き残るための一族の強化、それが主張の要素となるのだという。


 獣人は厳密には獣人の中でも種が違えば多少違うが、大体は決まっているらしく、それは如何に家族を盛り上げるか、如何に家族を増やすか、ということらしい。

 獣人は迫害された歴史を背景に、特に戦争などで、数がものすごく減った時期がある。

 そんな時に、やはり子供が多い方が喜ばれた名残らしい。

 子供を何人作って何をする!というのが主張として有効ということだな。


「よし、戻ろうか」


「はーい!」


 気が付けば切り取った木、枝は結構な量となっている。

 用意しておいた縄で縛りあげ、かさばるがそう重くはないそれをミィと一緒に担いでいく。

 落とさないように気を付けて村へと駆けていく。







「あ、にーに!」


『大変よ、お兄様!』


 村に戻るなり、2人が駆け寄り、カーラも何やら慌てた様子だ。ミィと2人、取って来た木と枝を横に置き、話を聞く。

 なんでも、戻ってこない人が何人かいるのだという。

 今日は結婚の宴があるので決まった時間には戻ってくるようになっているのに、だ。

 そしてその中には、ミィを家族と見間違えたと自分で言っていたあのおばあさんがいた。


「お兄ちゃん!」


「ああ。まずは心当たりがないか、聞きに行こう」


 慌てるミィを押しとどめ、まずはおばあさんたちが何をしに行ったかを確認するべく村の広場へと向かう。

 既に話は伝わっているらしく、心配そうな表情で、それでもやることはやらなければと動く村人が多くいた。

 その中に、おばあさんの家族らしいあの青年の姿もあった。


「あ、お帰りなさい。もしかして、探しに行ってくれるんですか?」


「ああ。何かを取りにいったのか?」


 慌てた様子の彼に聞いたところによれば、マブルという果実を採取するために数名で森に分け入ったのだという。

 予定通りであればとっくに帰ってきているはずであるとも。


「マブルは獣人の結婚の際には必要とされる特殊な食べ物なんです。

 なくても大丈夫な場合も多いですけど、保険のように用意しておくんですよ」


 この時期に実を生らせ、木全体が香るのですぐにわかるはずだという。

 そんな状態で戻ってこないとなれば、間違いなく事件だと思われた。

 知られている、マブルの生っている場所は3か所。

 そのどこにいったかはわからないが、今探索に回っているとのことだ。


「もしかしたら何かに追われて全然違う場所にいるかもしれないな」


「じゃあ早くいかなきゃ!」


 流行るミィの頭を撫でて落ち着かせ、ついてきていたイアとルリアに振り返る。

 怖いのは、行き違いだな。


「2人とも、村で万一の場合に備えてもらえるか?」


「わかった。いってらっしゃい、にーに」


『まっかせて。もし先に帰ってきたらカーラに空にブレスでもしてもらうわ』


 頼もしい後衛を残し、俺とミィは村の門から外へと駆け出した。

 緑の濃い、普段であれば恵みに感謝する大自然。しかし、人探しとなればその緑の濃さが厄介な物となる。

 聞いたマブルの生る場所にミィを抱えて飛ぼうとした時だ。


「ライフエコー……おばあちゃん……」


 ミィが静かに、無差別に気配を探知する広範囲の探知魔法を発動していた。

 どこにでもいる、小さな名もなき神様たちに祈る魔法だ。細かい制御が効かない分、広範囲を探る。探るのだが……気配の区別がつかないことが多いのが難点なのだ……が。


「いた! こっちだよお兄ちゃん!」


「わかるのか!?」


 なんとなく!と俺の問いかけにミィは答えてそのまま走り出し、枝へと飛び乗った。

 そのまま枝から枝へと跳躍、駆け出す姿には子供っぽさはない。


「結構遠いなっ!」


「でももうすぐだよ!」


 何度も枝をしならせ、葉っぱを鳴らし、2人は飛ぶ。そうして何度目か数えるのもおっくうになってきた跳躍の後、俺にもそのままで何かの気配を感じることが出来るようになった。


 なるほど、獣人がいる。

 そうして視界に入ってきたのは、巨大な蜂に囲まれているおばあさんたちだった。


「おばああちゃあああん!!」


 俺が止める間もなく、放たれた矢より鋭く、ミィは一息に飛んでおばあさんたちと巨大蜂との間に身を躍らせた。

 巨大蜂への挨拶は、そんなミィの手にあった竜牙短剣の一撃であった。

 少し遅れて俺も着地。


「おまえさんたちは……」


「ちょっと待ってな。すぐ終わらせる!」


 少々大げさかなと思いつつ、俺も竜牙の両手剣を抜き放つのだった。




ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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