104.面影
今年一年ありがとうございました。
テイシアより、自警旅団への同行人員として出発してはや三日。
俺達はあちこちの街道をぐるぐるとめぐる旅路にいた。
途中の村や町により、魔物やそれに関連する討伐などを積極的に行う、実働を含めた巡回ということになる。
最初に訪れた村は出来立てで、柵といったものも多くなく、毎晩何かありやしないかと緊張の日々だったようだ。
実際に活動するのは自警旅団として選出された面々に任せて、俺たちは堀を掘ったり、柵を作るのを手伝ったりした。
カーラはたき火のお手伝いで、他は切り倒したり運んだりと少なくとも、森の木々に隠れて近づいてくる、という空間を減らす方向で動いた。
すぐそばが森、というのは便利ではあるけど、危ない面も多いからな。
基本的に1か所は数日から5日程度を見込んでいるらしく、どのぐらいの効率で動けるのか、足りないのはなんなのか、といったことを蓄積して今後に生かすようだ。
そうしていくつかの村、街を回っていく。幸いにも、今のところは自警旅団だけでも対応可能な相手ばかりだった。
もっとも、人員は結構厳しく選んだようで、よほどの相手でなければ生き残ることは出来るだろうと思わせた。
「次の村はもう10年以上たっているんですよ」
「それはすごいな。大きな街ではないのに、10年以上か」
途中、仲良くなった1人の青年の言葉に正直に驚いて見せた。この大陸は危険が多い、それは間違いない。
大きな街で戦力が確保できるならともかく、1つの村で長い間維持し続けるというのは思っているよりも難しい。
どこかで魔物の襲撃という不幸に当たることが多いからだ。
「ええ、なんでも獣人ばかりの村で、一致団結してるそうです」
『へぇ。それは気になるわね』
いつの間にか浮いてきたイアを交えつつ、俺達の乗ったグイナルとその荷台は砂煙を上げながら街道を走る。そしてたどり着いたのは、街道から少し入ったところにある村。
確かに木の杭による壁に生えた苔や巻きついたツルなどに時代を感じる。
既に見張りがこちらを見つけていたようで、近づくと門が開いていく。
杭を何本もかみ合わせた丈夫そうなものだ。
「あれなら大体の相手が防げるな」
「すごいねぇ……」
欠点としては、緊急時に駆け込むのが大変というところか。
見えてきた村の中には、確かに獣人ばかりだ。
グイナルを村の広間に入れ、自警旅団の面々が村長と話をしに歩き出していくのを見送った時のことだ。
「アルフェリア、アルフェリアかい!?」
「にゃ?」
村人の一人、白髪を後ろにまとめたおばあさんが1人、驚愕を顔に張り付けて俺達を、正確にはミィを見ていた。
そのままよろよろと歩みより、ミィのそばにくるとその顔には落胆が広がった。
「ああ、そんなわけはないよね。あの子はもう何年も前に別れたんだから……」
「ミィが誰かに似ているのか?」
荷物を降ろすのを手伝っていたイアやルリアも話に気が付いてこちらへと歩いてくる。
俺はそのままかぶりを振るおばあさんのそばに立ち、出来るだけ優しく問いかけた。
ミィは困惑の表情のままだ、無理もない。
「いや、悪かったね。随分前に別れた孫娘に似ているような気がしてね。
こんなかわいいお嬢さんがそんな年であるはずがないのに、何をどうぼけたのか……」
「おばあちゃん、大丈夫?」
背中が曲がっているのか、うつむき気味に泣いているからかはわからないが、うずくまるようになるおばあさんを2人して支える。
と、横に誰かが来る気配と思ったら一人の獣人の青年がやってきた。
目の前のおばあさんに毛皮の部分が良く似ている。
「おばあさん、どうしたんですかこんなところで……」
「ああ……少しね、旅人さんとお話をしていたのさ」
おばあさんの孫の1人と言ったところだろうか? 良く鍛えられていて、将来が楽しみそうだ。
当然と言えば当然だが、青年はよそ者である俺達を最初は疑わしい目で見ていたが、すぐに思い直したのか真面目な顔になって頭を下げてきた。
「話に聞いていた自警旅団の方々でしたか……お若いですね、特に後ろの子達は」
「まあな。それはわかるよ。ただ……見た目が強さじゃないことが世の中にはあることを、怪我をしないうちに知っておくといいのではないか、とは思うよ」
さすがに村の中で魔法を実演するわけにもいかないのでそれだけを言って、村長の場所を聞くことにする。
「おばあちゃん、またね」
「ああ」
まだ何か言いたそうなおばあさんの視線を浴びつつ、俺達は村長の家へと向かう。
見える限りでは性別が偏るとか、若い子がいない、なんて問題もなさそうだ。
上手く過ごしているということかな。他にも理由がありそうだけど、今はわからない。
村の中心であろう場所には大きな井戸があり、おばちゃんや子供が水を汲み、自分の家へと運ぶ光景が見える。
「にーに、みんな平和みたいだよ」
『ルリアにわかるような隠し事の気配は無し、か。良い事じゃない』
確かにその通りで、問題がないならそれに越したことはない。
平和が一番、ではあるのだ。
そうしてたどり着いた村長宅には既に自警旅団の面々がいるはずだ。
扉を軽く叩き、返事を待って入室する。
「ほお、彼が噂の」
「どんな噂かは知らないが、討伐が必要なら大体なんでも手伝うつもりだ」
値踏みをするような瞳と声に答え、誘われるままに椅子に座ろうとした時だ。
村長であろうおじいさんが後ろのミィを見て固まっている。
(またか……?)
「アルフェリア……ではないな、あの子が生きていればもう40にはなる」
「アルフェリアというのは貴方の娘さんか何かなのか?」
力なく座るおじいさんに、俺はたまらず問いかけた。1度ならともかく、2度となればそれは偶然を疑う必要があるだろう。
自警旅団のみんなは状況を読んで口を出さずにいてくれてるらしい。
「ああ、もう何十年も前の事だ。私がレイフィルドから出る時に置いてきてしまった、
大切な孫娘の1人……いや、たまたま毛並みが似ているだけだろう。すまない、話を続けようか」
自警旅団の面々と話を再開する村長を見ながら、俺は彼の言葉を考えていた。
アルフェリアという獣人の女性は、実在は……したのだろう。そうでなければ冗談にしても大げさすぎる。
ちらりと、ミィを見る。
ん?とみてくるミィの髪の毛は今日もさらさらだ。飛び出た耳、そしてゆらゆらと動く尻尾も可愛らしい。
言われてみれば、ミィの両親は人間だったのか、あるいは獣人だったのか。
人間の住む場所にいたからと、親もそうだとは限らない。あるいは父親が人間だったという可能性も十分にある。
そこまで考えたところで、きゅっとミィに手を握られる。
真面目な場所だからと、静かにしているミィの瞳が揺れている。
ああ……俺は何をしているんだ?
仮にミィの出生の秘密がわかったところで、どうするというのだ?
ミィは、大事な妹だ、それに違いはないではないか。
彼女を守り、一緒に生きると俺は、決めたのだ。
そんな気持ちを込めてきゅっと握り返すと、ミィは静かに微笑んでくれた。
イアとルリア、そしてルリアの腕の中にいるカーラもが微笑んだ気がした。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。