表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/184

102.港街への帰還

 

「ふんふーん」


「ミィ、そんなに気に入ったのか?」


 潮風が頬を撫で、陽光が照らす甲板。

 船上の柱の1つにもたれかかりながら、ずっとミィはその手の中の物を布で磨いている。

 問いかけながらも、その気持ちはわかるなとも思っていた。

 さすがに1日中拭いているのもどうかとは思うけど……。


『竜爪による短剣なんていくらになるのかしらね』


「値段で言ったらにーにのが一番高い」


 2人が呟きながら見るのは、ミィの持たれている柱部分に括り付けられている長剣。

 白く、独特の光沢を放っているがそれには力を感じる。

 そう、溶岩竜の牙から削り出した俺専用の長剣である。

 一般的な物よりさらに長く、幅もあるので両手大剣、と言った方が良いような代物だ。

 その威力、切れ味は並の武器が10本20本重なっていてもあっさりと両断できる性能を誇っている。


 勿論、普通に持ち歩けないので上陸したら影袋に仕舞いこんで置く予定だ。

 今は、出来れば見ていたいというみんなの申し出に答えて展示中といったところ。

 ま、潮風程度で痛むようなやわな物じゃないしな。


 そう、既に俺達は船の上だ。アースディアから出発して2日目かな。

 もう見えなくなっているが、大陸の方を見ると少し寂しさを感じた。

 子供達との別れは済ませ、無事に必要な物や素材を受け取ってとしているとあの戦いから2週間がたっていた。


 半分ぐらいは竜素材の加工のせいであった。

 竜本体からの魔力供給により、各所は強化されているそうで取れた状態の牙はそこまでの強度は無い。

 それでも竜の牙は硬く、加工が困難。専門の道具に魔力を流し込んで少しずつ加工する必要があった。

 まずは作る物を決め、必要な大きさに切断、じわじわと削っていって形を整え、とやっていくと確かに普通にやると半年ぐらいの仕事だと実感できる。

 普通の魔力量では時間がかかりすぎるのだ。


 そこは反則的な俺の魔力をドワーフ側は交代制で運用し続け、なんとか期間をぎゅぎゅっと圧縮した。

 部屋に帰ったら帰ったでイアからひたすら吸われるので毎日がなかなか大変だった。

 そういえば、俺ってどのぐらい魔力が出せるんだろうか……船上で確かめると少し怖いことになりそうなのでまた今度にしておこう。


 そんなこんなでやってきたテイシア側との交易船に乗り込み、俺達は再び船の上というわけだ。

 その間、ミィはずっと手に入れた短剣を拭いている。

 座り込んだところにカーラを抱えてるから、ずっとカーラが目の前を自分を貫きそうな短剣が揺れることにヒヤッとしているのがわかってるだろうか?

 骨の短剣と侮るなかれ、この短剣は魔鉄装備とそん色ないどころか、普通に超えてくるとんでもない物なのだ。

 元が生き物の一部だからか、手にして魔力を込めるとそれに反応してくれるんだよな。

 ルリアにも短めの杖、イアも腕輪を作ってもらった。どちらも魔法の媒体としては優秀らしいからこれからが楽しみでたまらない。


 その後の航海中、大きな出来事は無かった。

 本能で襲い掛かってくる末端の海魔あたりに何回かであったけれど、俺が出るまでもなく船の人員であっさりと撃退された。

 カヤック将軍がしっかり統制してるからだとは思うけど、逆に海中ではどんな戦い、動きがあるのか気になるところ。また聞いておくことにしよう。


「あ、お兄ちゃん。あれかな?」


「たぶんな。そういえばこの向きから見たことはなかったな」


 見えてきた陸地、そして街並みにほっとする自分がいた。

 それが海からのテイシアという初めての光景だとしても、どこか懐かしさを感じたのだ。

 目的地が見えると誰しもが心が浮つくという物。

 心なしか、船の速度が上がった気さえしたのだった。







 港は相変わらずの賑わいを見せている。

 前よりも港自体は拡張されているようで、行き来する船の数も多いように思える。

 その分海沿いに倉庫や商店といったものは増えており、順調な発展をうかがわせる。


「ん? おお、この船に乗っていたのかね」


 船から桟橋に降り、どんどん降ろされていく荷物を眺めていると横合いから覚えのある声が聞こえた。

 誰であろう、バイヤーだ。恰幅が前より良くなっている気がするな?


「ちょうどこの船がこっちに出るって聞いたからな……太ったか?」


「わかるか? まあ、そうだな。忙しくて体を絞る暇もない。

 それでも食事をとらずに倒れでもしたら大変なのでね」


 笑いながらお腹を叩く姿は、やり手の商売人というよりはどこかのお父さんのような姿でもある。

 ……が。


「それより、聞いたぞ。持ってるんだろう? ここじゃ出し難いだろうからこっちへ」


「……わかった」


 ギラリと瞳をいつかのような物にして、さっそくとばかりに商売の匂いに食いついてきた。

 さすがであり、だからこそ頼もしいと言える。

 この港も、何かが襲ってきてもいいようにあちこち補修され、防衛拠点としても十分使えそうな状態になっているのが見える。


「みんな、行くぞ」


「はーい」


『そりゃあ気になるわよねえ』


「噂は勝手に翼が生える、問題」


 ぬいぐるみ状態のカーラを抱えるミィの手を取りつつ、ルリアも片方の手で迷子にならないようにして歩き出す。

 そうしないといけないぐらい、込み合ってるんだよなこの先

 向かった先は前にも案内されたバイヤーの拠点……なのだが、増設に増設されて結構な大きさになっていた。


「西……というかここからだと北西だな。あちらは交易は盛んでね。

 前と比べて復興に使うであろう資材などもどんどん買っている。

 向こうの頭が変わったのか、あるいは他の理由か。今探らせているが商売が順調なのはいいことだ」


 たどり着いたのは倉庫の中の小部屋。

 床にはふかふかの毛皮が加工されて敷き詰められており、用意された台にも何やら敷物が。


『壊れ物を扱う場所かしら?』


「その通り、貴重品などもここで扱うようにしたんだ。で、討伐は本当なのか?」


 俺は答えず、鱗を1枚、取り出した。

 赤い、夕方の太陽のような真っ赤な手のひらほどの鱗が小さい窓からの光に照らされ光る。


 おお……とつぶやいてバイヤーはその鱗を手に取り、まじまじと眺めている。

 確かに竜自体、まともに戦うのは何十年に一度あるかどうかと聞く。その中で素材を得られるのは数は少ないだろう。

 ミィの腕の中で鱗を見つめるカーラは若干複雑そうだ。自分とは別とわかっていても、何がどうなっているかはわかるんだろうな。

 そんなカーラに気が付いたのか、ミィはそっと頭を撫でている。


「見たことはないが、間違いないと確証が持てる……ふうむ、逆に売る先に困るな。ヴィレルとも相談が必要だろうな」


「そこは任せる。誰かに取られることはないだろうから安心してくれ」


 そういって俺は影袋を良く展開する腰当たりを叩いて笑いかける。

 俺のそこから物を取ろうと思えば、竜の口に潜り込むような物だ。

 世界一安全な場所の1つかもしれない。あ、妹だけは防げないのでよろしく。

 そんなことを考えていると、ルリアのお腹が可愛く鳴った。続けてミィのもだ。


「はっは。そういえばこんな時間だったな。詳しい話は食事の後にでも……。

 話を詩にするだけでもだいぶ儲かりそうな気もするがね」


「やった、お魚さん!」


『もう、ミィったら』


「それでこそミィちゃん」


 カーラも引き連れ、騒々しい集団による楽しい時間は俺達が竜との戦いを話し始めることで従業員が何度も顔を出し、夜遅くまで続くのだった。




ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ