100.ブレイブシスターズ
『ミィは翼の根元をとにかく狙いなさい!』
「わかったよ!」
今の魔法で終わったとは私もミィも、誰も思っていない。もしかしたら街のドワーフの中にはいるかもしれないけれど。
腐っても火竜、土の杭1本で沈むようならこれまで生きていないわ。あれだけ気配が暴れてるのだし、ね。
(魔力塊は大体使うしかないかしらね)
戦いとなれば、私の体を維持するのは重労働に他ならない。魔法を撃つたびにどんどんその力自体が減っていくのだから。
まったく、神様たちも少しは手加減してほしいものだわ。
姿勢を崩し、こちらへの反撃が遅れた火竜を見つつそうひとり心で愚痴る。
『鳴り響け、天のいななき。神々の戦いを導く者よ! トールブレイク!』
パキンと、私の保管していた魔力塊が1つはじける音がした。
それを代償に、私の手の中に青白い雷が産まれ、火竜へとぶつかった。
胸部への直撃は回避したかったのか、短い腕がその力を受け止める。
でも、それはあまり良くない手だと私は思う。
『ガウ!』
普通の生き物と違うと言っても生き物には変わりない。
そんな生き物が落雷を凝縮したような力を受けたらどうなるか?
動きの止まったところへ、元の大きさの半分ほどに戻ったカーラがつっこむ。
相手に対してひどく小さく見えるけれど、実のところ力はあまり変わらない。
むしろうまく圧縮できている分、元より一撃は強いんじゃないかしら?
ブレスは大きい方が有利なんだけどね。
がら空きの火竜のお腹付近に突き刺さるカーラの突撃。
それはミィへの格好の援護射撃となり、反対側で光が弾けた。
目に見えた光は、光剣を生み出す中位神への祈りの魔法。
自分の身長の2倍ほどの光る剣を手に、ミィが火竜の周囲を飛び回っているのが目に入る。
(まったく、近接攻撃のほうがいいってことかしらね)
安全に行くなら、ある程度離れた状態での連続射撃なのだけど、ミィにはやはりそういうのは難しいのかも。
動きやすい方でというのが一番楽ではあるのだけど。火竜にとって、私たちは無視できない割にとても小さく、うっとおしい存在ね。
例外はカーラかしら? まさに大人と子供ぐらいになっているけど。
だからと言ってそっちを見ていたら、ほら。
「うにゃにゃにゃ! お兄ちゃん直伝、弱点を斬るべし、斬るべし!」
多分お兄様はそう言うつもりで教えたわけじゃあないと思うけど、ミィの解釈は見ての通りの様で、赤い魔王の力を自己強化に使い、手にした光の剣が残像を伴って火竜に何度も迫っていた。
控えめに言って、薄闇の中を赤い光と白い光が飛び回るのって恐怖よね。
響く悲鳴は火竜の物。何度目かの攻防の最中、大地に火竜の血が染みていく。
『さあって。魔王の先輩としてはもっといいところを見せないとね』
勇者なお兄様は真の規格外として、魔王だって十分規格外な生き物だ。ましてや私は、一度死んだ身。だからこそ見えてくるものというのもある。
(ま、今の私自身は死んだことがないんだけどね)
前の私がどんな意図でこの記憶を渡してくれたのか、それはわからない。知らない部分も結構あるし、妙に偏ってはいる。
『ま、恨み言を残さないぐらいにはいい女だったんじゃない? ねえ、私』
少しばかり暗い気持ちは残っているけれど、結局は今を生きろと言っている、そう思っている。
そんな私の邪魔をするように、火竜は体をひねってある物を振り回す。牙、爪を除けば一番の武器、尻尾だ。
当たり前のように魔力が籠っているその一撃はそのままでは容易に私を打ち砕く。
勿論、そんな結果を甘受するはずもなく回避した目の前を丸太を何本も合わせたような太さの尻尾が通り過ぎていく。
『あっぶな。もう、乙女には優しく接しなきゃ』
『ガウ?』
うっさいわね、あんたはそのまま足を邪魔してなさいよね、もう。
失礼しちゃうわ、魔王はおばあちゃんじゃないの?なんて。
そんなことを考えたからだろう。火竜が私に向けてブレスを吐こうと姿勢を変え……動きを止めた。
私達も同じかしら?
だって、溶岩竜の気配が消えたんだもの。
お兄様が決めた、そうに違いない。だったら私達も終わらせないとね。
正気を取り戻し、こちらに向き直る火竜がふらついた。
片翼で浮いているせいだ。
そう、お兄様によって片翼が駄目になった時点で、火竜は半ば詰んでいた。
『だから、終わりにしましょう』
街の騒ぎも佳境というところかしら。こちらを終わらせて、援護に出来れば行きたいところ。
ミィを脅威と感じたのか、先ほどから彼女の攻撃はぎりぎりのところで防御、あるいは回避されることが増えてきた。
だったら私はそこを狙うだけよね。
両手に1つずつ、力を込めて生み出すのは冷気。
極寒の、音も凍る世界。そこに住まう神様の力が赤を食らう。
『そりゃ防ぐわよね。でも!』
自身の急所をかばうように姿勢を変える火竜。
咄嗟にその行動がとれることには、長い間溶岩竜と戦って来たであろう年期を感じさせるわ。
でも、それはあくまで1対1だったようね?
「見様見真似……勇者的顎砕き!」
火竜の足元で、ミィの小さな体がそれまで以上に赤く光った。
足と目から真っ赤な光があふれ、その光は拳へと集中する。
地面を吹き飛ばすような勢いでミィが飛び上がり、赤い塊となって火竜の顎へと突き刺さると周囲に衝撃がまき散らされた。
信じられないことに、火竜の体が浮きあがったのだ。
当然のけぞり、火竜の体が無防備に私たちの前にさらされる。
『ミィ!』
「うんっ!」
空中で魔力の足場を蹴ったミィが私の元へ。そのまま手を握り、空いている方の手を火竜へと向ける。
『大地の底より見守りし白き力よ。祈りを糧に敵を打ち砕け!』
文言そのものは何でもいい。祈りに正しい言葉なんて、本当はいらない。
重要なのは、祈り、願うこと。
「白蛇様ぁあああ! いっけえええ!」
2人の突き出した手の先に見覚えのない魔法陣が白い光で展開する。呼び出す力は、この大地を守る物。
火竜や溶岩竜が自然の流れを邪魔することを良しとしない存在。
私達なら丸呑みに出来そうな大きさの白い蛇が飛び出し、そのまま火竜の胸元へと突き刺さり、貫いた。
『ガウ!』
トドメとばかりにカーラがそこへ食らいつき、
何かを引きちぎるようにする。その口には竜魔石であろう輝き。
力を失い、倒れていく火竜。その衝撃は地面を揺らし、街を襲っていた獣や魔物は熱が冷めたかのようにあちこちへと散っていく。
(終わったのね……)
ふらりと崩れそうになる体をなんとか維持して、街へと飛んでいく。
まだやることがあるのだから。
突然気配が消えたこと、魔物達の攻撃が止んだことに街は戸惑っていることでしょう。
ちゃっかり大きさを戻したカーラと火竜の竜魔石を抱えてミィも走ってくる。
大きいわね、結構。
「ミィちゃん、イア。お帰り」
「ただいまっ」
疲労困憊といった様子のルリアが、それでも笑顔でミィを抱きしめ笑う。
私はそれを見て優しい気持ちになりながらもやることを思い出し、ミィが足元に置いた竜魔石のそばに立つ。
自然と、街の皆の視線が集まった。
『白蛇様の加護で火竜は倒されたわ。それに、感じるでしょ?
溶岩竜もまた、倒れた。街は、大陸は守られたの。私たちの、勝利よ!』
僅かな沈黙の後、街は歓声に包まれた。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。