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呆然とする2人が心配になって、ナディルはパラスロットの街まで一緒に行こうと提案した。
青年ははっと我に返り、申し訳無さそうに笑って言った。
「……そうですね、それがいいですね」
そして少女を促す。
「一度パラスロットに戻りましょう」
少女はこくりと頷く。
青年はナディルに向き直って、右手を左胸の辺りまで持っていく。
「申し遅れました。
私は褐珀・シンジェロと申します。祈祷師をしております」
目を伏せて軽くお辞儀をする。緩やかなウェーブのかかった金髪を揺らし、にっこりと微笑む。優しく細めた瞳も綺麗なアンバーだ。
「ライナです」
今度は少女が簡潔に言い、少し頭を下げる。
その際にプラチナブロンドの細い髪の毛が顔に掛かり、彼女は煩わしそうにそれを払った。
彼女の肌は透けるように白い。カハクの肌も一切焼けた事の無い様な白さだが、ライナは種類の違う白さがある。そして、小さな耳の先がほんの少しだけ尖っていた。
アクアマリンの瞳が、ナディルの心の内を覗き込むかの様に見つめてくる。
「ナディル・リーヴスラシルです。
一応魔法も剣も使えるかな。
旅は長い事しているから何でも聞いて。
よろしくね」
そう言って右手を差し出す。
「はい、よろしくお願いします」
カハクは笑顔のまま、ナディルの手を優しく握り返す。
ライナの方にも手を差し出す。
彼女は握手の習慣がないのか、恐る恐る手を出して、ナディルの手にそっと触れた。
その瞬間、触れられたナディルの手が光り、付けていた手袋が破れて弾け飛んだ。
今まで経験した事のない強い光と共に、鼓動が速くなっていく。どくどくと脈打つ右手が熱い。
父親の言葉が思い出される。
ーー大丈夫、見つかったら分かるから
もしかして……ナディルは気持ちが高揚していくのを感じた。
喜びと戸惑いが入り混じり、感情が先走ってしまいそうだ。本当に?という疑問が心の底で生まれ、絶対にそうだ、という大きな声に掻き消される。何故だかわかる。絶対にそうだと。根拠の無い絶対的自信が身体中を支配する。期待と困惑、驚愕と興奮、焦りが渦巻いて、普段の冷静さを取り戻せと自分に言い聞かせる。
ライナも驚いて触れたナディルの手を見つめた。光が溢れて眩しい。
ーー何これ
ライナは怖くなって手を引っ込めようとしたが、それを拒む様に、ナディルが強く握って離さない。
「大丈夫、怖くないから。
もう直ぐ落ち着くはず」
そう言ったナディルの瞳には薄っすらと涙が溜まっていた。
糸車の回る音がした。運命の女神が回す糸車だ。
長い長い運命と言う名の糸が紡がれていく。
カラカラと音を立てながら歯車が動き出す。
ナディルの“探し物”が見つかった。