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そして道もない崖の上の茂みからでてきたのか、とナディルは納得した。
何で犬狼が怒って襲って来たかも、理由が分かった。
「ごめんなさい」
関係のないのに巻き込んだナディルになのか、怒らせてしまった犬狼になのか、少女は目を伏せて呟いた。
きっと2人とも旅慣れてないんだろうな、とナディルは思った。十何年間も旅をしてきたナディルにはすぐわかる。真新しい服装からも、武器らしいものが見当たらない軽装備からも、危機感の薄い頼りなさからも、軽率な行動からも。
ナディルは心配になって尋ねた。
「貴方達もパラスロットに行くの?」
この辺りの大きな街といえばパラスロット位しかない。
「いいえ、私達はフスト=フェルトに向かっています」
困り顔で首を振る青年の答えにナディルは驚いた。
「フスト=フェルト⁉︎ 今から?」
「はい」
即答した青年は、何がいけないのだろうときょとんとする。
「でもフスト=フェルトってすごく遠いよ?
今からは向かうと日が暮れてしまうから、止めておいた方がいいんじゃないかな……」
ここからフスト=フェルトの街までは丸一日はかかる。暖かかった太陽の日差しはとうに傾いている。今から向かうと云うのであれば、森の中で野宿しなければならない。
「でも街を出る時、フスト=フェルトまでは3時間くらいでつくと伺いましたが……」
要点を得ない返答を不振に思い、ナディルは質問した。
「貴方達はどの街から来たの?」
すると、少女が抱えていた鳥を青年に手渡し、ポケットから、小さく折り畳まれた紙切れを取り出した。その紙を丁寧に広げると、ある地点に指を差した。
「ブロフォーレス」
確かに。ブロフォーレスからフスト=フェルトまでは、3時間もあれば辿り着ける。
しかし此処は、ブロフォーレスからだいぶ西へと移動した場所、パラスロットの手前だ。方向が全く違う。
「今俺たちは此処にいるんだよ」
ナディルは地図上で自分達のいる場所を指し示した。
「…うそ……」
「あれ……どうしてでしょうか?」
2人は訳がわからないと言った顔で首を傾げたり、眉間に皺を寄せたりしている。
「だって、ずっと西に歩いて来たのに……」
西に……?
何かおかしいと思いナディルは地図に目を遣る。そしてある事に気づき、少女の持っている地図をくるりと90度回転させる。
「この地図東が上になっているけど、まさか間違えてないよね?」
「……」
2人とも絶句して地図を見つめた。
彼女が持っている地図は、この辺りのみを切り取って、小さな道まで詳しく描かれた地図だった。
街を中心に描かれているものは、北を上に描かれていない物もある。
これが2人がいくら歩いても街に辿り着けない理由だった。