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セブンス エッダ  作者: りん
運命の女神《ノルン》の紡ぎ糸
6/118

5

 青年は事の顛末を説明した。



 2人は本道から逸れていく細い道を歩いていた。

  森の緑はどんどん深くなっていく。植物の種類は増え、木は密集していく。ハート型の葉をわさわさと携えた木には、頭の赤い真っ黒な鳥が止まっている。鳥が木を突つくと、カンカンと乾いた音が鳴り響いた。足元から姿を現した、ふわふわとした大きな尻尾を持つ山鼠が、灰白色の背の高い木に走っていった。見慣れない動物も増えてきた。


 暫く歩くとピーピーと鳴く鳥の声が煩く聞こえてきた。

 最初は2人とも気に掛けず進んでいたのだが、道を進むにつれてその声は次第に大きなり、一向に鳴き止む気配がなかった。

 必死に鳴く声は警告音にも似ていた。


「何の声ですかね。まるで危険を知らせている様な……」


 カハクが心配そうに言う。


「なんだろう……見に行ってみる?」


 ライナも不安を覚えて、カハクを仰ぐ。


「そうですね。すぐ近くから聞こえてきますし、少し行ってみましょう」


 2人は道を逸れて、鳴き声のする方に気配を隠しながらそっと近づいていった。

 鳴き声はより一層大きくなり、まるで助けてと言わんばかりに、狂った様に鳴り続けている。


「あ、あれ……!」


  先に見付けたのはライナだった。

 木の根元に羽を沢山持った白っぽい鳥がいた。異常な鳴き声はそこから聞こえた。鳥は怪我をしているのか、片側の羽だけをバタバタと振って威嚇している。


 その先には子供の犬狼(ガルム)がいた。犬狼(ガルム)は鳥を食べようとする様子は無く、ただ動く物が楽しいのか、前脚で突きながら遊んでいる。

 犬狼(ガルム)の爪にやられたのだろうか、鳥は飛んで逃げる事ができない様だった。


「……助けてあげよう」


 本当は自然の摂理に人が介入する事は好ましく無いのであろうが、ライナはそれを見過ごす事ができなかった。

 必死にもがき、助けを求める鳥。

 暗闇の中、叫んでも叫んでも誰も居ない自分の様だった。


「カハクはここにいて」


 そう言うと、ライナは鳴き続ける鳥に駆け寄って、素早く抱き上げた。

 子供の犬狼(ガルム)は吃驚した様ライナを見て、キャンっと吠えて飛び上がった。まだ仔犬ほどの大きさだが、爪も牙も鋭い。

 ライナは身を捩り、上手に躱して、ごめんねと小さく呟いた。

 ライナは鳥を抱き上げたのと逆の手を子供の犬狼(ガルム)に振り翳すと、その鼻先に、青く光る水の輪が現れた。次の瞬間、強いフラッシュが光ったかと思うと、子供の犬狼(ガルム)は全身びしょ濡れになっていた。子供の犬狼(ガルム)は驚いてその場から遠去かった。奥の方の木の横で、耳を伏せて、キャンキャンと鳴いているが、もうこちらを襲ってくる様子は無い。

 ライナはふぅっと一息ついて、少し離れた場所にいるカハクを見る。

 カハクは気付かぬうちに握り締めていた、胸元のロザリオから手を離し、ライナに近づいて行った。


「大丈夫ですか?」


 ライナは頷くと、手の中の鳥を見た。

 鳥は鳴き疲れたのか、自分の危機が去った事を感じ取ったのか、ライナの手の中で大人しくしている。息をする度に羽毛が震えて、鳥の温かい体温が伝わってくる。

 見た事の無い鳥だった。

 背面が薄いアイスグレーで、光をキラキラと反射した。腹面は白とアイスグレーの薄っすらとした横縞模様がある。

 そして、羽が左右3枚ずつ、6枚も生えていた。

 怪我を見ようと羽をそっと摘み、広げてみると、羽の内側はグレーの濃淡で美しい模様が作られていた。

鳥は抵抗する様に身じろいだが、程なく諦めて大人しくなった。


 その見た事も無い、美しい鳥の羽を覗き込んでいると、先程子供の犬狼(ガルム)が逃げて行った方に気配を感じた。


 そこに現れたのは、親と思しき立派の体躯の大きな犬狼(ガルム)だった。

 子育て中の動物はとても気性が荒い。子供に手を出して怒らせてしまったのであろうか。

 後ずさると木にぶつかってしまった。こんな木が密集した場所では、彼女の精霊魔法は使いづらい。せめてもう少し広い場所に出たかった。


「カハク、逃げよう」


 ライナはカハクの手を引っ張って、木々の間を縫う様に夢中で走った。




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