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セブンス エッダ  作者: りん
運命の女神《ノルン》の紡ぎ糸
5/118

4

 ーー何かいる。


 ナディルは腰の剣に手を掛け、素早く身構える。


 音は大きくなり、緊張した空気が張り詰める。

息を殺して茂みを注視していると、そこから現れたのは葉っぱに塗れた少女の顔だった。


 ーー人間……?


 音の大きさから大型の魔獣を想像し、戦闘の態勢を整えていたナディルは、あまりに意外な登場に驚いて呆気に取られた。


 彼女も人が居るとは思わなかったのか、少し驚いた様子で、アクアマリンの瞳を大きく見開いてナディルを見つめる。

 すると彼女のすぐ後ろから少し高い青年の声が聞こえてくる。


「よかった、無事に出られましたねぇ」


  少女は後ろを振り返り、うん、と頷く。

 後ろにから中性的な顔立ちの青年が顔を覗かせる。心無し行きを切らせている。


「あれ、これはこれは……こんにちは。こんな所から失礼します」


 物腰の柔らかそうな青年は、ナディルを見付けてにっこりと微笑み、丁寧に挨拶をした。


「こんにちは」


 つられてナディルもにっこりと笑顔で返す。


「カハク、早く」


 そう言うと少女は青年を促して、軽やかに崖から飛び降りた。

 崖を飛び降りた2人は慌てた様子で道を横切り、ナディルの方に駆け寄ってくる。


「カハクは後ろにいて」


 少女が聖職者であろう青年を自分の後ろに促し、庇うように片手を上げる。

彼女はもう一方の手に、白っぽい羽の塊の様な物を抱いていた。


「すみません」


 青年は彼女の言葉に素直に従って、後ろに下がった。そして申し訳なさそうにナディルに言う。


「ちょっと厄介な事になってしまいまして……。

魔獣に追われているんです 」


 程なくして、彼らの出てきた辺りの茂みが再び音を立てる。

 ナディルは少女より一歩前に出て剣を構える。


 グルルルル……と唸り声を出して、子供の背丈程ある、大きな銀色の狼が飛び出してきた。

 犬狼(ガルム)だ。

 この辺りの犬狼(ガルム)は穏やかで滅多に人を襲わないと聞いていたのだが……

 琥珀色の瞳に怒りを宿した犬狼(ガルム)は、豊かな銀色の毛を逆立てて唸った。剥き出した牙の間からは唾液が垂れている。一度姿勢を低くした後、鋭い爪を持った太い前脚で、地面を蹴って、こちらに走ってくる。


 ナディルは走ってきた犬狼(ガルム)に向かって剣を振り下ろした。犬狼(ガルム)は素早くそれを避けてナディルの横に回り込む。体勢を整えて再度飛びかかってくる。ナディルは身を捻りそれを躱す。犬狼(ガルム)は着地するとくるりと向き直り、ライナとカハクを見た。

 ライナは身体を強ばらせる。


「いけないっ」


 ナディルは自分に注意を向け様と犬狼(ガルム)に向かって走り出した。犬狼(ガルム)はナディルを一瞥してライナ達の方へ向かおうとする。ナディルはそれを阻止すべく犬狼(ガルム)に大きく斬りかかる。剣は犬狼(ガルム)の胸元を掠めて、犬狼(ガルム)の銀色の毛がほんのりと赤く染まる。

 犬狼(ガルム)が一瞬怯んで立ち止まった隙に、ナディルは素早く魔法を唱える。

 犬狼(ガルム)の周りに真っ黒な宇宙が広がったかと思うと収縮して弾けた。


 キャウゥンと声を上げて犬狼(ガルム)は倒れ込んだ。一瞬気を失ったていた様だが、びくっと身体を震わせて立ち上がり、辺りを見回して、怯えた様子で木にぶつかりながら森の中へ消えていった。


 その様子を見送ってから、安堵した様に青年が声を掛けた。


「お強いんですね。ありがとうございます」


 ふんわりと花の咲いた様な笑顔を向ける。

 青年の前で構えていた少女も居直って、真っ直ぐな瞳でナディルに言う。


「助かった。ありがとう」


 ぶっきら棒な物言いとは裏腹に、鈴を振る様な愛らしい声だった。

 ナディルは剣を鞘に収めながら優しい声で応える。


「困っている時は助け合わないとね。

 怪我とかしてない?」


「大丈夫」


 少女は真っ直ぐこちらを向いたまま答えて、青年は笑顔のまま首を振った。


「よかった」


 ナディルはにっこりとしてから、先程疑問に思った事を口にした。


「それにしても、この辺りの犬狼(ガルム)は滅多に人を襲わないって聞いていたんだけど……」


  何かあったのだろうかと、ナディルは首を傾げる。

 その疑問に青年と少女は顔を見合わせる。少女が片手に抱いている羽の塊のに目を落とし、押し黙る。青年は困った様に口を開いた。


「それは、私達がいけないんです……」

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