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教会は赤茶色の古ぼけた石で造られていて、所々白い石で模様が施されている。決して豪華な作りではないが、歴史を感じさせる重厚感のある造りだ。中央に青銅の頭をした高い塔が1本立っていて、街のシンボルになっている。
中に入るとひんやりとした澄んだ空気に包まれる。独特の荘厳で静謐な雰囲気に少し鼓動が速くなる。
天井を見上げると、光に照らされた、美しく繊細なリブアーチが目に入る。何本も聳え立つ柱や石積みの壁は、モルタルの塗装がされていて、凹凸のある地肌に、淡い光が白く浮かび上がる。まるで白い森に迷い込んだ様だ。
高い窓から入った光が、艶々した深い焦茶色をした木製の椅子に当たり、神秘的な雰囲気を醸し出している。
椅子には信者が何人か座っていて、熱心に祈りを捧げている。
奥に進むと、正面に一段と明るく照らされた祭壇が見えてくる。
祭壇の周りのステンドグラスは、細かく細工された御使いが描かれていて、色鮮やかに光が入り込む。
祭壇脇に、花を活け換えるカハクを見つけた。
彼は髪の毛を覆い隠す、肩までかかるヴェールを被っていて、真っ白なその生地にステンドグラスの色とりどりの光が映り込んでいた。
綺麗だな、とライナは思った。
カハクは聖堂にいる時が一番美しい。まるで飾られた宗教画から出てきたみたいだ。
カハクはライナ達に気が付いて、白い花を持ったままにっこりと微笑みかける。
「おはようございます」
おはよう、とライナとナディルもあいさつを返す。
「昨晩はゆっくりお休みになれましたか?」
「あぁ、清潔で気持ちのいい宿だったよ。ありがとう。
それに朝食も美味しかった」
カハクとナディルは声を落して談笑をする。
何となく、この2人似ている、とライナは思う。物腰柔らかな話し方や、愛想のいい笑顔。年も近そうなので気が合うのだろうか。
実は話をしながら、お互いの本心を図ろうとしている事に、ライナは気が付かない。
「そういえば、司教様に会いたいんだけど、どこにいる?」
ナディルはカハクに尋ねた。
「司教様は……お忙しい方なので、前もってご連絡頂かないと、なかなかお会いできないんです」
困った様に返答するカハクに、ナディルはポケットから、手の平に収まるサイズの、革製の薄い手帳の様な物を取り出して見せた。彩度の高いヴィリジアンの上に、ゴールドの紋章が精密に描かれている。
それを見たカハクは一瞬目を大きく見開いて、頭を下げた。
「失礼致しました。司教様に取り次ぎ致します。付いて来て下さい」
そう言って、ナディルを促した。
急にごめんね、とナディルはすまなそうな顔をした。
「ライナは少しここで待っていて下さい」
そう言って2人は横の扉から奥へと消えていった。