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ナディルとライナは広場の近くの食堂で食事をとっていた。
この辺りの大きな街は、教会を中心に街づくりがされている。パラスロットはとても分かりやすい例で、街の中心に広場と教会が設けられ、四方に大きな通りが伸びている。教会の正面にある広場と、そこから伸びる大通りには多くの店が立ち並ぶ。
この街は、この辺りでは一番大きく栄えているため、夕食時にはどの店も人でいっぱいになった。
ナディルは宿の主人から、街の中でも比較的上品で、個室のある店を教えてもらっていた。居酒屋の様な賑やかな店ではうるさすぎるので、落ち着いて話ができないと思ったからだ。
主人に教えてもらった店は、要望通りの、落ち着いた雰囲気の店だった。ダークブラウンの木板が壁から天井へとアーチを描いていて、木板の間からやんわりと灯りが漏れる。床は真っ白な漆喰で塗り固められている。余分な飾りのない、シンプルだけど品のある内装だ。
入り口に薄い布の垂れ下がる、小ぢんまりとした部屋に通される。
「何か嫌いなものとか、食べれない物はある?」
メニューに目を落としながらナディルが尋ねる。
「……獣の肉」
メニューを開きながら、ライナは答える。
鹿肉や猪肉や熊肉は野生的の味がするので苦手だ。羊や兎もあまり好きではない。本当は牛や豚も。独特の臭みを感じるし、血の味がする。
でもそんな事を言っていたら、選べるものがほんの少しになってしまうし、男の人は肉が好き、と聞いた事があるので黙っておく。
ちらりとメニューを見ると、ライナの見たこともない文字が並んでいた。
牛肉のドープ、パケット・ド・野兎、アイゴ・ビイルド、メスクランのサラダ、フリュイ・ラーグレ……
この地方の伝統料理の様だが、ライナに全く想像がつかなかった。
「適当に頼んじゃってもいいかな?」
固まったライナに気が付いてか、ナディルが申し出た。
ライナは2回首を縦に振る。
「サラダは頼んで」
見た事のないメニューに、食べられるものが無かったら困る、と早口で付け足した。
ナディルはその姿を微笑ましそうに見つめながら答える。
「了解」
程なくして幾つかの料理が運ばれてくる。
ギザギザした瑞々しい葉に、真っ赤な果実と鮮やかな黄と紫の花びらが散らされたサラダ。一口大に切られた色とりどりの野菜の煮込まれたスープ。オーブンでこんがりと焼かれ、赤いソースを纏った白身魚。レモンとハーブをたっぷり使って蒸し焼きにされた鶏肉。表面がほんのり焦げた焼きたての丸いパン……
どれも色鮮やかで、白磁の皿に美しく盛り付けられている。スパイスとハーブの良い匂いがした。
量は少し多い気がするが、どれも食べられそうだ。
ライナは胸を撫で下ろした。
ナディルはライナの安堵した様子を確かめてから、黄金色の林檎酒を口に運んだ。