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パラスロットの街に着いたのは、薄明の頃だった。
街に入ると、真っ直ぐな大通りが奥まで続いていて、その先に大きな教会が見える。この街のどこに居ても目に入ってくる高い尖塔を持つ教会は、オレンジ色の光を燈して、幻想的に照らされている。
「戻ってきましたね……」
「……戻ってきたね」
カハクとライナは教会を仰ぎながら、お互いに呟く。
まるで計画が白紙に戻った様な落胆ぶりをみせる2人にナディルは同情する。
「以前この街に来たの?」
ナディルの質問にカハクは眉端を下げて答える。
「はい、私はここの教会に勤めております」
カハクとライナはこの街で出会い、一緒に街を出たのだった。
正に、振り出しに戻ってしまった。
「……私は一度教会に戻ります」
何かを決心した様に、カハクはきっぱりと言った。
何か言いたそうに、真顔で見つめてくるライナに、優しく微笑む。
「この鳥の怪我も手当てしたいですし……
御二人には申し訳ないのですが、街の宿に泊って頂けますか?
教会は正式に登録を行った信者しか泊められないんです」
カハクはすまなそうに言う。
「信者の方が商っている宿がありますので、口利きをしておきます。
よろしかったらそこに泊って下さい」
「そうだな……もうこんな時間だし。
お言葉に甘えようかな」
ナディルはカハクの申し出を快く受け入れた。
ライナは焦ってカハクとナディルを交互に見上げる。
ーー何で話が纏まってるの?
ライナにとって、ナディルは“兄”とはいえ、出会ったばかりの見ず知らずの男性だ。
置き去りにしないでほしい、と不安を目で訴えるが、カハクはそれをにっこりと一掃した。
「明日の朝、教会にいらして下さい。
宜しかったら御案内致します」
兄妹水入らずで話をした方がいいだろう、というカハクの配慮だった。
ーーナディルさんも悪い人では無さそうですし。
カハクは沢山の信者の告解を聞き、助言をしてきたので、多少なりとも人を見る目はあると自負している。
悪い人では無さそうだが……腹の奥は決して見せないタイプの、頭のキレる人だろうな、と心の中で思った。
戸惑うライナを置いて、2人は太陽の残り日に煌めく石畳を歩き出した。
足早に家路へ急ぐ者があちらこちらで見られる。街にはひっそりと夜の帳が下りようとしている。