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セブンス エッダ  作者: りん
水底で息をする
116/118

5

宝珠を祀る神殿は離れた浮島にあった。小さな浮かぶ島の周りには結界が張り巡らされている。エーヴァとイルヴァが左右に回り込み、結界を解く。光の糸が切れて細かな粒子になってキラキラと降り注ぐ。


 神殿の中は王宮と同じ様な造りで、白い柱が幾つも連なっている。長い廊下を進むと奥に光の差し込む部屋に辿り着く。水で出来た天井が太陽の光を受け入れて部屋を明るく照らしている。水面の影がゆらゆらと部屋に光の筋を作りながら揺れる。

 部屋の中央に水の膜に覆われた宝珠が光を浴びている。


「さぁ、シロガネ」


 セファに促され、シロガネが部屋の中央にある宝珠へと進む。シロガネが手を掛けると水の膜が弾ける。それと同時に2つの影が天井の水膜を破って現れた。目を奪われた一瞬を狙い、其れ等は宝珠を掠め取った。

 2人の人間、いや、此処にこんなに簡単に入れるのは妖精だ。2人共、亜麻色のマントを目深く被っている。1人は背が高く、1人は小柄だ。


「誰だ!」


 すれ違い様に目が合い、シロガネはその姿に驚く。マントの隙間から覗くのは、シロガネと同じ切れ長の銀色の月の瞳と白い肌、絹糸の様に細い銀髪。


「兄上……?」


 マントの男もその声に反応して、シロガネを一瞥する。


「何?知り合いか、霜月?」


 小柄な方が背の高い方に声を掛ける。その声はまだ幼さを残して高い。

 背の高いマントの男は、一瞬立ち止まりシロガネを振り向く。


「シロガネ……か?」


 その声に聞き覚えのあるライナは咄嗟に柱の影に隠れる。水無月と霜月だ。


「すまない、事情は後だ」


 シロガネの兄カナメ、いや霜月はそのままシロガネを背に宝珠を持って出口に向かって走り出した。


「待ってください!」


 シロガネは兄を追いかける。


「兄上、宝珠を、いえ、それよりも話したい事が……!」

「……」


 霜月は追いかけて来たシロガネに向き直り、無言で斬り付ける。


「この珠は諦めろ」


 冷たい一言を放つと、細長い長剣(エストック)を大きく振りシロガネを吹き飛ばした。


 ナディルは小柄な少年、水無月を(レージングル)で捕らえようとする。水無月は雷の魔法で応戦する。彼は自分の身長程ある大剣(ツヴァイヘンダー)を取り出し、ナディルに近づき斬り付ける。すばしっこくて魔法と剣の切り替えが速い。


「……っ!」


 水無月を捕らえようとしたナディルの魔法が左手から溢れ出す。最近、魔法を使い過ぎているのは分かっている。まだ大丈夫と踏んでいた鎖が暴走しかける。


「言う事を……聞け‼︎」


 (レージングル)はナディルの腕を登って肘まで黒く染めている。


「無茶はよしなさい!」


 セファがナディルの腕を掴み魔法の発動を制御し、暴走を止めようとする。

 その隙を突いて水無月と霜月は出口へと走った。


 ライナはナディルの事を心配して近くまで行こうとするが、思い直って逃げる2人を追いかけた。


ーー逃げてばかりじゃいけない……!


 例え、自分が何者か知られてしまっても、それでこの居場所を失ったとしても、自分ばかり隠れて守られるのでは無く、自分が守らなければいけないのだ。この場所を。ライナは必死で彼らの後を追った。

 しかし、神殿を出たところでセファに腕を掴まれる。


「今の状態で、1人で深追いは禁物です」


 ライナはセファの腕の中で小さくなっていく彼らを見送った。

 セファはライナの肩に手を置き、冷静な声で言う。


「ライナ、彼らを知っていますか?」


「……」


 ライナは答えたくなくて、口を閉ざし目を逸らす。


「ライナ……」


 セファはライナの方に置いた手に力を込める。そして怯えた彼女の瞳をしっかりと捉える。


「教えて下さい。検討は付いています。でも確信がほしいのです」


「……私……知ってる」


「……ヨトゥンヘイムの……タスペリットの、十二月(じゅうにつき)の人達……」


 ライナは縋る様な目で見つめる。口から呪いの言葉が零れ落ち、周囲の空気を汚し、草木を枯らし、水を穢し、セファにまで呪いが染みついてしまうかもしれない。


ーーお願い、嫌いにならないで


 彼女はこの地の名前を口にしただけで、何度も嫌な思いをした。ライナの育った土地は忌み嫌われる呪いの土地だ。そんな事も知らなかった彼女は、その地を口にしただけで宿から追い出され、皿の料理を投げつけられ、町から追放れた。自分が何か無礼な事をしたのか、それが何だったのか分からなかった。

 暫くして、どこに行っても、地図にも本にもその大陸の名前が記されていないのに気が付いた。そこは、消された土地なのだ。穢れた罪深い大陸、ヨトゥンヘイム。そこで育った自分も例外なく罪深く汚い。

 セファは彼女を優しく抱きしめて、背中をそっと撫でた。


「ありがとうございます。辛いのによく言葉にしてくれましたね」


「さぁ、戻りましょう」


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