10
ライナは何か聞こうと思ったが、何から聞けばいいのか分からなかった。言葉を口にしようと思った瞬間、喉元から零れ落ち、消えてしまう。動揺を隠しきれない。自分の心の内を晒したく無いライナは、まずは落ち着いて自分の気持ちを整理しなければならなかった。
ナディルは彼女ともっと話をしたかったが、ライナが真剣な顔で黙り込んでいるので、何も言えなかった。
「すごいです……!
神の思し召しですね……‼︎」
2人を静かに見守っていたカハクの、感動しきった声が響き渡った。
彼は鳥を抱きかかえたまま、両の手を前で組み、目をキラキラ輝かせていた。
「カハクも驚かせてすまない。
君がライナを此処に導いてくれた事を感謝するよ」
ナディルはカハクににっこりと微笑んで御礼を言う。
「とんでもございません。これも神の御導きです」
「そうだね、後で教会で御礼を言っておかなきゃ。
……取り敢えず、日暮れ前には街に着きたいから、歩こうか」
3人は街を目指して歩き出した。
何かを考える様に黙り込んでいるライナに、声を掛けたいのに掛けあぐねるナディル。
言葉無く歩く2人を見兼ねて、カハクが口を開く。
「ナディルさんは色々な土地を旅して回られたんですよね?」
「そうだね」
ナディルも普段と変わらず、明るく返す。
「でしたら、こんな鳥、見た事ありますか?」
そう言って手元の鳥に目を落とす。
「羽が6枚もあるんです」
ナディルはカハクの手元を覗き込んで、鳥をまじまじと見つめる。
子猫位の大きさの、ツヤツヤした羽の塊が、カハクの腕の中にすっぽりと収まっている。薄いグレーの羽毛が、光の加減によって、白っぽく艶めく。丸まったその姿は、まるで硨磲貝の様だ。
「俺も色々な鳥を見てきたけど……
こんなに羽がたくさんある鳥は見た事ないなぁ」
鳥は自分の事を話題にされているのをわかってか、硝子の様な目でこちらを見遣る。
「そうですか……」
カハクは残念そうに呟く。
「元気になってくれるといいんですが」
先程怪我を確認したら、左の羽の一枚の付け根が傷付いていた。羽毛が剥がされ、薄っすらと血が滲んでいる。深刻な程大きな怪我では無いが、酷くなる前に手当てをしてやった方が良いだろう。
この子が空を飛んだら、きっと美しいんだろうな、とナディルは思った。
日暮れ前の空はまだ青い。
雲が沈みかけた太陽に照らされて、紺青の影を落としながら、金色に輝く。
間も無く空は黄昏に染まるだろう。
運命の糸に操られて、手繰り寄せられる様に歩いて行く。
見えない手で細い絲が撚られていく様に、幾人もの定められた未来が糾われる。
美しく流れる雲を湛えた空はまるで、嵐の前の静けさの様だった。
一章 完です。お読み頂いて大変ありがとうございます。
思っている事を文章にするのって、時間がかかると言うか、話が遅々としか進まなくてすみません。やっと出会った。よかった。
どうでもいいネタバレ(?)ですが、街の名前は結構適当です。考えると考え過ぎてアレなんで…
題名からしてもですが、北の方の言葉をちらほら使っております。
パラスロット→palass slott
ブロフォーレス→blå forest
フスト=フェルト→høst (rice)felt
片田舎な雰囲気にしたかったので…東北的な…ね。どうでもいい事でした。
感想、ご指摘、ご指導等お待ちしております。何かありましたらお気軽に…
今後ともよろしくお願いします。