開いたエレベーター
私たちがエレベーターを待っていたとき
「あ!忘れ物」と叫んで友子が走りだした。
「いやぁ〜友ちゃんは 朝から走ってる!」
と恵美子が感心したように言った。
「朝から走ってたら一日分の力を使った気になるよね?」
としーちゃんが恵美子にふる。
「朝でなくたって走れない」と恵美子は答えた。
そんな私たちを置いて友子は軽快に走り去って行った。
「昨日ね 家の近所で餅撒きがあったんだ」と恵美子が続けた。
「今時 珍しいねぇ〜」と私。
最近 建前の時に餅を撒くなんて珍しい。
珍しいから人が結構集まっていたらしい。
出かける用事があった恵美子は参加する気は無かったのだが
ついつい参加してみたそうである。
「沢山 拾えたの?」としーちゃんが聞いた。
「それがね・・人が多すぎてあまり拾えなかったんだ」
と残念そうに恵美子が言った。
それを聞いたしーちゃんの顔はとっても残念そうに見えた。
おこぼれを期待したのだろうか?
その電波が恵美子に飛んだようであった。
「実はね・・・大きなのを拾ったんだ。」と恵美子
「え? それどうしたの?」としーちゃん。
「拾ったというか手にかけたというか・・・」と恵美子が続けた。
大きなお餅を見つけた恵美子はエイ!っと
手を伸ばしてゲット成功と思ったときに
もう一つ手が伸びていることに気が付いたそうである。
その手の持ち主は近所の奥さんだった。
それを確認したときに
「どうぞ〜!」と心にも無い台詞が口から出てしまったと言う。
飛び出した台詞は戻せない。
大きなお餅は他人の手に渡ってしまったのである。
「私 友ちゃんみたいにフットワーク良くないし〜
少し拾えただけでも偉かったと思ってる。」
恵美子は いつに無く謙虚であった。
「ねぇ〜取り合ったのが近所の人じゃなかったら譲った?」
意地悪く私は聞いた。
「えぇ〜?勿論 上品な私は譲るわよ!」
心にも無い返事が返ってきた。
もう一度質問してみた。
「今 エレベーターが開いて1万円落ちてたらどうする?」
「そりゃぁ〜一番に拾う」と恵美子が言った。
「でも真由美ちゃんのフットワークには敵わないんじゃない?」
としーちゃんが言った。
「そんなもん。 真由美ちゃんが先に手をかけても私の勝ちさ!」
恵美子は言いながら微笑んだ。
「解った!突き飛ばしてでも取る!!」
と私は言いながら恵美子の顔を見た。
「決まってるじゃない」
その答えを聞いて真由美は身震いしてた。
開いたエレベーターには 勿論 何も無かった。
私たちは 争いごとを起こさずに仲良く乗った。