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ヒロインは辛いよ  作者: 葵行
プロローグ そして彼は舞台に上がる
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アイリス

 攻略ヒロインについて語らねばならない。

 原罪のクオリアというゲームにおいて攻略ヒロインは10人、そのなかでメインヒロインは5人だ。

 サブヒロインは置いておくとして、メインヒロインには幼馴染キャラが2人いる。1人は言わずもがな私こと姫咲凛であり、もう1人は菊池茜である。

 菊池茜という少女は薄いピンクの髪をサイドテールで纏めており、たれ目がちな目はクリクリとしていて可愛らしい顔立ちだ。性格は臆病だが信頼した相手には物怖じせず発言する。

 ギフト名は「共感」、自身の感情と相手の感情を同質化させるという精神干渉型のギフトだ。階級は第三等級。

 そんな彼女には兄がいる。

 名は菊池恭弥。臆病な妹と違い反発心の強い少年だ。

 無雑作に切りそろえた茶髪の髪(兄弟で髪の色が違うのはギャルゲーではよくあること)につり目がちな目でまたしてもイケメンな少年である。

 彼の信念の1つに妹を守るというものがあり、それにより妹と仲良くなる黒木と幼少期にケンカを起こし、それによって親友となるというエピソードがある。

 ちなみに原作では私こと姫咲凛に惚れており、それにより12年後に黒木とのいざこざに発展するのだがそれの説明はいいだろう。

 そんな彼は第二等級のギフト持ちだ。

 ギフト名「烈火」。炎を自在に操るパロキネシストで自然現象型のギフトだ。

 強力なギフトを持ち貴重な主人公の味方キャラである彼はシナリオ上主人公の当て馬的役割となる。

 バトルがメインのこのゲームにおいて、簡単にいうと死にやすい。

 主人公を庇って死ぬ。ヒロインを庇って死ぬ。妹を庇って死ぬ。仲間を庇って死ぬ。奇襲を受けて死ぬ。

 とまあライターに嫌われているのではないかと思うくらい主人公の黒木ほどではないにしても彼は死にやすい。

 そんな2人が私と黒木に初めて出会う場所は、何を隠そう「アイリス」だ。

 はてさてどうなることやら。




 ◇ ◇ ◇




「着いたよ、ここがアイリスだ」

 その施設は学校の寮を思わせるいで立ちだった。ただ四方を2メートルほどの壁で囲われており、正門からでしか出入りができない仕組みだ。

 まるで籠の鳥だな。それが私の児童養護施設「アイリス」の第一印象だった。

 門に向かうと1人の女性が立っていた。

「ようこそ、アイリスへ。私はここの館長を務めている桃園亜矢子です」

 館長だったのか。外見からすると20代後半から30代前半であろう彼女は人づきのいい笑みを浮かべている。ここで預かる子どもの年齢を考えたら母親役も相応の年齢の人材なのが適役なのだろう。

「姫咲凛です、よろしくお願いします」

「くっ黒木悠人です、よろしくお願いします!」

 黒木は緊張しているようだ。施設の雰囲気に呑まれたからか、目の前のお姉さんが綺麗だからかは分からない。

「あらあら、凛ちゃんと悠人くんね。私のことは亜矢子さんって呼んでね」

「了解しました。桃園館長」

「えっいや、亜矢子さんって」

「どうかしましたか桃園館長?」

「もう好きに呼んでくれていいわよ……」

「わかりました、亜矢子さん」

「……あなた、意地悪ね」

 私と亜矢子さんの軽口を黒木はぽかーんとした表情でみていた。



 門をくぐると、想像していたような物々しさはなく至って普通も施設のようだった。

 亜矢子さんとともに施設内に入る。見たところ度を超えた瀟洒、華美などではなく整然とされたホッとするような造りになっている。

「2人には部屋に向かう前に会って欲しい子たちがいるの」

「既にここに住んでいる別のギフト持ちの子ですか?」

「ええ、そうよ。2人ともいい子だからすぐに仲良くなると思うわ」

 その言葉には願望も含まれているのだろう。精神が未熟なギフト持ちは暴走しやすい。特に我々のような年代は。

 テラスや談話室、食堂などを案内されながら周囲をうかがう。

 監視員の数は2人、いや3人か。

 用務員や食堂のおばさんからの視線には歓待だけではない色が見えた。有事の際には彼らが動くのだろう。とはいってもそこまで気を払う必要はない。注視はされたがそれ以上の感情は見えなかったからな。

 要は問題を起こさなければいいのだ。

「凛ちゃん凛ちゃん、他のギフト持ちの子ってどんな子たちだろう?」

「さて、それを私に問われても困るのだが。ふむ、質問を返すようでなんだが君はどんな子たちだと思う?」

「ええ?そうだなあ、亜矢子さんがいい子たちって言ってたから、優しい子たちだと思うよ!」

「そうだな、優しい子たちだったらいいな。イケメンだとなおいい」

「ええ!?なんで!?」

「なんでもなにも我々は今日からここに住むのだぞ。同じ釜の飯を食い、寝食をともにするなら見栄えのいい相手の方がいいに決まっている。不細工な面を前にしたら上手い飯だって不味くなる」

「凛ちゃんって、不特定多数に対して急にケンカを売るようなことを言うよね……」

「君だってそうだろう、ブスな娘より可愛い娘のほうがいいだろう?」

「えっ!いや、僕はそんなこと……だって僕は……凛ちゃんが……」

 ごにょごにょとボリュームが小さくなる。ふむ、少しからかいすぎたか。

「着いたわよ」

 亜矢子さんの声で立ち止まる。個人部屋のようだ、このドア越しに彼らがいるのだろう。

 コンコンと亜矢子さんがノックをする。

「……なに」

 ドア越しに少年の警戒するような声が聞こえた。

「前に言ってたでしょう、ここに新しい仲間がくるって。今日から一緒に住むから挨拶にきたのよ」

 一時の間のあと声が返ってくる。

「……分かった」

 部屋のドアが開く。中を伺うと間取りは2人部屋のようだ。

 亜矢子さんを挟んで私たちが見えたのは警戒するような視線をぶつける少年とその後ろで恐る恐るこちらを伺う少女の姿だった。




 これが私たちの始まり。

 2人と2人が4人になった記念日。

 お互いを知り仲良くなるのはまだ先のことだが、今はただ新たなる出逢いに期待に胸を膨らませよう。

 その先の未来が輝けるものだと信じて。

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