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ヒロインは辛いよ  作者: 葵行
中等部 そしてヒーローは走りだす
18/25

凛と恭弥

「ちょっといいか」

「うん?珍しいね、なんだい?」

 中等部への入学から2ヶ月、本日全ての授業が終わりホームルームも済んだところに恭弥が話しかけてきた。

 既に人はまばらで私たちを含め数人しかいない。私も茜と夢野姉妹にショッピングに誘われたがバイトの疲れもあるので今回は遠慮した。

「これから付き合ってくれねえか?」

「こんな場所で告白など大胆だな。突然過ぎてムードもへったくれもないぞ」

「そういう意味じゃねえよ!用事に付き合ってくれっつってんだ」

 ふむ、正直疲れていたのでさっさと帰ろうと思っていたのだが恭弥が私に頼みというのも珍しい、とりあえず話を聞くか。

「それで?その用事とやらはなんだい?」

「来週、茜の誕生日だろ。贈り物選びに付き合ってくれ」

「ああ、まだ決めてなかったのかい、君?来週といってももう5日をきっているぞ」

「しょうがねえだろ、同室でもなくなったんだし、今欲しい物なんざ分からねえよ」

「駄目なシスコンだなあ、君は。まあ茜は控えめな性格だから自分から欲しい物など主張しないだろうからね」

 茜はよくできた娘さんなので極端に変化球を投げなければ何を贈っても喜んでくれると思うが。そんな妥協じゃこいつのシスコン魂は許せないのだろう。

 ちなみに私は幼馴染4人の写真が入ったペンダントを用意している。まあ、無難なところだろう。

「まあいいぞ。せっかくのデートの誘いだ、エスコートは任せるよ」

「なっ!デ、デートじゃねえよ!買い物に行くだけだ!」

「はいはい、それで?どこに向かうんだい?」

 ギャーギャー騒ぐ恭弥をなだめながら私たちは教室から出発した。





 ◇ ◇ ◇




 教室で話し込むのは人目が気になるので、私たちは学校近くにあるカフェにて具体的にどこに向かうか決めていた。

「それで?贈る品を決めてないといっても方向性ぐらいはあるのだろう?」

 アイスコーヒーをストローで混ぜながら恭弥に問いかける。

「まあな、小物にしようとは考えてる」

「いいのではないか?喜ぶと思うぞ」

 小物にはしたが何にするか決めかねてるといった段階なのだろう。シスコンの名に恥じないよう毎年バリエーションに富んだ贈り物をしているのでいいネタが浮かばないのか。

「同室の黒木には聞いたのかい?そつのない彼のことだ、もう準備はしていると思うが」

「あいつは髪留めのリボンだ。茜はサイドテールだからそれに似合う物を見繕ってきたと言っていた」

「ほう、さすが黒木だな。常に身につける物をチョイスするとはポイントが高い。茜の好感度も上昇間違いなしだ。そこのところお兄ちゃんは心配かい?」

「ハッ!悠人についちゃあ心配なんぞしてねえよ。あいつは……いや、まあいい奴だからな」

 あいつはの所で私をチラリと一瞥したが誤魔化すよう言葉を続けた。

 ちなみに黒木は本日、学校が終わるとともにボランティアに出かけた。彼は習慣としてボランティアによく参加している。人助けもできることからコツコツとということらしい。

「ともあれ小物か。そう言えば最近、愛飲していたマグカップを割ってしまったようだぞ。今は別ので代用しているが贈り物としては最適ではないか?」

「あれ割れてしまったのか。じゃあそれにするか」

 私のグラスが空になったことを見計らい、恭弥は伝票を持って立ち上がる。頼んでもいないのにそういう行動をさらりとこなすところは女性的にポイントが高いだろう。願わくは私以外の女性にしてほしいが。

「ありがとう」

「俺が頼んだことだしな」

 短い会話ののち彼は会計に向かう。では次の場所へ向かうとするか。




 ◇ ◇ ◇




 私と恭弥のカップリングは目立つ。自分で言うのもなんだが私たちは美男美女だ。男からも女からもどこかうっとりとした視線を感じる。周りには私たちは初々しいカップルだと思われているのだろう。

 それに対して私たちは周りの視線にも慣れたもので特にそれらに意識を向けるということはない。恭弥は颯爽と前を歩き私はその後ろをチョコチョコ着いていく。

 ふむ、そうだな。

「なあ、恭弥」

「なんだよ?」

 訝しげに恭弥が振り返る。

「手でも繋ぐか」

「は⁉」

 焦ったような声をだす。

「君がなんと思おうと客観的にみれば私たちはデート中だ、腕を組むのも可だぞ」

「なっ、ばっ!」

 私はこうみえてサービス精神旺盛な人間だ。多少のことなら周りの期待に応えることも吝かではない。

 私の腕がするりと恭弥の腕に収まる。割りとガッチリホールドしたから抜け出せないようだ。

 黄色い悲鳴が辺りから聞こえる。

「では行こうか、目当ての店は割りと近場にあるようだぞ」

「おまっ、ちょ力強っ!なんで抜け出せねえんだ!ああもう、ふざけんなぁぁぁ!」

 恭弥の悲鳴と面白ければ割りとなんでもいいご機嫌な私は、周りからは照れ屋な彼氏とそれを引っ張る彼女という図式になっている。

 はっはっはと楽しげな私と赤い顔ながらもどこかぐったりとした恭弥はそのような問答の末、目的の店にたどり着いた。




 ◇ ◇ ◇




「へえ、一口にマグカップと言っても色々と種類があるのだな」

「………」

「どうした、そんな疲れきった顔をして?初心な童貞ボーイには刺激が強かったか?」

「……うるせえ」

「なに、君も楽しんだのではないか?腕を組んでいた時、私の胸が当たっていただろう?この前測ったらCだったぞ。いやはや、中学生の成長とは早いものだね」

「痴女か、てめえ!臆面もなくそういうこというな!」

「失礼なことをいうね、気心の知れた相手にしかそんなこと勿論言わないさ。だが私の胸の感触もなかなかではなかったか?」

 その言葉にゴクリと息を飲んだ恭弥の視線が私の胸に集まる。

「なんだい、そんな物欲しそうな顔をして。悪いがこれ以上のサービスは頼まれてもしないぞ。そうだな、女性なら誰でもいいというのなら茜に土下座してお前の胸を揉ましてくれ!と頼むといい、可能性はなくもないぞ?」

「今まで大事に培ってきた兄妹関係が破綻するわ!ああもう、そういうのはいいからさっさと贈り物選ぶぞ!」

「はいはい」

 お目当ての品はすぐ見つけられたようだ。会計で綺麗にラッピングしてもらい店を出た。




 ◇ ◇ ◇




 開けて翌週、全員のお誕生日おめでとうの声で茜の誕生日会は始まった。

 場所はアイリス、住まいは変わってしまったが亜矢子さんの計らいで今でも私たちの溜まり場として利用している。親元に帰れない私たちの帰る場所として亜矢子さんが気を利かせてくれたのだろう。

 そんな亜矢子さんは風桜学院の女子寮の寮母として働いてる。アイリスの館長を務めていた実績もあり適任と言える。

「みんな、ありがとう!」

 茜の笑顔にみんな満足げだ。今回集まったのは私と黒木、菊池兄妹、夢野姉妹、最後に亜矢子さんだ。

 その後はケーキのろうそくの火を消し、皆が思い思いのプレゼントを渡している。

 私は既にプレゼントを渡し終え、受け取った茜の笑顔に満足したところで他のメンバーがプレゼントしている様を見ている。

「おい」

 そんなところに恭弥に声をかけられた。

「ん?なんだい?」

 同じく無事にプレゼントを渡し終えたらしく、どこかそわそわしている。

「この前の礼だ」

 そう言って差し出されたのは可愛くラッピングされた箱。

「中身は茜と色違いのやつだ。慕ってるお前と同じものなら茜も喜ぶだろう」

 ぶっきらぼうな口調にはどこか照れが混じっている。あの時私の分も買っていたのか。

「……ありがとう、とても嬉しい。大事に使わせてもらうよ」

 感謝の気持ちを笑顔で応えたら、赤い顔でそっぽを向かれてしまった。その様子が可笑しくてクスクスと笑ってしまったら、恭弥は舌打ちしたのち茜のもとに近づいていった。




 ◇ ◇ ◇




「それで?」

「なにが」

「お姉ちゃんとデートしたんでしょ、何か進展はあったの?」

「おまっ、なにいって……!」

「私からみたらお兄ちゃんも悠人くんもバレバレなんだけどなあ。私はどっちも応援してるんだけど、できればお兄ちゃんがお姉ちゃんとくっついてくれたほうが嬉しいな。

 そしたら本当のお姉ちゃんになるわけだし」

「だから……!」

「じゃあお兄ちゃんはお姉ちゃんのことなんとも思ってない?他の誰かと付き合ってる姿を見ても平気?」

「………」

「でもなあ、お姉ちゃんもよくわからない所があるからなあ。一歩引いてるというか」

「……変な女なだけだ、あいつは」

「だけど好きなんでしょ?」

「………」

「大変だと思うよー。お姉ちゃん、今でも十分綺麗なのにますます美人になっていくと思うから、どんどんライバルが増えるよ。お姉ちゃん自身も何か隠してることあるみたいだし」

「……それは俺も感じている。突然ふらりといなくなることも多いしな。あいつはバイトだといっていたが、危ないことしてなきゃいいが」

「もしそんなことになったら、お姉ちゃんを守ってあげてね。私のギフトじゃ助けてあげられないこともあるから」

「ああ勿論だ。凛だけじゃなく茜も悠人もまとめて守ってみせるさ」

「ありがとう、お兄ちゃん。……それでお姉ちゃんを落とす方法なんだけど……」

「……それはもう勘弁してくれ」

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