これから
「姫だ……」
「姫様だ……」
学校までの通学路、周りの鬱陶しい視線の先には私がいる。
小学校6年にもなると上にも下にも知り合いが増える。
結果、モテた。それはもう鬼のように届くラブレター、男からは付き合ってくれ、女からはお姉様になって欲しいと。既にファンクラブなんぞもできつつある。
恐ろしいことに大学生が花束を持って私のもとに現れたこともあった。その時は問答無用でギフトで潰したが。
半ば予想していた事態だが、こうも連日ピンクな空気にあてられると辟易する。
容姿はしかたないとして、原作の姫咲凛とはそもそも性格が全然違うじゃないか。
そう思い話を聞いたところ、男からは「姉御肌なところがいい!」、「顔を踏んでくれ、ヒールで!」、「無条件でひざまずきたい」など本当に私が小学6年生の精神だったらトラウマ一直線のぶっ飛んだ内容だった。
女からは「お姉様になって!」、「愛でたい、いやむしろ愛でられたい」、「顔!ヒールで!顔!」などやはりどこかおかしい。
……この学校には馬鹿しかいないのか?
頭痛を覚えていると、苦笑した茜が声をかけてきた。
「モテモテだね、お姉ちゃん」
「なに、有象無象の愛の囁きより、茜にお姉ちゃんと呼ばれるほうが私には尊い。
それに君も下級生の子に告白されたそうじゃないか。恭弥が骨の一片まで燃やし尽くすと息巻いてたぞ」
「あはは、お兄ちゃん大げさなんだから」
いや、あれはマジだった。この場にはいない、黒木とともに日直の仕事で朝早くでかけたシスコンを思い浮かべる。
そういう茜も美しく成長した。美幼女から美少女へと花開くように。実際隠れファンも多い。
同様に恭弥もモテる。相手をしている人間が私と黒木、あと妹の茜のみのため遠巻きに眺められ孤高の王子といった感じだ。
黒木も恭弥ほどではないがモテる。朗らかな性格と元々の顔の作りはいいため、人づきのいい少年に成長した。恭弥との違いは近づいてみて良さが分かるところだ。
これらに夢野姉妹が加われば、美形集団の完成だ。美形も個人ならともかく集団ともなると近寄り難い。
現在もこの6人で行動することが主となっている。
◇ ◇ ◇
ギフトの授業は黒木にとっては辛い時間だ。
「おおお!」
「何度やっても無駄だ、そう力んでもでるのはウ○コだけだぞ」
「あの……凛?女の子なんだからもう少しオブラートに包んで?」
「アプローチを変えろと言っているんだ、ギフトの力に指向性を持たせろ」
「でもさ、僕のギフトが発現してもう8年になるんだよ?色々試したけどなに一つ分からないなんておかしいよ」
「おかしいことなんてないさ。君のギフトは特殊型だ、そのギフトには発動条件があるのだろう」
現在はギフトの授業中だ。指導員が見守る中、生徒が思い思いに訓練している。
その中でも私と黒木はアンタッチャブルな存在だ。我々は特殊型であるため指導できる人員がおらず、優秀なギフトを持つ私と違い、ギフトを発動すらできない黒木は腫れ物のような扱いだ。
そのため、同じ特殊型である私が黒木を指導している。
ちなみに黒木は私たちにちゃんやくんづけをやめた。曰く子供っぽく見られたくないかららしい。その際、チラチラと私を見ていたが意図的に無視した。立たないぞ、私のフラグは。
「条件……条件かあ、なんだろう?」
「死んだら生き返るとかかもしれないぞ。どうだ、一回死んでみるか?」
「そんな一杯いっとく?みたいに言われても……」
「なに、痛いのは最初だけさ、後は私に身を任せてくれるといい」
「あれ?おかしいな、死ぬ方向へ話が進んでるぞ?それ確実に凛が僕を殺してるよね?」
焦ったように黒木が後ずさる。
「はあ……僕は真剣に悩んでるのに」
「何をいう、私だって真剣に君のギフトについて考察してるぞ。
とにかく条件が発動の鍵だ。以前言ったように彼女の浮気をメールでリークしてくれたりな」
「今はその可能性も否定できない自分が腹立たしいよ……」
「安心しろ、もしそんなギフトだったら指差して爆笑してやるから」
「人ごとだとおもってぇぇぇ!」
うわぁんと崩れ落ちる黒木。はあ、しょうがない。
黒木に近づき、耳元で囁く。
「心配はいらない、君のギフトは第一等級だ。そんな安っぽい能力なわけあるまい。
だからそう落ち込むな、発動条件があることぐらいでなんだ。
私は君のギフトが素敵なものだと確信しているよ」
第一等級であることは秘匿せねばならなかったから至近距離でそう話す。
語り終え、彼から離れると俯きがちなその顔は赤みを帯びていた。
「うん……ありがとう、凛」
ようやくその表情に笑顔が浮かぶ。
やはり自分だけギフトが使えないというのは相当なストレスなのだろう。定期的に発破をかけてあげなければ、挫けてしまう。
「では再開するか。色々試してみよう、回復系のギフトかもしれないな。どれ、指でも詰めてみるか」
「いきなりハードルが高い!?軽めで!最初は軽めのやつからお願いします!」
◇ ◇ ◇
そうして私は成長していく。
アイリスや学園での平穏もアイギスの仕事も私にとっては日常だ。
日常?フッ思わず笑みをこぼす。
本来、姫咲凛はアイギスに所属することなどない。むしろ彼らに守られる側の人間だ。
私の投げた石は波紋となり人を町を世界を変える。
既にシナリオは狂い、正常に戻ることはない。
私は物語の歯車にはならず世界は新しい様相をみせている。
ならば私の目的は達成させることができたといえるか?
……否、まだだ、まだ足りぬ。
世界は破綻させた。では次だ。
混沌としたシナリオを優しく配列させ、私の望む未来を描く。
では踊ろう、演者諸君!
目指す場所はただ一つ、私はハッピーエンドが好きなのだ。
誰にとってのハッピーエンドかは……さて。
待たせて悪かったな黒木。
場は整えたぞ、本来は君の物語なんだ。
時は早まるが、君の出番だ。私と一緒に踊ろう。
なに、多少不恰好でも笑ったりしないさ。
言っただろう?私はいつも君の未来に祝福があるよう祈ってるって?
この話で幕間が終了です。
引き続き「ヒロインは辛いよ」お楽しみください。




