夢野姉妹
すくすくと成長した私たちは、小学校に入学し今年で2年生になった。
そんな折、彼女たちは現れた。
「初めまして、夢野響です!」
「初めまして、夢野音羽です」
双子の姉妹。彼女たちの登場で原作に近づいていることを実感した。
「2人とも今日からこのクラスでみんなの仲間になります。仲良くしてね」
亜矢子さんが私たちにそう告げる。
そう亜矢子さんもいるのだ。彼女は我々の監視員も担当しており、このクラスで担任を務めている。
その姿は様になっており、私生活はともかくとして仕事人としては優秀な人間のようだ。
ともあれ、夢野姉妹。未だ幼い彼女たちは原罪のクオリアのサブヒロインだった。
◇ ◇ ◇
私たちが入学した風桜学院は小学校から大学まであるエスカレーター式の学校だ。
全体の特徴としては所属する生徒が全員ギフト持ちのため生徒数が少ないこととギフトの授業があることだ。
その中でも小学校は特に特殊だ。まず、入学式が行われることは殆どない、というより私たちが初めてだった。
これはまあ仕方のない現象で、ギフト発現の殆どが小学校高学年で発現するのでここの生徒は転校生ばかりだ。
生徒数は6年生から順に10、8、5、4、6、0と少なくなっていき1年生に限っては1人もいない。2年生が少し多いのは私たちの存在が大きい。
さて、そんな4人から6人になった私たちは休み時間、夢野姉妹と自己紹介をしていた。
「じゃあ響ちゃんと音羽ちゃんは家族みんなで住んでるんだ」
「そう!お父さんがギフト持ちだから私たちのギフトが見つかって、一緒にこの街に住むことになったの!」
「でも本当に生徒が少ないのね。前の学校と比べるとびっくりしたわ」
「あはは、私たちは最初からこの学校にいるから違いは分からないや」
今は黒木と茜が夢野姉妹と談笑している。姉の響は明るく快活で妹の音羽はおとなしめの性格のようだ。
「お前は混ざらないのか?」
と私と同じくすこし離れた席で様子を伺っていた恭弥が話しかけてきた。
「なに、これから同じクラスになるんだ。話す機会は幾らでもあるだろう」
「……珍しいな、率先して混ざりにいきそうなものなのに」
「もちろん私だって彼女らと仲良くなりたいさ。
だけど君ら兄妹と違い、特殊な事情なんてない彼女らに一気に距離を詰める必要はあるまい。
徐々に仲良くなればいいのさ。革ジャンみたいに」
「例えが分かりやすいのかそうでもないのか知らねえが、まあそういうもんだよな、友達なんて」
フッと笑みをこぼす恭弥。
最初に会った時と比べたらずいぶん丸くなったなー、こいつも。
ガラッと教室のドアが開き、亜矢子さんが入ってくる。
「みんなー席についてー、授業始めるわよー」
その言葉でそれぞれの会話は打ち止めになった。
◇ ◇ ◇
夢野姉妹のギフトは姉の響が「反響」、妹の音羽が「音響」というどちらも音に関する第三等級のギフトだ。
「反響」は音を届ける、遠く離れた場所からの声でもまるで隣で喋っているかのように聞こえる。
「音響」は音の増減、つまり大きい音から小さな音、高い音から低い音まで自在に操作することができるギフトだ。
両方とも自然現象型のギフトで有用だが殺傷能力は低いまさに第三等級のギフトと言える。
そんな彼女らの夢は、
「歌手?」
「そう!私と音羽ちゃんのデュオで歌手デビューしたいの!」
「姉さんの言うとおり、ギフト持ちとしては初の歌手ね」
時刻は放課後、私は現在クラス委員として夢野姉妹に学校を案内している。
「私たちのギフトで世界中に歌声を届けたいんだ!」
「まあ、私たち可愛いから多少歌が下手でもそれなりの集客数は望めると思うし」
「もう!音羽ちゃんはまたそんなこと言って」
真っ直ぐな姉と違い、妹のほうはすこしひねてるようだ。2人で活動するというのだからこれはこれでバランスがいいのかもしれない。
どちらもその夢に対して並々ならぬ強い憧れが見てとれる。
ギフト持ちというのは強固なステータスだが、そうではない者たちからの差別や偏見は未だ根深い。人前に出るならなおさらだ。険しい道になるだろう、そう思う。
ちなみに彼女らのルートは主人公である黒木が彼女らの夢の手伝いとしてマネージャーになり、西へ東へ奔走する過程で響か音羽、あるいは両方と恋仲になるといった話だ。
だがまあ、未だ分からぬ未来のことは置いておこう。
「素晴らしい夢だ。今のうちにサインをもらっておいたほうがいいのかな?」
「いいよ!いつでも書いてあげる!」
「売ったりしちゃだめよ?」
今はただ彼女らの夢が叶うことを祈ろう。
「凛ちゃんはなにかなりたい夢ってあるの?」
そう響が聞いてくる。
「そうだな、私のギフトは『鎮圧』だから、あらゆる人をひざまずかせてアゴで使う人間になりたいな」
私の言葉に響はどこか引いたような顔をして、音羽は尊敬するような眼差しで私を見る。
その様子が可笑しくて、冗談だ、と笑って否定した。
◇ ◇ ◇
案内が終わり夢野姉妹と別れを告げた私に女性の声が届く。
「姫、出番」
そういえば彼女も音に関するギフトだったな。
「了解、場所は?」
「そこから2時の方向、3キロ先」
「森の中か、敵戦力にギフト持ちは?」
「いない、AGの連中だと推測。今少し移動した」
「なに、既に見えている」
数秒の会話のうちに移動を済ませた私は彼らの前に降り立つ。
「やあ、お客人。風桜の町へようこそ。だがいけないね、ここはこの町の出入り口ではないよ。道にでも迷ったのかい?」
「なっ!女の子……?」
相手の返事は聞かずに意識を刈り取る。
「状況終了、別働隊は?」
「宮が向かってる、今敵勢力の殲滅を確認」
「やれやれ、この町も物騒になっていくね」
「だからこそのアイギス、そこに捕縛する人員を向かわせるから、姫はそこで待機」
「了解」
通話を終え、考えたことは今日の献立がすき焼きだったことを思いだし、無事に夕食にありつけるか、という心配だった。




