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ヒロインは辛いよ  作者: 葵行
幕間 アイリスでの日々
14/25

視察

 その日は全体的にアイリスが慌ただしかった。なぜなら風桜町の町長が視察に来たからだ。

「凛ちゃん、町長さんって偉い人なの?」

 黒木が無邪気な質問をぶつけてくる。

「ああ、偉いぞ。私の次ぐらいに」

「うわあ、じゃあすっごく偉い人なんだね!」

 どうやら黒木はアイリス内でのヒエラルキーの頂点に立つ私を過分に評価してくれているみたいだ。ちなみに底辺は亜矢子さん。

「……凛ちゃん、お願いだからくれぐれも、くれぐれも!失礼のないようにね」

「なにを言う、ご近所さんにもあの子は礼儀正しいいい子だと評判の私が失礼などするものか」

「……胃が痛くなってきたわ」

 亜矢子さんのストレスの上昇はとどまるところを知らない。

 そうして、アイリスの門前にて町長の到着を待っている我々アイリス全住人の前に、一台の高級車が止まる。

 中からでてきたのはナイスミドルな1人の男性とその護衛らしき男性が2人。

 ダンディなおじさまは私たちに緊張を解くような柔らかい笑みを浮かべている。

「初めまして、風桜町で町長をしている種崎修です。今日は皆さんの生活を確認させてもらいに来ました。だから皆さんも緊張せずいつも通りに生活してください」

 いつも通りか。いいんすか?やっちゃうよ?

 彼の挨拶に応えるように亜矢子さんが一歩前に出ようとする。それを、

「やあ、わざわざよく来てくれた町長殿。歓待するよ。

 なにもない所だがくつろいでいってくれたまえ」

 インターセプトォ!

「凛ちゃぁぁぁん!?」

 亜矢子さんも私の失礼のない完璧な挨拶に涙を流して喜んでいる。

 種崎氏はキョトンとした顔から破顔して笑う。

「ははは!面白い子だね。うん、今日1日楽しませてもらうよ、お嬢さん?」

「ああ、楽にしてくれるといい。なに、退屈はさせないさ」

 ダンディなおじさんと幼女がまるで対等の会話をするというシュールな光景に、護衛は戸惑い、黒木は尊敬するような視線を私に向け、恭弥は頭を抱え、茜はひたすらオロオロとしていた。

 ちなみに亜矢子さんは真っ白に燃え尽きていた。




 ◇ ◇ ◇




 場所は談話室に移り、私は亜矢子さんに種崎氏に向けて頭を下げさせられていた。

「すみません!もう本当すみません!」

「何を謝る必要がある、亜矢子さん?ああ、最初に上手く挨拶できなかったことを悔やんでるんだね。なに、気にすることはない。人は失敗から学ぶ生き物なのだから」

「黙らっしゃい!」

「むう、終わったことをぐちぐちと、ねちっこい女性は男性に嫌われるぞ。そんなんだから婚期が延びるんだ」

「……ぶっていい?児童虐待とかに喧嘩を売るほどフルスイングしたいんだけど」

「おじちゃ〜ん、亜矢子さんがいじめるぅ〜」

 とひしっと種崎氏に抱きつく。男性特有の香水のにおいが鼻腔をくすぐった。

 種崎氏は私の頭を撫でながら、亜矢子さんに向き合う。

「なかなか個性的な子のようだね。私のことはいいから、そう怒らないでやってくれ」

 その言葉に亜矢子さんはなにも言えなくなったのか、意識を切り替えて毅然とした態度をとる。

「はい、では改めてアイリスの館長を務めさせていただいています桃園亜矢子です」

「そうか、改めてよろしく。では早速見回らせてもらおうか」




 ◇ ◇ ◇




 その後はこれといったトラブルもなくつつがなく視察は終わった。

 亜矢子さんは私の行動に怒りが収まらないようだったが、最後に種崎氏が有意義な時間だったと言ってくれたため大目にみてくれた。

 種崎氏が帰った後はいつものアイリスだ。夕食後にはそれぞれ好きな行動をし、夜10時頃には皆就寝した。




 ◇ ◇ ◇




 深夜1時、森にほど近い公園。

 人気もなく明かりは備えつけの電灯と月の光のみだった。

「〜♪」

 その公園のベンチで鼻歌混じりに足をプラプラさせていると、公園の入口から月の光に照らされて目的の人物が現れた。

「……やはり君か」

「やあ、種崎氏。もう昨日ぶりになるのかな?よくきてくれたね、歓待するよ」

 朝の挨拶をなぞるかのような私の言葉に彼はフッと笑みを漏らす。

「立場上、それなりに気をつけているんだがね。抱きついてきた時かい?」

 と、彼はポケットから紙切れを取り出す。

「素晴らしい推理だ、明智くん。その口ぶりだとここにくる前から私だと分かっていたようだね」

「さて、どうだろうね?」

 彼と私の距離は3メートルほど。ここから見上げる彼の顔は警戒していたが会話を楽しむ余裕は持っていた。

「護衛もつけずに1人でここにこいとは。やれやれ、私はこれでも多忙なんだよ?」

「それについてはすまないね。人の目が届かない場所で話したかったのさ。それにこんな夜更けに、あなた程の年齢の男性が私のような幼女と一緒にいる姿を見られたらそれだけで事案が発生するよ?」

「確かに、それは怖い」

 軽妙な軽口の応酬だったが空気はどこまでも緊張を孕んでいく。

「それに……その紙に書かれていたことには続きがあるだろう?」

「………」

 その言葉で彼の顔つきが明確に変わる。

「……君は何者だ、なぜあのことを知っている。そもそも常時見張られているあの施設からどうやって抜け出せた、そして……なにが目的だ」

 何者か、ねえ。

「せっかちな男だな、あなたは。そういっぺんに質問しなくて一つ一つ答えてあげるよ」

 ここからが重要な場面だ。気を抜くな、常に余裕を持て。

「知ってはいるとは思うが私の名前は姫咲凛、第一等級のギフト持ちなただの美幼女さ」

 そうして座っていたベンチから立ち上がる。

「『アイギス』について知っていたのは企業秘密だ。まあ情報は悪用しないから安心してくれ、といっても無理だとは思うが」

 彼は私の語りに警戒しながも耳を傾けている。

「それにあなただって護衛は無用だといったのに3名ほど連れてきてるじゃないか。悪いが無粋なので退出させてもらったよ」

「なッ!」

「なに安心したまえ、丁重に送り出したから怪我などはしてないよ。どう施設から抜け出したかだったね。それはまあ、手品が得意なのさ」

 そして、

「私の目的は……自分の売り込みだよ」

「なに……?」

 では本題だ。




「君の駒に、可愛い第一等級のギフト持ちの美幼女は欲しくないかい?」

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